★18
「ところで。坊ちゃんはお嬢様が好きなんだよねー?」
「だからその坊ちゃんをやめろと言っているだろ!」
ローランがおじさまの短剣を流して攻撃の主導権を得ようとしました。
しかしすぐにおじさまによって攻撃を防がれます。
「おうおう、分かりやすいねー。面白いように太刀筋が乱れてる。こんなことで動揺しちゃうなんて、可愛くてヨシヨシしたくなっちゃう坊ちゃんだなー」
「僕のことを馬鹿にしやがって!」
「だって坊ちゃんの剣の腕って、悪くはないけど良くもないんだもん。ギリギリ及第点ってところ」
ローランはおじさまから離れて十分に間合いを取ると、懐に手を入れました。
「分かった。それなら武器を変えよう」
ローランが懐から取り出したのは、魔法の杖です。
そういえばローランは魔法も使えるのでした。
最近のローランは当主の仕事を習うことに忙しくてあまりわたくしと会っていませんでしたが、前に魔法が使えるようになったと自慢されたことを覚えています。ですが当主見習いで忙しくしているローランが、今も魔法の訓練を続けていることは知りませんでした。
「あれ。もしかして坊ちゃん、魔法も使えるの?」
魔法の杖を見たおじさまが、ローランに尋ねました。
ローランは周囲の土を浮き上がらせると、おじさまに向かって放ちました。
「魔法も、じゃない。魔法の方が得意だッ! 土塊よ、自在に動け!」
浮き上がった土塊がおじさまに向かって飛んで行きます。
すぐにおじさまにぶつかった土が、土煙を舞い上がらせました。
あれは土属性の魔法です。
正直なところわたくしは、土属性の魔法が使えたら良いな、と思っておりました。なぜなら土属性の魔法は、周囲の土を固めて防御壁を作ることが可能だからです。他の属性の魔法と比べて、防御に適しているのが土属性の魔法なのです。
とはいえ土属性の魔法は攻撃に使えないかと言うと、そんなことはありません。今のローランのように、土塊を相手にぶつけることで攻撃が可能です。
「なかなかやるねー。でも今まで得意な魔法じゃなくて剣で戦ってたのは何で? 最初から魔法で戦ったら良かったのに」
土煙が収まってきたところで、おじさまが自身に付いた土を払いながら尋ねました。
攻撃を受けてはいるようですが、おじさまに大きな怪我は無いようです。
土煙のせいで見えませんでしたが、大きな土塊は短剣で弾いていたのでしょう。とはいえあの土煙の中ですべての土塊を弾くことは出来なかったらしく、おじさまの肌の所々が赤く色付いています。
「お前が短剣を武器にしていたからだ。魔法の使えない相手に魔法で戦いを挑むのは紳士的じゃない!」
「戦闘に紳士的も紳士的じゃないも無いと思うんだけどなー。お貴族様の考えることはよく分からんねー」
「分かるだろう。魔法は遠距離攻撃だから、短剣が武器の相手には有利すぎる」
「へーえ。おじさんも、舐められたもんだねー」
「……なんだと? もう一度食らってみるか? 土塊よ、自在に動け!」
ローランはまた周囲の土を舞い上がらせると、おじさまに向かって放ちました。
再度の土塊攻撃です。
「遠距離攻撃を仕掛けられたら、かわすか無視をして間合いに入ればいいだけだ。こんな風に、ね!」
おじさまは土塊が身体に当たることを承知で、ローランに向かって突撃しました。
先程の攻撃で、土塊がそれほどの脅威ではないと判断したからでしょう。
「なっ!?」
土塊を浴びながら自身に迫ってくるおじさまに、ローランはぎょっとした様子でした。
間近に迫った二人を、土煙が覆います。
土煙が晴れたとき、そこにあったのはおじさまの短剣を長剣で受け止めるローランの姿でした。
ですが長剣を構えるのが遅かったのか、ローランは苦しそうな体勢です。
「この……ッ!」
「おっと。坊ちゃんは剣術も使えるんだったか。剣と魔法の両方が使えるのは良いな。魔法剣士は騎士たちの憧れの職業だ。杖無しで魔法が使えるとなおよし、だけど!」
おじさまが剣を弾いた勢いでローランに回し蹴りを繰り出しました。
ローランは予想していなかったのだろう回し蹴り攻撃を食らって、地面に転がりました。
「おじさんは魔法が使えないから、剣術と体術の併用で行こうかなー?」
「蹴りなんて……」
「卑怯ってのは言いっこなしだ。この決闘には戦い方のルールなんて存在しないんだから。野良の戦闘ならなおさらだ。卑怯だと言ってる間に殺されちまう」
ローランは悔しそうな顔をしながら立ち上がりました。強烈な蹴りを食らいましたが、まだ立ち上がる力はあるようです。
ですが万全の状態とは程遠く、ローランの動きが鈍くなっていることはわたくしでも分かります。
「それとおじさんからのアドバイス。土魔法と剣の併用なら、土煙を煙幕代わりにしながら剣で攻撃すると効果的だぞー」
「…………」
「もしかして、剣と魔法の切り替えが苦手な感じー? それはもったいないねー。坊ちゃんは、剣も魔法もまだまだ発展途上の坊ちゃんってことかー」
ローランの無言を答えとしたおじさまが、ローランのことを煽ります。
おじさまがわざとローランのことを怒らせようとしていることは分かりますが、さすがのわたくしも少しばかりカチンと来ました。
ローランは戦闘職ではなく、伯爵家当主になる人物です。戦闘訓練にばかり時間を割くことは出来ません。むしろ貴族である彼がここまで戦えること自体が奇跡のようなものです。魔法と剣術の両方を習得している貴族など数えるほどしかおりません。その数少ない一人がローランなのです。
「お前こそ、僕のことを舐めるなよ」
ローランもおじさまの物言いに腹を立てた様子です。
魔法の杖にありったけの魔力を集め、その魔力で周囲の土を舞い上がらせます。そして先程までの土塊とは違い、集めた土を一つの大きな塊にしました。
「すべてを育む大地よ、今こそその力を我の前に示せ!」
「おいおい、それは反則だろ!?」
大きな土の塊を見たおじさまが、顔を引きつらせました。
「巨大な魔法を使ってはいけないというルールは存在しない」
「そりゃあそうだけど……それ、当たったら最悪死ぬぞ?」
「構わない」
「おじさんが構うんだけどー!?」
おじさまは急いでローランから距離を取りましたが、そうはさせるものかとローランが杖を振り下ろし、おじさまに向かって巨大な土の塊を放ちます。
「食らえーーッ!!」
おじさまは飛び退くことで土の塊をギリギリかわしました。
おじさまにかわされた土の塊は――。
「…………えっ」
「危ない、アリーゼ!!」
土の塊が、わたくしのもとへと飛んできました。




