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悪者  作者: P4rn0s


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7/8

始まりの人たち終わりの人たち

待ち合わせたのは、駅前のロータリーに面した小さなイルミネーションの木の下だった。


人混みのざわめきが喧騒になりきれず、楽しげな笑い声やマフラーを交換する恋人たちの会話が、どこか鈍く響いていた。

そこにいる自分たちだけが、少し違う色の時間をまとっている気がしていた。


「……寒いね」


君がそう言って、ポケットから手を出さないまま俺の顔を見た。

声はいつもと変わらなかった。でも、そのまなざしはまるで、別れのセリフをもう何度も胸の中で練習してきた人の目だった。


「……うん。そうだね」


俺もわざと他人事みたいな言い方をした。

何を話せばいいのかわからなかったし、何を言ってももう君の心には届かない気がしたから。


「ねえ」


君が少しだけ、前に出る。

街灯の光に照らされた髪の先が揺れて、ほんのり赤く染まった。


「なんで今日なの、って思ってる?」


「うん」


正直に言うと、君は少しだけ眉を下げた。でもそのあとすぐ、息を吐くように言った。


「でも今日じゃなきゃ、ちゃんと別れられなかった」


「……どうして」


「今日ならさ、ちゃんとした格好して、ちゃんと来るでしょ。ちゃんと、最後の顔が見られる」


それは、たしかにそうだった。

クリスマスじゃなかったら、たぶんお互いもう連絡さえしなかったかもしれない。

適当なLINEで曖昧に終わって、残った感情だけが心のどこかに居座り続けていたかもしれない。


「ケーキも予約してないし、プレゼントも用意してない。もうそんなの、必要ないって思ってたから」


「俺も」


「でも来たんだね、ちゃんと」


「君も」


君はふっと笑った。

だけど、その笑いは冬の風の中で、すぐにかき消えた。

この街のどこにも、俺たちを祝ってくれるような明かりはなかった。


「……好きだったよ」


唐突に君が言った。


「今も好きだよ。たぶん、これからもしばらく好きだと思う。でも、もう一緒にはいられない」


「うん」


「わたしが言いたいのは、そういうこと。別れよう、って言いに来た」


ちゃんと、そう言ってくれてありがとう。

そう思うと同時に、心の奥の方にあった何かが、音もなく崩れた。


「俺も……そう思ってた」


そう言うと、君はちょっとだけ目を伏せて、寒さに震えたふりをした。

本当は、涙をこらえてただけだってわかったけど、俺は何も言わなかった。


クリスマスの夜。

たくさんのカップルが愛を確かめ合ってる中で、俺たちは最後の言葉を探していた。


何を言っても足りないし、

何を言っても余計になる。


「……じゃあね」


君が言った。

その声が震えていたのは、きっと風のせいじゃない。


「元気でね」


俺がそう返すと、君は少しうつむいて、白い息を吐いた。

それから、何も言わずに背を向けた。


その後ろ姿が、俺の記憶に焼きつく前に、クリスマスソングがスピーカーから流れはじめた。


ふたりで聴いたことのある曲だった。

でも今は、ただの街の音にしか聞こえなかった。


たぶん今日、どこかのカップルは初めて手を繋ぎ、

誰かはプロポーズをして、誰かは永遠を誓ってる。


でも俺たちは、

今この瞬間、終わった。


誰にも祝われないクリスマス。

でも確かに、ふたりだけのクリスマスだった。

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