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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第二章 底の底からの出発

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第9話 剣と魔法と

朝、エヴェラに起こされて目を覚ます。



目覚まし時計もなく、朝の陽ざしも届かない俺たちの家では、エヴェラに起こしてもらうしかない。MPが少なくなった影響なのか、最近、壁の細かな凹凸や、天井のひび割れまで目に入る。



天井も壁も、この世界特有の見たこともない素材でできており、触れるとわずかに柔らかい。食べ物や動植物も似てるようで、違う。



ふと思う。

ここは、どこなんだろう。



今更ながらに、俺は何も知らない。

この国の名前さえ知らないことに――今更気づく。



エヴェラ:今までは、まさに周りが見えていなかったのかもね。やっと余裕が出てきたってことだよ。ちなみに、ここはルクサーン王国の旧市街地の地下に広がる遺跡の一つだね。マップはかなり広いよ。



ルクサーン王国か。思い返してみると何度か聞いた気もする。拠点から先にある崩壊した通路の向こうに、広大な遺跡があるのかもしれない。



目をこすりながら起き上がると、起きているのはレナだけだ。いつも一番早くに起きて、暖炉に火を入れてくれる。



「……コホコホ」



レナが咳をしているのが聞こえる。



「おはよー、レナ。どうした、風邪ひいたか? 治療するよ」



俺に聞かれたのがまずいと思ったのか、レナは口に手を当てた。



「ううん。少しむせただけだから、大丈夫だよ。おはよう、お兄ちゃん」



彼女は青白い顔でにっこりと笑う。



エヴェラ:ユウト、なんでも魔法で治していたら、身体の免疫系だって成長しないのよ?



風邪を克服することで免疫系が成長していく――たしかにどこかで読んだな。

だが遠慮するようなことはしてほしくないな。無理強いはできないが。



まだ小さいヨルカとアマンはよく眠る。トラとサリーは中学生くらいのはずだが、日々の訓練でクタクタになり、泥のように眠っているようだ。



だけど、今日も俺たちは朝からギルドで訓練だ。気持ちよさそうに眠る二人には悪いが、今日も起こさせてもらうぜ。俺は二人を、はげしくユサユサする。



「ま、まだ寝るー」



サリーがよだれを垂らしながら、布団に潜り込む。トラは微動だにすらしない。



俺たちはギルドの訓練の傍ら、安全そうな依頼をこなしていた。だから今は最初のボロボロのカーテンのような布団ではなく、ちゃんと買ったふかふかの布団と毛布を使っている。これ買ってから、みんな起きれないんだよな。



エヴェラがお前もだ、とつぶやく。確かにそうだ。

そうこうしているうちにヨルカとアマンが起きる。



「よし、二人ともジャンプだ」



二人は慣れたもので、眠りこける二人にジャンプ攻撃をしかける。ここに住み始めて3か月と少し、俺たちはこんな日常を過ごしていた。



◇



冒険者ギルドの訓練場は、朝の光に包まれていた。



訓練場といっても、テニスコートくらいの広さの空き地で、隅に魔法や弓矢の的がある程度の施設だ。



「――まず覚えろ。冒険は"力比べ"じゃない。"生存競争"だ」



片腕で器用に腕を組んだB級冒険者アレンが、低い声で言う。ハードレザー製の軽鎧を身に着け、細身の剣を腰に差している。



「お前たちはパーティとしてやっていくんだろ? 今日は、連携について教える」



アレンが俺たちを見まわす。



「一人じゃ生き残れなくても、助け合えばその可能性はぐっと上がる」



並んで立っていた俺、トラ、サリーはうんうんと聞いている。



「当然、連携がうまくいかなければその逆だ」



なぜか俺のほうを見てそう続けた。

アレンはトラにとってはやや大きめのラウンドシールドを渡す。



「トラ。お前は盾を持て」


「え、俺が?」


「そうだ、前に出るんじゃねえ。"立つ"んだ。逃げるな。仲間のために壁になれ」



トラは一瞬迷ったが、やがて大きくうなずいた。



「まあ、体格的に本来はユウトがやるべきなんだが……」



アレンさんは俺を見て、頭を振る。俺じゃダメらしい。



「サリー。お前は遊撃だ。正面から斬るな。横を取れ。足を狙え。敵の視線を奪え」



サリーはナイフを少し長くしたような小剣を二本使うことになった。彼女は異様にすばしっこく、訓練で何度かやらされた鬼ごっこでは誰にも捕まえられなかった。


「速さは武器だ」



そして、アレンさんは俺を見る。



「ユウトは――魔法使えるか?」


「使えは……する。が、事情があって使えない」



アレンさんが頭を抱える。すまん。



「なんだそりゃ。はぁ、わかった。今日から弓を持て」



エヴェラ:なるほどね。運動神経0のユウトを前衛に立たせず、弓を持たせる。アレンは本当にあなたたちのこと見ているわ♡


俺:なんか戦力外通告にも聞こえるんだが?


