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「おじさま、魔物迎撃隊に入ってくださいませ!」
「嫌だね」
今日も今日とて、わたくしはおじさまの元へとやってきました。
ですがおじさまは今日もわたくしの提案を断ってきます。おじさまはわたくしの提案を断ることが趣味なのでしょうか。
「どうしてですの!? 魔物が出るまではひたすら待機のお仕事ですから、今のおじさまの生活を続けられますのよ!?」
「でも魔物が出たら、気分が乗らなくても働かなくちゃいけないんだろー? だから嫌だー」
「誰だって気分が乗らない日も働いていますわ」
「おじさんは気分が乗らない日は働かない主義なの」
「そんなの、社会人失格ですわ」
「そう、おじさんは社会人失格なの。だから路地裏で暮らしてるんだぞー。ほら、分かったら帰った帰ったー」
おじさまは社会人失格と言われても特に気にする様子がありません。
おじさまはわたくしの知る他の大人とはあまりにも違っています。ゆえにどのようにお願いをすれば動いてくれるのか見当もつきません。
「おじさまが首を縦に振ってくださるまで、わたくしはここから動きませんわ!」
何も策の思い付かなかったわたくしは、おじさまが了承してくれるまで粘ることにしました。
しかしこれもおじさまの前では無駄な足掻きだったようです。
「持久戦でおじさんと勝負するのは分が悪いと思うぞー。何と言ってもおじさんは堕落したダメ人間だからな。何時間だって何日だって何年だって、飽きもせずにぐうたら出来るんだ」
「それならわたくしだって」
「アリーゼお嬢様は、門限までにお屋敷に帰らなくてはなりません」
「ブランカ!?」
持久戦を覚悟したわたくしを止めたのは、おじさまではなくブランカでした。
いつものようにブランカも、わたくしに付き合わされて一緒に路地裏にいるのです。
「堕落した人間に付き合っていると、いくら時間があっても足りません。堕落した人間というものは、アリーゼお嬢様が思っているよりもずっと、無駄な時間を過ごすことに長けているのです」
「そうそう。おじさんは毎日を無駄に過ごすことに長けてるのー」
ブランカの言葉におじさまが同意を示します。
しかしわたくしは、おじさまを勧誘しないわけにはいかないのです。
「魔物迎撃隊には、どうしてもおじさまが必要なんですのよ!? たくさんの無駄な時間を過ごしてでも、おじさまを確保したいですわ!」
「いけません、アリーゼお嬢様。アリーゼお嬢様を門限までに屋敷に帰宅させることが私の役目です。時間になりましたら、強制的に馬車に詰め込まさせていただきます」
「ブランカ……決闘のときにわたくしを置いて逃げ出しましたよね?」
わたくしはその事実を思い出して、ブランカに突きつけました。
あのときはおじさまが怪我をしたり、ローランがわたくしの隣に立つ資格が無いと言い出したりして、バタバタしてしまったため忘れていましたが、わたくしは広場にブランカとともに来ていたのです。
それなのに気が付くとブランカの姿は無く、おじさまとローランのあれこれが片付いた頃に、ブランカがわたくしのもとに戻って来たのです。
大方、土の塊が飛んできた際に、わたくしのことを置いて逃げ出したのでしょう。
そしてわたくしのその予想は、ブランカの反応を見る限り、当たっているようです。
「うっ……その説は申し訳ありません。ですが主を置いて逃げた私への罰と、アリーゼお嬢様の門限は、話が別です」
ブランカはわたくしに謝りつつも、門限の件は譲りませんでした。
悔しいですが、ブランカの言う通り、ブランカがわたくしを置いて逃げた件と、わたくしの門限には相互関係がありません。
そのためわたくしはこう言うしかありませんでした。
「ブランカの意地悪!」
「私は意地悪で言っているわけではなく……もしも門限を破った場合はまた自宅謹慎になると思いますが、それでもよろしいのですか? アリーゼお嬢様がよろしいのなら私も従います。甘んじて一緒に罰を受けましょう。それとアリーゼお嬢様を置いて逃げた罰ももちろんお受けします」
