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悪者  作者: P4rn0s


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6/8

成長したね

木々が色づき始めた坂道を、彼女は前を歩いていた。風が吹くたびに、落ち葉がふわりと舞って、まるでその背中を隠そうとしているようだった。細くて、少し猫背気味のその背中を、俺は目で追いながら何も言えなかった。


金木犀の匂いが、季節の深まりを知らせていた。けれどその香りに乗って届くのは、どこか空っぽな感情だった。最初は些細なことだった。話し合えば分かることだと、そう思っていた。実際、俺たちは何度も話し合おうとした。でもそのたびに、どこかですれ違った。言葉が届く前に、相手の表情を読んで遠慮したり、先回りして諦めたりする。そんなことばかりだった。


彼女は、よく笑う子だった。だけど最近は、その笑顔の意味がわからなかった。優しい顔をしていても、目が笑っていなかったり、声が少しだけ震えていたり。俺はそういう細かいところにばかり気づいてしまって、逆に何も言えなくなっていった。


「この先って、どうなると思う?」


ある日、ふいに彼女がそう訊いてきた。公園のベンチに並んで座って、風に舞う葉を見ていたときだった。俺はすぐには答えられなかった。そういう質問を、彼女がするようになったことが、もう答えの一部だったのかもしれない。


「わかんない。でも……」


そう言ってから、続く言葉を探した。けど、口の中で何度も転がしてみた言葉は、どれも嘘っぽく思えた。未来の話をするとき、俺たちはいつも何かを隠していた。希望を語るふりをして、不安をなかったことにしようとしていた。


彼女は俺の顔をじっと見ていた。そして静かに言った。


「もう、無理なんだと思う」


その瞬間、驚きよりも納得が勝っていた自分がいた。ああ、そうだよなって思った。俺たちは、もう長いこと「無理」を見て見ぬふりしてきた。その疲れが、会話の間に漂っていた。沈黙は、愛の終わりの前兆だった。


あのとき、「じゃあやり直そう」とか「もう一度話し合おう」と言うことはできたかもしれない。でも、どこかでわかっていた。それを言ったとしても、どこかでまたつまずくだろうって。俺たちの根っこがまだ柔らかすぎて、支え合うには頼りなかった。


別れ際、彼女は少し泣いた。けれどその涙も、昔みたいに大きな声で泣くようなものじゃなくて、静かで、周りに気づかれないような涙だった。大人になったんだな、と思った。けれど同時に、こんなふうに別れをちゃんと受け入れてしまえるくらいには、大人になってしまったんだとも思った。


秋の空は高く、やけに青かった。何もかもが鮮やかすぎて、それが逆にやるせなかった。季節が綺麗なぶんだけ、自分たちの不格好な終わりが際立って見えた。


別れてからしばらくして、ふとした拍子に彼女のことを思い出すことがある。駅の階段、カフェの窓、誰かの仕草。そんな何気ない場面に、彼女の面影が紛れている。だけど、それを追いかけようとは思わない。あのとき、あの場所で手放したものは、もう二度と手には入らないと知っているから。


秋が来るたびに、あの金木犀の香りを思い出す。彼女と過ごした最後の季節。そして、何もかもがうまくできなかったあの頃の自分。


それでも、あれはきっと、本物の恋だったと思う。未熟で、壊れやすくて、不完全だったけど。だからこそ、こんなにも、記憶の中で鮮やかに輝くのだろう。

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