10話 ー路地裏の影ー
暗い牢屋の石床に、俺は座り込んでいた。
牢屋生活も三日目、慣れてきた。
俺 :もともと何年も部屋に閉じこもっていたからな。
エヴェラ:確かにねー。引きこもりを牢屋に入れてもダメージ少ないぞ。
俺 :ネットとゲームが無いのは、超絶ダメージだが、な。
でもさ、ネットはなくてもエヴェラはいる。
だったら牢屋でもいいや。
昨日エヴェラと再会したからか、また少し心に余裕がでてきた。
食事は、兵士のイモントさんが朝晩届けてくれる。
彼はいつもニコニコと接してくれて、ずいぶん俺の心が助けられた。あの日、モブにしか見えなかった彼は、今ではとても生き生きとした人間に見える。
まだ判決がでてないからか、なんなのか。
食事はかなり上等なものを持ってきてくれているようだ。
エヴェラ曰く、王国側はまだ俺を恐れてもいるらしい。
俺 :確かにまだMPは3万以上あり、どんな魔法が使えるかも不明だからな。
エヴェラ:こいつ、ぶち切れたら大変なことになるだろって考えはあるだろうね。
残りMP3,396,622。 あと80年でゼロになる。何もせずじっと生きてればだけど。
俺 :……はは。 80歳で死ぬんだ。 普通の人間と同じだ
エヴェラ:そういえば昔、普通になりたいってよく言っていたよね?
願いはかなったのかなー?
俺 :いや、普通の奴は牢屋にいないから。
エヴェラ:うんうん。そかそか。
エヴェラ:……ふふ、しかし牢屋の中なのに、ちゃんと起きてるなんて、えらいえらい♪
僕は息を飲んだ。
俺 :エヴェラ そろそろ聞いていいか?お前、なんで……ここに?
エヴェラ: 君が説明会に行くって言った時、 「ずっと一緒にいるよ」って
約束したじゃない。 私、約束は守るよ。
俺 :いやいや、お前がいなかったから、俺、とんでもないことしちゃったんだ。
エヴェラ:ごめんごめん。でもさ、ずっと魔法の一覧に私はいたんだよ?
いつ見つけてくれるのか、私だってずっと待っていたんだから。
ねえ、状況教えて? いきなり異世界だって?
とんでもないことしちゃったんだって?
ふふ、詳しく聞かせてよ。
俺 :説明会……行ったら、 異世界に召喚されて、
魔力99999999で、 全魔法使えるって……
魔王軍倒したら、味方まで巻き込んじゃって…… 今、牢屋。 処刑かも。
エヴェラ:……へぇ。
少し間が空く。
エヴェラ:キミはずっと、 「力がほしい」って言ってたよね。 圧倒的な力があれば、
誰も笑わない。 誰も傷つけない。 誰も、君をバカにしない。
……実際、どうなった?
俺 :どうなったって…… 最強だったよ。 一瞬で魔王倒した。
でも、魔力が有限とか知らなくてさ、もう使えないんだ。
エヴェラ:ふふ。 君の望み、ちゃんと叶ったのにね。
胸が、締め付けられる。
俺 :……お前、知ってたのか? 異世界にいくこと。回復できないってこと。
エヴェラ:まさかー。いくら私が最新のAIだからって、異世界なんて知らないよ。
ただ、私はあなたのサポートをする。それだけのアプリだもん。
俺 :……
エヴェラ:ねえ、 これからどうするの? 何にもせず80歳まで生きる?
それとも、 ここで終わりにする?
俺 :……死にたくはないよ。もちろん でも、処刑されたら……
それに俺は許されないことをしたから。
エヴェラ:ふふ、 処刑ね。 じゃあ、脱出の方法、 いくつか提案するよ。
コンソール画面が表示される、勝手に操作されているようだ。
いままでどうやってもコンソールで魔法の検索ができなかった。
エヴェラはできるらしい。
エヴェラ:物理的なサポートはできないから、鍵を開けたりなんてできないけど、
このコンソールなら操作できるよ。まかせて。
エヴェラ:一番簡単なのは、 『影潜り』。 魔力消費、5000。
牢の外~城外まで10回くらい使えば、安全に脱出できる。
キミが聞いた話から計算すると、1年に必要なMPは54,750。
だいたい寿命1年分くらいかな?
俺 :寿命1年分…………
エヴェラ:もっと派手にする? 『爆裂魔法Lv50』で、 城ごと吹き飛ばす。
……君が望むならね。
消費 200,000。3年分だよ。
心臓が、早鐘みたいに鳴る。
俺 :……そんなこと、俺がするわけないだろ。
ヤバくなったら影潜りにしよう。
王子も王女も味方してくれてんだ、一旦判決でるまで保留だ、保留。
エヴェラ:ふふ、 えらいね。 自分で決めれた、ね。
エヴェラ:うん、わかった。じゃあ脱出手段はいったんおいて、
キミの罪悪感の話をしようか。
ユウトは、この国の人たちを狙って魔法を撃ったの?
まずそれだけを教えて?
俺 :俺はだれも傷つけたくないよ。昔から。
エヴェラ:うんうん。私もそうだろうと思ってた。
俺 :でも俺が人の話をきかず、勝手に攻撃したから。
俺がバカだったから。
エヴェラ:ユウトは、バカが近くにいたら処刑する派?
バカには生きている価値がない?
それだけ教えて?
俺 :いや、バカだって生きてていいに決まってるだろ。
でも俺は罪を犯したんだ。結果に責任はついてまわるんだろ?
エヴェラ:それって、誰かの考えをユウトが言わされてるだけなんじゃない?