「もう自宅謹慎は嫌ですわ……それとわたくしを置いて逃げた件は、お父様には秘密にして差し上げます。今はまだ」
侍女がブランカから他の人に変わってしまったら、こうしておじさまと密会をすることが出来なくなるかもしれません。
それならブランカが逃げ出した件は秘密にしておいて、わたくしに負い目のあるブランカにおじさまとの密会の手助けをしてもらった方がお得です。
「どうでもいいけど、侍女さんとの言い合いは屋敷でやってくれないかなー。おじさん、これからだらだらお酒を飲んでぐだぐだ寝たいんだけどー」
「むう。長期戦がダメなら……短期戦と行きましょう!」
「あっ、おじさんの酒!」
わたくしはおじさまの横に置かれていた酒瓶を持ち上げると、酒瓶を両手で抱えました。
「おじさま。どれか一つを選んでくださいませ。わたくしと交際をするか、わたくしの護衛になるか、魔物迎撃隊に入るか。どれか一つを選んでくださったら、今日のところは帰って差し上げますわ!」
「そんなことより酒を返してくれよー」
「おじさまがどれかを選んでくださったら、帰りますし、お酒も返しますわ」
「どれか一つを選べって言われても、どれも大変そうだから嫌だなー」
なおも何もしようとしないおじさまに、わたくしは頬を膨らませながら文句を言いました。
「おじさま。大人には決断をしないといけないときがありますわ。それが今ですのよ!?」
「おじさんは若い頃に、人生を左右する決断をたくさんしてきたの。だからもう大変なことはせずに、余生をのんびりと過ごしたいわけよー」
「余生を過ごすには、おじさまはまだ若すぎますわ!」
「おじさんはもう、役に立たないおじさんなんだってばー」
「いいえ。おじさまはまだまだ社会の役に立つべきですわ。おじさまには社会の役に立てる実力がありますもの」
「ええー。社会の役になんか立ちたくなーい」
駄々っ子のようなおじさまに、ブランカが蔑みの視線を送っています。
正直、わたくしもこのように駄々をこねる大人はおじさま以外に見たことがありません。
「でしたら、社会全体ではなく、この町だけの役に立ってくださいませ。町を襲う魔物の被害から人々を救ってください」
「おじさん、そういうヒーローみたいなことには興味が無いのー」
「わけが分かりませんわ。わたくしは、この町のために自分に何が出来るかを考えて、自分には何も出来ないことを嘆いて、そして自分の無力さを忘れるために買い物に走っていました。ですのに、この町のために戦うことの出来る実力があるおじさまは、どうして何もしようとしないんですの!?」
わたくしの言葉を聞いたおじさまは、眩しいものでも見るかのように目を細めながらわたくしのことを眺めました。
「青臭くてキラキラしてて、若いってそういうことだよなー。でも、おじさんには無理。そういうお年頃はとうに過ぎちゃったから」
「おじさまくらいの年齢でも、町のために働いている人は山ほどおりますわ」
「……おじさんはきっと、心が老化しちゃってるんだよ」
そう述べるおじさまに、何故か陰りのようなものが見えました。
わたくしはおじさまがこれまでどのような人生を歩んできたのかを知りません。ですがおじさまは前に、不正解の恥ずかしい道を歩んできたと仰っていました。きっとおじさまの歩んできた道は、平坦なものではなかったのでしょう。
ですが、ブランカが逃げ出したこととわたくしの門限が別の話であるように、おじさまの過去とおじさまの未来は別の話……でもないような気がしないでもないですが、わたくしは何としてもおじさまを魔物迎撃隊に入れたいのです。グイグイ行くしかありません。
「おじさまは、老化するには早すぎますわ!」
「早すぎないんだってばー」
「それなら……そう! 自分で動く元気が無いのなら、わたくしの戦闘訓練のお相手になってくださいませんこと!? そして戦闘に関するアドバイスをください。いわゆる師匠ポジションですわ!」




