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決闘は五日後に行なわれることになりました。
あの日ローランは別件の用事があったからです。ローランは馬車の中から路地裏にいるわたくしを見つけて、降りてきただけだったようです。
それにローランはローランのお父様から当主の仕事を習っている最中で、毎日が忙しいようでした。ローランの時間が空くのが、最短で五日後だったため、五日後に決闘をすることになったというわけです。
正直なところ、わたくしはこの決闘にどのような意味があるのかよく分かりません。
それはおじさまも同じようで、どうして自分が決闘をする必要があるのかと何度もわたくしに尋ねてきました。
そんなことを尋ねられてもわたくしにも分からないので、二人して首を傾げているだけでしたが。
「おじさま。こちらはわたくしが刺しゅうをほどこしたハンカチですわ」
決闘直前、広場にやって来たおじさまに、わたくしは刺しゅうを施したハンカチをプレゼントいたしました。
ちなみにどこで決闘をするかは、何故かわたくしが決めることになりました。
決闘場所を選定した側が有利にならないよう、決闘に参加しないわたくしが場所決めをするのが公平だという話になったからです。
そこで闘技場などの場所を探しましたが、五日後に急遽使わせてくれる場所はありませんでした。そういう場所はもっと前もって予約を入れておかないといけないようです。わたくしはそのことを初めて知りました。
……二度と闘技場の使用を検討することはないでしょうから、要らない知識ではありますが。
そこで決闘場所に選んだのが、だだっ広い広場です。かなり広い場所なので、広場の真ん中で決闘をしたとしても周囲に被害が及ぶことはまず無いでしょう。
「おじさまは布がお好きですよね?」
「えっ、布が好き? ……まあ、嫌いではないかな」
「やっぱり! そうだと思いましたので、ハンカチを贈ることにしましたの」
「うん? これをおじさんにくれるのか?」
「はい。おじさまが怪我をしませんように、おじさまが勝利しますように、と願いを込めて刺しゅうをしましたのよ」
わたくしがロマンチックな言葉を並べると、おじさまが不思議そうにハンカチにほどこされた刺しゅうを眺めました。
ハンカチには、薔薇で覆われた城の上を白鳥が飛んでいる刺しゅうがほどこされています。
渾身の出来です。
最初は薔薇だけのつもりでしたが、自宅謹慎の間にどんどん刺しゅうが豪華になっていったのです。
「決闘が決まったのは五日前のはずだけど、刺しゅうってそんなにすぐ出来上がるものなのか? しかもこんな超大作」
「愛の成せる業ですわ」
「アリーゼお嬢様が刺しゅうを始めたのは決闘が決まる前ですね」
おじさまの質問にまたしてもわたくしがロマンチックなことを言うと、横からブランカが事実を告げてきました。
「ちょっとブランカ!? 雰囲気が台無しになることを言わないでいただけます!?」
「申し訳ございません。雰囲気を台無しにしたかったもので」
「ブランカの意地悪!」
わたくしはブランカに舌を出して見せると、おじさまに向き直りました。
そしてハンカチをおじさまの顔の前に差し出します。
「とにかく、わたくしの愛を受け取ってくださいませ!」
しかしおじさまはハンカチを受け取ってはくれませんでした。
その上、おかしなことまで言い出しました。
「お嬢様には言い辛いんだけどさー。おじさん、この決闘に勝つつもりはないんだよねー」
「どうしてですの!?」
「だって勝ってもおじさんに良いことなんてないもん」
それは正直わたくしも思っておりました。
今日の決闘には、勝ったらどうする、負けたらどうする、のような取り決めはありません。
急に決闘がしたくなった様子のローランが、おじさまに決闘を申し込んだだけなのです。
ですが、戦うからには勝ちたいと思うのが男性なのではないでしょうか。
「決闘での勝利、それこそが決闘の報酬なのではないですか?」
「おじさんはそんな報酬いらないよー。今日は、決闘を受けないと路上の不法占拠で立件するって言われたから来ただけ」
「ですが、決闘に負けたらきっとローランにわたくしとの交際を邪魔されますわ! ローランが、決闘に負けたやつは引っ込んでいろ!と言い出すに決まっています」
「それはおじさんの望むところだったり?」
「んもう。おじさまも意地悪ですわ!」
わたくしはやる気ゼロのおじさまを、手に持ったハンカチで叩きました。
「だって…………うん?」
わたくしとの会話の最中だと言うのに、おじさまがよそ見をしました。
何に気を取られたのだろうとおじさまの視線の先を追うと、そこには何かの券を持った男性がおりました。
「この決闘、どっちが勝つか賭けたいやつはいるかー!? 浮浪者が勝つ方に賭けたら、賭け金が十倍になるぞー!」
どこから聞きつけたのでしょう。
今日の決闘に乗じて賭博を始めた者がいるようです。
しかもおじさまが買ったら賭け金が十倍だなんて、おじさまを舐めすぎです。許せません。
「おじさんが勝ったら、賭け金が十倍!?」
ですがおじさまは怒るどころか、嬉しそうな顔をしながら賭博券を売る男に近付きました。
あの顔は、賭博券を買うつもりなのでしょう。
「なあ、兄ちゃん。おじさんにも賭博券を売ってくれ」
「おじさま、賭博はよくありませんわ。ああいうものは胴元が儲かる仕組みですもの」
「そうだとしても、賭けない手は無い。だって簡単に大金が手に入るんだからなー!」
そう言っておじさまは懐を漁ると、さっさと男に金銭を支払ってしまいました。
どうやら全額自分にベットしたようです。
「おじさまは決闘に勝つつもりが無いと仰っていましたよね?」
「それは過去のおじさん。今のおじさんは、決闘に勝つ気満々!」
おじさまは先程までのけだるそうな様子はどこへやら、決闘前のストレッチを始めました。
「ええと……やる気になってくださったのですから、結果オーライなのでしょうか」
念入りにストレッチをするおじさまを見て、わたくしは喜ぶべきか悲しむべきか判断に迷いつつ、刺しゅうをほどこしたハンカチをおじさまのポケットの中にねじ込みました。