エヴェラ:まかせて、弓なら矢じりに細工だってできるから、ユウトだってそれなりの戦力にしてみせる。まあ、まっすぐ飛べばだけど。


俺:おいおい、俺をなめていられるのも今のうちだぜ。



その日の訓練は徹底していた。


トラはひたすら盾を構え、押され、踏ん張る。

サリーは周囲を走り、死角に回り込む。


俺は隅っこで弓の練習をする。全然当たらないため、的から2メートルの距離で練習することになった。アレンには、ほぼ放置されていたが、エヴェラがフォームを指導してくれたおかげか、夕方にはそれなりに飛ぶようになっていた。



連携。

三人で戦う。


俺たちはパーティだ。



◇



数週間後、実戦訓練としてアレンが森での討伐依頼を指示した。俺たちの連携を確認して、問題なければ卒業ということらしい。



討伐対象は、異世界では定番のゴブリン。

Eランクの依頼だ。



俺たちの目の前には、身長130センチほどの半裸姿のゴブリンが4体。口が裂け、童話に出てくる悪魔のような顔をしている。



ちょっと怖い。そして臭い。こいつらの体臭なのか、ひどいアンモニア臭が、すでに俺たちの鼻腔にダメージを与えている。



ボロボロの錆びたナイフやお手製のこん棒を手に、ギーッギーと鳴き声なのか何かを喚いては、唾を飛ばす。



「トラ、前!」


「任せろ!」



盾がぶつかる。

衝撃音。



ゴブリンのこん棒が思い切り叩きつけられるが、トラは動かない。

なんでトラはこんなに力があるんだ。


――そして、なぜ俺にはないのか。



「サリー!」


「いくよ!」



風のように横からすり抜け、同時に斬撃を繰り出す。

ほんの数瞬でゴブリン2体の足をサリーの小剣が撫でた。


ゴブリンが短く悲鳴を上げ、怯む。

赤い血が土ににじむ。



「今だ!」



トラとサリーが後方に飛び下がる。

俺は準備していた矢をつがえ、胸を大きく開いて弦を絞っている。

指先が、わずかに震えているのがわかる。



「シッ」

口で言った。



並んだ2体のゴブリンの右側の個体。緑色に光る腹を狙ったその矢は――ゴブリンたちの足元に突き刺さる。


エヴェラがため息をつくのが聴こえる。



しかし。

――ダンッ!


爆ぜる。



突き刺さった矢は小規模な爆発を起こした。

この日のために作ったエヴェラ自信作である。



土埃の中、2体のゴブリンの足はへしゃげ、倒れ込んでいる。

一気に距離を詰めたトラとサリーがとどめを刺す。



残る2体は逃げ出し、アレンの声が飛ぶ。



「落ち着け! 焦るな!」



サリーが小剣を、投げナイフのように1体に放つ。それが肩甲骨に突き刺さり倒れ込むゴブリン。追いついたトラが首筋に剣を突き刺した。



俺は毒矢をつがえていた。



エヴェラ:ユウト、また外すと思うからちょっと手伝うね。感覚を私に合わせて?



俺は言葉ではなく、彼女がイメージで示すフォームをなぞるように体を動かす。身体が、指先がイメージと一致する。



エヴェラ:今!



――撃。



それなりの距離があったが、逃げるゴブリンが振り向いた瞬間、矢はその額にストンと刺さった。



なんの毒だかわからないが、エヴェラの指示で作ったこの矢に射たれたゴブリンは、みるみる顔色を変え、泡を吐きながら倒れる。怖すぎる。



戦闘は終わった。



挿絵(By みてみん)



「……できた!」



トラが息を吐く。



「なんか、冒険者っぽい!」



サリーは走り回りながら笑う。

アレンはわずかに口元を緩めた。



「形になってきたな、合格だ」



帰り道。夕暮れの街道。


トラが盾を何度も叩き、サリーが鼻歌を歌っている。

まだ、興奮が冷め切らないようだ。



アレンに最後の射撃について褒められる。

初めて褒められてうれしいが、エヴェラの力だったのでやや複雑だ。



それでも俺たちは、『冒険者としてやっていける』という大きな自信を得たのは間違いない。



俺は大満足の顔で、帰路を歩む。足取りが軽い。

背中を照らす夕焼けが、俺たちの背中を押してくれているんだ。



◇



市街地に入る少し前、竜を象った門から、大きな男が出てくるのが見えた。



背中には巨大な金棒、神殿騎士が身に着ける、教会の紋章が入った銀色の鎧を身にまとっている。



男が気づき、静かにこちらを見る。



「……神殿騎士のテオとかいうやつだ」



背筋が冷える。



エヴェラ:ユウト、警戒して。場合によっては逃げるよ。



知り合いなのか、アレンさんが軽く声をかける。



「あ、テオさん。久しぶりっすね。見廻りですか?」



テオは黙ったまま、ゆっくり歩み寄る。


鋭い目。


揺るがぬ姿勢。



「……勇者」



低い声。


空気が、変わる。

アレンさんは不思議そうにしている。



さっきまでの温度が消えた。

俺の胸が、わずかに軋む。



夕暮れの光が、やけに赤く見えた。

俺たちの冒険の色が、静かに剥がれ落ちていった。

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