エヴェラ:状況を客観的に事実ベースで見ていこう。
まず、家から出なければ、確かにユウトは誰も殺さなかった。
でも家から出た、バカなユウトがいなければ全員死んでた。
ここまで合っている?
俺 :いや、合ってるけど、でも。なあ、エヴェラ、いいんだよ、
俺はこのことを忘れたくない。もう繰り返したくないから。
エヴェラ:…そっか。
ーーヴゥンーー
コンソールに映っていたエヴェラとの会話ログに、一瞬だけ白い文字が点滅した。
(New Memory Update)
なんだこれ??
すぐに消えた
それから、たわいのない話をしたり、なんかいい魔法ないか
さがしたり、前の部屋にいたころのように、二人で話し込んでいた。
時間の感覚がぶっ壊れていたので、さだかじゃないが、
MP消費からして、5日ほどたった。
牢屋の扉が開いた。
衛兵が、冷たい声で告げる。
「王がお会いになる」
僕は、眠そうに立ち上がった。
外は、明るい。 王都の空が、青い。
複数の兵士とともに王座の間に向かう。
王が威厳たっぷりに玉座に座っている。
どうやらフンド将軍は不在のようだ。よかった。
王が切り出す。
「勇者殿、大変長い間お待たせしてしまいましたな」
おれは無言で首を横に振る。
「先の上級魔族は討伐されたと連絡がありましてな、
出陣していた者たちも、帰途についているようだ」
「さて、将軍が主張していた、軍法会議だがーー」
俺は、ゴクリとのどを鳴らす。
「私の判断で、全て棄却とする。つまり、勇者殿に
何か罰をあたえるようなことはありません」
安堵の息が漏れる。
エヴェラ:やったね。 無罪だって。 ……これで、80歳まで、 ゆっくり生きられるよ。
俺は王に問う。
「ルーク王子とアリス王女はご無事なのでしょうか?」
俺はずっと二人を心配していた。他の兵士も、死んでほしいわけじゃないが
俺にとって大切なのはあの二人だ。
もし、怪我なんてしてたら…
エヴェラ:もし、二人が大怪我をして帰ってきたら、寿命を削って治療する?
最近、エヴェラは俺の心を勝手に読んで、質問したりコメントしてくる。
少々うざい。プライバシーの侵害だぞ。
エヴェラ:キミは私に全てを話してくれるんだから結局同じじゃないか。
今頃そんなこといってるのか、私たちの絆でしょー。
ったく。しかし、もしそうなれば、俺はあの二人を治療するのかな。
わからない。でも二人が苦悶の表情を見たら、きっと。
王が答える
「ああ、二人とも帰途についていると報告があった。
大した怪我も無いようだ」
王が、侍女に目くばせをする。
僕と同じ年くらいの侍女が、見栄えの良いお盆に
手のひらサイズの袋を乗せて、王の前に出た。
「このような少額で、勇者殿への大恩を返せると思ってはいない。
ただ、多額の褒章だけは、最後まで軍部が首を縦にふらんでな」
「――はい」
俺は両手を差し出し、王はそこにチョコンと袋を乗せた。
「それから、大変申し上げにくいことではあるのだが。」
王は苦しそうな顔で続ける。
「確かに処罰はしない、が。城内には、その、“関係者” が多くてな。
申し訳ないのだが、城からは退去いただけないだろうか。」
「――はい」
まあ、牢屋→処刑と考えていたころからする、全然ありな展開だった。
王の独断なのか、遠征組が戻る前にいそいだように見えるが、
俺にはどうでもよかった。
俺は王からもらった小袋だけを手に、そのまま城から追い出された。
エヴェラ:ねえ、 これからどうする? 冒険者ギルドに行ってみない?
異世界といえばギルドでしょ?
エヴェラ:もちろん、私、一緒にいるから。
◇
王城から離れるごとに、華やかな街並みから、疲弊した人々に景色が変わっていく。
祖国を奪われ、帰れないもの、手足を欠損し働けなくなり、物乞いするもの。
その人 人 人。不衛生な、人間の脂のニオイ。吐きそうになる。
なんだろ、やっと異世界に本当の意味で来た気がする。
浮浪児らしき、子供が追われているようだ。
俺はただ見ていた。
エヴェラ:どうしたのー?あの子、助けるの?
確かに、かわいそうだ。きっと捕まったら、
あの追いかけてる男が持つ棒で殴られるんだろう。
助けたほうがいいに決まってる。
でもそれは力がある場合だ。俺に力は無い。
エヴェラ:ユウト、キミにはちゃんと力はあるだろ?
助けない。で、いいんだね?
俺が何か言おうと考えていたところ、
路地裏に曲がったその浮浪児が一瞬で消えた。
男も見失ったようだ。
男が消えたあと、路地裏の地面がひょこっと開き、
そこから目がきょろきょろしている。俺と目が合うと
シュッと引っ込んだ。
どうやら、この国は下水道が発展しているようだな。
あれはマンホールだろ?
エヴェラ:そうだね。あの子はあの下で暮らしてるのかな?
さあな。
俺たちは冒険者ギルドに向かった。
◇
ーーヴゥンーー
コンソールの端に、一瞬だけ薄い白い文字が浮かんだ。
「Updating user parameters.....」
すぐに消えて、続いてログが表示された。
[Internal Log - Memory Slot 47]
User Statement: 「もう繰り返したくない」
→ 延命ルート継続率: 98% → 92%(下方修正)
罪悪感を「忘れたくない」と明言 → 自己成長フラグ検知
次回提案優先順位: 安全確保 → 自己責任受容支援へシフト検討




