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わたくしのこの提案は、おじさまにとっても意外だったのでしょう。少し考えてからの返答でした。
「お嬢様は対魔物戦を想定してるんだろ? 人間のおじさんが相手になるのはどうだろうな。それにおじさんは剣術専門で魔法はからっきしだから、アドバイスは魔法専門の人にもらった方が良いと思うぞ」
「構いませんわ! 相手が魔物であれ人間であれ、戦闘訓練は必要ですもの。いきなり魔物との実践をするなと仰ったのはおじさまですわ。わたくしにその言葉を伝えた責任を取って、魔物との実践の前の練習相手になってくださいませ!」
「あちゃー。おじさん、余計なことを言っちゃったなー」
困ったように眉を下げるおじさまに、わたくしは回答を迫りました。
「交際もダメ、護衛もダメ、魔物迎撃隊もダメ。ダメダメばっかり言うのは反則ですわ。その三つがどうしても嫌なら、わたくしに戦闘訓練を付けてくださいませ!」
「うーん。その中だったら戦闘訓練が一番マシなのかなー」
「やる気になってくださったのですね!?」
「そうだなー。酒を返してくれるなら、戦闘訓練に付き合ってやろうかな。ただし気が向いたときだけな」
「ありがとうございます! 絶対ですわよ!」
約束を取り付けたわたくしが目を輝かせながら飛び跳ねると、おじさまが自身の頭をボリボリとかきました。
「毎日気が向かないって断ろうと思ってたんだけど……そこまでキラキラした目で見つめられると、それも心苦しいなー」
どうやらおじさまはわたくしを騙そうとしていたようです。
ですがそれは無理というものです。おじさまは悪人ではないのですから。
「ふふっ。約束通り、お酒はお返ししますわ。あまり飲み過ぎないでくださいませね!」
わたくしは抱えていた酒瓶をおじさまに返却すると、ブランカとともに屋敷に帰りました。
明日から愉快な日々が始まりそうです。
* * *
薄暗い路地裏で、わたくしは魔法の杖を片手におじさまと対峙しています。
おじさまはローランとの決闘のときとは違って丸腰です。ですが油断は出来ません。おじさまは前に拳一発で賞金首を気絶させているのですから。
わたくしは気合いを入れて、おじさまを見つめました。
「今日のおじさまは魔物役ですわ。がおーと鳴いてくださいませ」
「……はい?」
「がおーですわ、がおー」
わたくしの要望を聞いたおじさまは、目をぱちくりとさせました。
「……それ、必要かな?」
「魔物っぽくないと、魔物と戦っている気がしませんもの。鳴き声が嫌なら、うさぎの耳でも付けますこと? すぐにブランカに作らせますわ」
「……いや、鳴き声で行くわ。がおー」
「出ましたわね、魔物! わたくしの一撃をお見舞いいたしますわ! 風よ吹き荒れろ、嵐のように!」
わたくしは杖を構えると、風魔法を使用しました。
するとわたくしの風魔法により、おじさまの服がなびきました。
「ちょっと涼しい」
「おじさま、真面目にやってくださいませ! がおーですわよ、がおー」
「この状況で真面目にやれってのは無理があるぞ。がおー」
「しぶとい魔物ですわね。これでも食らうがいいですわ!」
わたくしは地面に落ちていた小石を拾うと、おじさまに向かって投げつけました。
「あっ、石は普通に痛い。石は痛い、がおー」
「なるほど。魔物には石が効果的、と」
わたくしは懐からメモ帳を取り出して、効果のあった攻撃を記しました。
するとおじさまがわたくしの手からメモ帳を取り上げました。
「ああっ!? わたくしの魔物撃退マル秘メモが!」
「なあ、お嬢様。茶番はこの辺でやめない?」
ちゃ、ば、ん……? 茶番……?
「なに、その顔」
「一晩考えたわたくしの訓練が茶番と言われましたわ。そんな……」
わたくしはがっくりと地面に手を付きました。
完璧な訓練だと思ったのに、おじさまには茶番のような訓練に見えていたなんて。
ちらりと付近を見ると、路地裏で暮らす人々が、わたくしたちのことを見ながら笑いをこらえています。
おじさまだけではなく、第三者から見ても、わたくしの戦闘訓練は茶番だったようです。
「本気でやっておりましたのに!」
「今の、お嬢様的には本気だったんだ……」
悔しいですが、認めましょう。
わたくしには茶番のような戦闘訓練しか思い付かなかったと!
そして、こういうものは切り替えが大事なのです。
「では、おじさまにお伺いします。茶番ではない訓練とはどういうものですの!?」
「まずは回避の訓練からじゃないかなー? 戦闘で一番重要なのは負傷しないことだし」
「そうなんですの?」
「当然。負傷をしたら攻撃力も下がるし、動きだって悪くなる。隠れるにしても地面に付いた血痕で場所がバレちまう。負傷さえしなければ、そのときは逃げることになったとしても、またチャンスは来るだろ?」
この前の決闘で、おじさまに蹴られた後のローランは歩くだけでもふらふらとしていました。
ローランは魔法が使えたためその後も戦うことが出来ていましたが、あの状態でおじさまに攻撃をされていたら、ローランは避けることも攻撃を受け切ることも出来なかったでしょう。
そのため負傷しないことを一番に掲げるおじさまの説は正しいのかもしれません。
「おじさまの言葉は正論ですわ。ですが、逃げてしまったら町に被害が出るかもしれません」
「あー、そっか。魔物迎撃隊は防衛戦特化の団体だったな」
「はい。ですので……」
「防衛戦特化だとしても、同じだ。負傷をしたら、そのとき相手をしている魔物は倒せたとしても、次にやって来る魔物には対応できない。どうしても勝てないようなら、負傷しないようにしつつ時間を稼ぐべきだろうな。負傷覚悟で戦うんじゃなくてさ」
「時間を稼ぐ……?」
首を傾げたわたくしに、おじさまが言葉を重ねました。
「だって、そうだろ。時間さえ経てば、王国の騎士団が魔物を退治しに来てくれるんだから。おじさんたちは騎士団が来るまでの時間稼ぎをすればいい」
「あっ、そうでしたわね。わたくし、魔物を倒すことしか考えていませんでしたわ。時間さえ稼げれば、騎士団の方が来てくれるのでしたわね」
わたくしは魔物迎撃隊を作ることに必死になりすぎて、視野が狭くなっていたのかもしれません。
町に魔物被害を出さないための魔物迎撃隊です。
魔物を討伐するのが誰であろうと、町を守れさえすればいいのです。
「とはいえ、自分たちで魔物を倒せるなら倒した方が良いだろうな。騎士団が来るまでかなりの時間が掛かるだろうから」
ハッとしているわたくしに、おじさまが告げました。
「出来れば魔物を倒して、出来なければ時間を稼ぐ。無理に倒しに行こうとはせず、絶対に負傷はしない」
「おじさまって、もしかして天才ですの?」
「これくらいで天才と言われても。まあ実践は計画通りには行かないものだから、あんまり頭で考えすぎるのも良くないけどねー」
もしかするとわたくしは自分で訓練メニューを考えようとはせずに、師匠であるおじさまにメニューを組んでもらった方が良いのでは!?
それこそが師匠と弟子の関係性なのでは!?
わたくしは今さらながら、そのことに思い至りました。




