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実幸の家へ行く道すがら真希は電車の中での実幸の様子について考えた。何かに思い悩んでいる、そんな感じで実幸を取り巻く空気もどんよりと思いものに感じてしまった。それを見た瞬間、怒りの気持ちが吹き飛んで、悲しみだけが浮き上がってきたのだ。だから口をついて出てきたのは、その雰囲気を作り出したであろう、実幸の思っていること。そしてそれを話してくれなかった実幸への怒りを象徴する言葉だった。それに帰ってきた言葉は冷たい口調だったけれど、照れ隠しの様で可愛いと思ったことなんて秘密だ。
しばらく沈黙が続き、空気が重くなってきたところで真希が口を開いた。
「実幸の家って、駅から遠い?」
少しきょとんとしたような顔をした実幸はまたかわいい。
「え、あ、うん。何? 急に?」
「へっ? 別にただの疑問なんだけど」
「嘘! 絶対!」
「なんで! ただの疑問って言ったらただの疑問! わかる? ぎ・も・ん!!」
実幸がそう言う理由が何なのか見当もつかないが次の言葉で分かった。
「嘘だよ、だって真希にやけてるもん」
「はぁ?」
思いがけない言葉が返って来て一瞬戸惑うがどうやら自分は、ものすごくにやけているらしい。
「しかも、なんか悪いことを考えてそうな感じのにやけ!」
実幸の言葉に思わず笑ってしまったがつまりはそうか、実幸の家へ行くことに物凄く楽しみにしている表情を、悪いことを考えているにやけだととられてしまったわけだ。
「なに、何がおかしい!」
電車の中の実幸と打って変わって別人のようになった今の実幸。見ていて面白いものだったがこれは
「かわいいたっらありゃしない!」
一応、夜なので控えめだ。昼間だったら思いっきり叫んでいたかもしれない。かつ、抱きしめていたかもしれない。夜だと変な誤解を通行人にされそうなのでやめているが。余計顔がにやけるのを感じて、少し顔が赤い実幸を面白いと思って見た。
「う、るさい」
あれ、予想外。怒鳴って返してくれれば気持ちいいだろうに、叱ることに追加である。
「とにかく! わたしの家、すぐそこだから。変なこと言ってないでちゃんと歩いてよ。夜だよ、暗いよ、怖いよってよの三連続じゃん? わたしホント夜ひとりで歩くのやだったから真希がいてくれてよかったけど」
思いがけず驚いた。実幸はかわいいから何度か襲われたことがあるのだろうか。今の高校の担任が自分が高校生のころは学校中の男の視線を釘づけにしていただの自慢してくるが実幸の可愛さには誰も勝てないだろう。真希が保証する。
「真希、聞いてる?」
笑みがこぼれてそして涙が出てくる。笑い過ぎてと、自分の中での実幸の存在の大きさに気づき、今頃ながら申し訳ないと思ってしまっているからだ。それと、怖いものに怯えず気丈にふるまい、一人で大丈夫だと言い張っている実幸はまた、可愛かった。
「何でそんなに笑ってるの! もうすぐ家だよ。ほら、あのマンション」
そう言って指差したのは高くそびえたつマンションだった。
「何階?」
「22階」
「高っ。そんなんじゃ家賃も……」
「知らないから。早く入って」
歩きながら、しゃべりながらいつの間にかマンションの前に来ていた。実幸の跡をついて行きながら真希は若干の高所恐怖症を抑える術を考えてエレベーターに乗った。




