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継の箱庭  作者: 福猫
7/24

●呼ばれるのも、呼ぶのも嬉しいということ

続きをせっせと書きながら、口の中があまくなってきた気がする今日この頃。

 名前をつけてもらった、とても素敵な名前を。

 今日、この時からわたしは――美夜になった。


 白い目も曲がったしっぽも、わたしが『美夜』になるための大切なパーツだったんだと思うと、少し誇らしくなってくる…………都合よすぎるかな。


 浮かれ心で幸せに浸ってたけど、ふと思う。

 ――彼に何かお返しがしたいな。わたしにできることってなんだろう……。


 そんなことを考えていると、どこからかベルの音と声が聞こえてきて、その声がだんだんと大きくなってきたところで…………彼が扉を開けた。

 

 声の主との会話は気やすい感じがするから知り合いなんだと思う。

 わたしと話しているときよりも、少し丁寧さというか柔らかさがとれた彼はなんだか新鮮だった。


 部屋を出て歩き出す彼の後ろについて行った。ひとり離れるのはなんだか寂しくて……。


 そしたら――――なぜだか誘拐疑惑が持ち上がった。


 声の主がわたしに誘拐じゃないのか? 本当か? って聞いてくるから、ちゃんと自分の意志でここにいることを伝えた。

 わたしの言葉にとても喜んでくれた彼は、上機嫌のまま奥へ消えていった。


 ――それにしても…………声の主は何者なんだろう?

 声質も体格も彼と似てるのに、周りの空気……オーラっていうのかな? それがなんだか普通の人間じゃないみたい。感覚的なものだから言葉にしづらいけど、迫力があるって言うのかな……。



「おぅ、なんだ? なんか聞きたいことあるなら答えてやるぞ」



 ジロジロ見すぎたかも……いろいろ考えてたのがバレてる。


 ずっと見上げてるのも疲れたから、空いてる隣の席へピョンッとひと乗りして、声の主と向き合う。

 距離が近くなった分、さっきまでは似てると思ってた見た目も、彼とはだいぶ違ってるのがわかった。なんだか背中がモサッとしてるし、額にも何か付いてる。



「あ……じゃあ、えっと…………あなたは何者? 普通の人間とは思えないんだけど」


「ははっ、直球だな。まぁ、よくわかったなってとこだが……俺はヒューゴ、この世界の管理を務める『神の使い』ってやつだ。よろしくな」


「ヒューゴ……うん、よろしく。あ、わたしは美夜。『神の使い』って彼が言ってたやつだ……本当にこの辺にいるんだね」


「あぁ、聞いてたか。俺は春の女神に仕えてるんでな、この『春の庭』を担当してるんだ」



 春の女神……春の庭……? …………何だろう?



「それはまだ聞いてないかも」


「あん? あー……あいつ本当に説明したのか?」



 …………あいつ、って……そういえばふたりはとても気やすい関係みたい。



「彼のことよく知ってるの? お友達?」


「彼って……美夜、お前あいつの名前教えてもらってねぇのか?」


「え? あ……ううん、知ってるよ。ただ、ヒューゴあのね――」



 バサッというかドサッというか、重そうな何かが落ちたような音がして、ヒューゴと一緒にそっちのほうを向くと…………奥から戻ってきてた彼が突っ立ってた。彼はよく固まる人だ。



「あ……あ…………」


「お前なんか落としただろ、大丈夫か?」


「あ……なん…………そっ……!」



 ヒューゴが心配して声をかけるけど、なんだか様子がおかしい。わたしも心配だ……大丈夫かな? って思ってたんだけど、すごい勢いで飛び出してきてヒューゴに詰め寄ってった。

 胸倉掴んでるような気がするけどいいの? 神様の使いって偉いんじゃ……そんな扱いして怒られないのかな。



「貴方たちなんでそんな……! いつの間にそんな仲良く……名前呼びまで……! くっ、私もまだ呼んでもらえてないのにっ!! ……ずるい、ずるいですよヒューゴ!」


「ずるいって言われてもなぁ」



 あ、名前……そうだよね、やっぱり名前で呼んでほしいよね。

 名前で呼ばれることがこんなにも嬉しいことなんだと、わたしも知ったから。



「…………あの、美夜……無理にとは言いませんが、よければ私も名前で呼んではいただけないでしょうか……?」


「あ、うん。そうだよね……名前で。えと、りゅ……りゅしゅ……りゅし……っ……」


「おや……もしかして、発音しづらいですか?」



 ……そう。

 わたしが彼を『彼』と呼び続けてたのは、決して覚えてないとか、呼びたくないとかじゃなくて。



「うー……あまり聞いたことも言ったこともない響きだから。そんなおしゃれな感じの名前初めてで……」


「おしゃれ…………んふっ……!」


「ちょっと……美夜にも私にも失礼なんですが?」


「んんっ……いやスマン、悪かったって。目ぇ据わってるぞ……(呼ばれたくて必死だな)」


「最後までが言いづらいのであれば、愛称のように縮めてもらってもかまいませんよ?」



 ……そうなの? 全部言えなくても大丈夫なの?



「縮める……ん……りゅ…………リュー、とか?」


「いいんじゃねぇか?」


「! じゃあ、リュー。これからリューって呼ぶね、えへへ」


「っ尊い…………」



 リュー、リュー。心の中でも何度も呼んでみる。

 名前を呼ばれるのも嬉しかったけど、名前を呼ぶのもこんなに嬉しいことなんだ。

 また、初めてのことを知った。


 ――でも……あれ? そういえば…………ちょっと違う?

 

 ヒューゴに名前を呼ばれたときは、誇らしいと思った。わたしには素敵な名前があるんだよって、いいでしょ? って。

 ヒューゴの名前を呼んだときは、ちゃんと発音できたっていう達成感と、名前を呼べる相手が、仲間が増えたっていう嬉しさを感じた。


 でも、リューは……。


 リューに名前を呼ばれるときも、リューって名前を呼ぶときも、なんだか心がほわっと温かくなって、ちょっとくすぐったい気持ちになって、嬉しいけど恥ずかしい気もして……でももっと呼びたくて、呼ばれたくて。


 何が違うんだろう? なんで違うんだろう?


 よくわかんないけど……一緒に居ればわかるかな? ずっとそばに居れば、いつかは…………。


読んでいただきありがとうございました。

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