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ついにおじさまとローランの決闘が始まります。
広場には騒ぎを聞きつけた観客が集まっています。
なおわたくしがあらかじめ広場の使用申請を提出しているため、ここで決闘をしても衛兵に止められることはございません。
何も気にすることなく、心ゆくまで決闘をすることが出来ます。
「僕の名前は、ローラン・エル・ユペール。ユペール伯爵家の次期当主だ」
ローランが長剣を片手に名乗り口上をいたしました。
一方でおじさまは手にした短剣をくるくると弄んでいます。
魔法の先生しかりおじさましかり、棒状の物を持つと回したくなるのが人間のサガなのでしょうか。
「…………」
「早く名乗れよ」
いつまでも名乗らないおじさまに痺れを切らしたローランが名乗りを促しました。
おじさまはローランをちらりと見た後、拗ねたように口をとがらせました。
「ええー。おじさんも名乗らなきゃダメー?」
「決闘なのだから名乗るに決まっているだろう!」
「別に決闘にそんなルールは無いと思うけどなー」
「さてはお前、名乗れないような名前なのだな。指名手配犯か?」
「別にー? おじさんの名前はクリス。よくある、ありふれた名前だろー?」
ローランにあらぬ疑いをかけられたおじさまが、名前を口にしました。
まったくローランったら、おじさまが指名手配犯だなんて。
おじさまは賞金首を捕まえることはあっても、おじさま自身が賞金首なわけではありませんのに。
「クリスか。浮浪者にはもったいない名前だ」
「煽るねー。決闘開始前から敵意バリバリって感じー」
「お前の喋り方も煽っているように聞こえるけどな。さあ、名乗りも終わったことだし、さっそく始めよう」
「では、まずはルールの確認です。場所は広場の中央、ロープで囲われた区域の中のみ。武器の持ち込みは自由。片方が戦闘不能になるか、負けを宣言した時点で終了とします。なおイレギュラーが発生した場合は、審判権限で決闘を中断する場合があります」
おじさまは、決闘のルール確認をしているスキンヘッドの男に視線を向けました。彼はわたくしが今日のために雇った人物です。
決闘の審判を雇ったのは初めてですが、決闘という危険な試合を間近で見る必要がある以上、審判も強いことが最低条件らしいのです。そのためスキンヘッドの男は、おじさまよりもローランよりも頑丈そうな大男です。
「審判の彼は君の知り合い?」
「いいや。彼はアリーゼが用意してくれた人物だ。もちろん買収などしていないから安心しろ。僕はそういった汚い真似が好きではない」
「ふーん。紳士的だねー。勝ちたいなら、もっと手段を選ばず動いた方が良いと思うけどー」
「手段を選ばないような真似はせずとも、お前のような浮浪者には勝てる」
「まあ、なんでもいいけどさ」
スキンヘッドの審判は、おじさまとローランの会話が終わったことを確認すると、試合開始の合図を出しました。
「それでは、決闘開始ッ!」
試合開始と同時に、ローランが動きました。
「やあっ!」
間合いを詰めたローランの剣が、おじさまに振り下ろされます。
わたくしは怖くてぎゅっと目を瞑ってしまいましたが、聞こえてきたのは肉を裂く音ではなく、ガキンという金属音でした。
「良い踏み込みだねー。迷いが無い。だけど、ちょっと軽いかなー」
「……くっ」
目を開けると、おじさまが短剣でローランの長剣を押し返したところでした。
おじさまの力が強かったからか、それとも戦術的なものなのか、ローランが後ろに飛び退いておじさまと距離を取りました。
「うーん。型は綺麗だけど、美しい型に縛られすぎてるって言うのかなー。もっと貪欲に勝ちを狙いに来た方が良いんじゃなーい?」
「お前に剣の何が分かる!?」
「昔取った杵柄って言うのかなー。ある程度は分かっちゃうんだよねー」
どうやらおじさまは今の一撃で、ローランの剣について何かを悟った様子です。
わたくしは目を開けていることも出来なかったと言うのに、やはりおじさまはすごいです。
「なあなあ、貴族の坊ちゃんさあ」
攻撃の機会を見計らっているローランに向けて、おじさまが間の抜けた声を出しました。
「失礼な呼び方はやめろ! この女たらしの浮浪者が!」
「おじさん、最近は女遊びしてないんだけどなー。金が無いから」
「アリーゼのことを誑かしておいて、どの口が言う!」
「このお口。なんちゃってー」
おじさまが自身の口を指差しながら、にっこりと口の端を上げました。
ああ、なんてチャーミングなのでしょう。
おじさまの新たな魅力を発見です。
しかしローランにはおじさまの仕草が、自身を馬鹿にした態度に見えたようです。チャーミングでキュートな笑顔ですが、確かに決闘中に見せる仕草ではない気もします。
ローランが苛立った様子でおじさまを怒鳴りました。
「僕のことをおちょくっているのか!?」
「んー、少しだけ。おじさんは大人だから、怒った相手の太刀筋が乱れることを知ってるんだよねー」
「卑怯者!」
「卑怯なんかじゃないって。これも立派な戦法だぞー」
「このッ!」
またローランが勢いよく間合いを詰め、おじさまに剣を振り下ろしました。
しかしこの攻撃もおじさまの短剣に止められてしまいます。
「良い太刀筋だねー。感情を乱してる割には、だけど!」
おじさまがまた短剣でローランの剣を弾きます。
そして後ろに下がったローランに向けて、今度はおじさまが攻撃を繰り出します。
首元近くに伸びてきたおじさまの短剣を長剣で受け止めたローランが、歯を食いしばっています。
……まさかこの決闘でどちらかが死ぬようなことは、ありません、よね?
剣についてはよく分からないため武器の持ち込みを自由にしてしまいましたが、武器を木刀に限定した方が良かったのでしょうか。
想い人であるおじさまにも、幼馴染であるローランにも、わたくしは死んでほしくなどありません。
ですが決闘が始まってしまった今、わたくしにはもう何も出来ません。唯一出来るのは、どちらも怪我をせずにこの決闘が終わるように祈ることだけです。




