★15
わたくしが目を輝かせながらそう言うと、おじさまはあからさまに面倒くさそうな声を出しました。
「あー、その話かー」
「おじさま、魔物迎撃隊に入ってはくれませんこと!? 悪いようにはしませんわよ!?」
「入るも何も、まだそんな隊は無いんだろー?」
「わたくしとおじさま。二人いれば、隊を名乗れますわ!」
「おじさん、隊とか団とか、そういうものに縛られるのは嫌いなんだよねー」
おじさまはいつもこうです。
断ってばかりではなく、もっと積極的に動いてほしいものです。
輝く未来は積極的に動く者にしか訪れません。わたくしはそのことをおじさまに教わったのです。
それなのに当のおじさまがこのような態度なのは納得できません。
「おじさまとわたくしだけの隊なのですよ。難しく考えないでくださいませ。仲良しグループみたいなものですわ!」
「仲良しグループって言うけど、魔物が出たら討伐しに行くんだろー?」
「もちろん。そのための魔物迎撃隊ですから!」
「じゃあパース。おじさんはなるべくごろごろしてたいの。もう人生に疲れちゃったんだよー」
「そういうことを仰るのは、少なくともあと三十年生きてからにしてくださいませ!」
「おじさん、そんなに長生きするつもりなーい」
わたくしがおじさまを揺さぶっても、おじさまはガクガクと揺れるだけで、魔物迎撃隊に入るとは言ってくれません。
しかし諦めるわけにはいきません。
おじさま以上に魔物迎撃隊にピッタリな人材など、そうそう見つかるものではありませんので。
「……あれ。もしかして、アリーゼ?」
わたくしがおじさまを揺さぶっていると、突如としてわたくしの名前が呼ばれました。
振り返ると、そこにいたのは。
「まあ、ローラン。ローランがこんなところに来るなんて珍しいですわね」
路地裏でわたくしのことを呼んだのは、幼馴染のローランでした。
意外な人物の登場です。
だってローランと路地裏は、まったくもって結びつきません。
「ローランは路地裏に用事がありましたの? こんなところに用事なんてありまして?」
「それを言うならアリーゼだって。こんな治安の悪い路地裏で一体何をしているんだい?」
「わたくしは、おじさまとお喋りをしておりましたのよ」
「おじさま?」
「こちらのおじさまですわ」
わたくしが満面の笑みでおじさまを指し示すと、ローランが眉をひそめました。ブランカと同じような反応です。
世間の浮浪者への反応は、これが多数派なのでしょう。
わたくしもおじさまと知り合わなかったら、このような反応をしていたかもしれません。おじさまと知り合った今となっては、想像も出来ないことですが。
「は、はあ。彼はアリーゼの知り合いなの? どういう関係?」
「おじさまは、わたくしの想い人ですわ」
「へえ。アリーゼの想い人……はあっ!? 想い人!?」
声を裏返らせながらわたくしの言葉を復唱するローランを見て、おじさまが苦笑しました。
「ビックリしちゃうよなー。おじさんだってビックリしてるもん。若干、新手の詐欺なんじゃないかと思ってる」
「おじさまはいい加減に慣れてくださいませ!」
「そんなことを言われてもなー。貴族のお嬢様からの愛なんて、慣れるわけがなくなーい?」
「んもう。愛を連呼したら慣れていただけます!? おじさま、好きです。愛しています。おじさまと付き合いたいです。あわよくば結婚したいです。生涯の伴侶になってください」
わたくしの愛の言葉の大盤振る舞いに反応を示したのは、おじさまよりもローランでした。
「なっ、なっ!?」
言葉が出てこないのか口をパクパクとさせたローランは、ふらふらしながらおじさまの元まで歩き、そしておじさまの胸元を掴みました。
「浮浪者のお前! アリーゼを誑かして何が目的だ!?」
ローランはおじさまをガクガクと揺さぶっています。
先程のわたくしと同じ行為ですが、ローランのそれには愛がありません。
「お前、アリーゼに何をした!?」
「ローラン。おじさまに失礼な態度を取るのはやめてくださいませ!」
「いいや、これが普通の反応だと思うぞー」
ローランを止めようとするわたくしに、おじさまが平然としながら述べました。
おじさまはこのような愛の無い扱いに慣れているとでも言うのでしょうか。
……慣れているのでしょう。おじさまの態度を見れば分かります。
「やめてください、ローラン。ローランのこんな姿は見たくありませんわ。もちろんおじさまのこのような姿も」
わたくしはおじさまの境遇を思って悲しい気持ちになりながら、ローランの腕を握りました。
「……分かったよ。でも聞かせてほしい。こいつの何が良いんだよ、アリーゼ」
ローランに問われたわたくしは、胸に手を当てながら考えました。
おじさまの良いところ。好きなところ。
最初はスマートにひったくりを捕まえて、紳士的に謝礼を断ったところが魅力的に映り、話していくうちにおじさまの生き様が素敵なことを知りました。
それにおじさまはわたくしに大切なことを教えてくれました。
正解ではない道を進んだとしても、一所懸命に歩けば、誇れる人生になる。
おじさまがいたからわたくしは退屈な日常から抜け出して、活き活きと生きることが出来ているのです。
おじさまは、悩んでいるわたくしに道を示してくださったのです。
このようなことの出来る方が魅力的でないわけがありません。直接このようなことをされて惚れないでいられるわけがありません。
「何が良いと聞かれましても、おじさまの良いところを語り出したら一時間や二時間では終わりませんわ。だっておじさまはものすごく素敵な方なんですもの。惚れない方がおかしいですわ」
「素敵な方!? 浮浪者のどこが!?」
「おじさんもそう思う。お嬢様は趣味が悪いぜ」
先程から何故かおじさまはローランに同意の姿勢を見せています。
まさかとは思いますが、おじさまはローランにわたくしを押し付けようとしているのではないでしょうか。
シュザンヌもわたくしとローランが付き合うものだと思っているようでしたし、一体わたくしとローランの何が周囲に勘違いをさせるのでしょう。
まったく困ったものです。
「わたくしの趣味はものすごく良いですわ。よく趣味の良いドレスを着ていると褒められますもの。ローランだってわたくしが誕生日にあげた小物を趣味が良いと褒めていたではありませんか」
「アリーゼはドレスや小物の趣味は良いけど、男の趣味は最悪だったみたいだね。これまで知らなかったよ」
「そんなことはありませんわ。わたくしは趣味が良いからこそ、おじさまのことが……」
「アリーゼ、もうこんなところに来てはいけない。こいつのことは忘れるんだ!」
ローランがわたくしの腕を引いて、おじさまから遠ざけようとしました。
ですがわたくしは遠ざけられた途端に、逆におじさまにピッタリとしがみつきました。
「嫌ですわ! わたくしはおじさまと魔物迎撃隊を結成して、魔物を退治しつつ、ラブラブで幸せな生活を送るんですの!」
「魔物迎撃隊!? アリーゼは一体何の話をしているんだ!?」
「おじさまはとっても強いんですのよ! ですからわたくしはおじさまと二人で魔物迎撃隊を結成するんですの!」
そう言って、わたくしはローランをにらみつけました。
ローランはわたくしの瞳をまっすぐにとらえてから、わたくしではなくおじさまのことをにらみました。
「よく分からないが、分かった! アリーゼはこの男が強いから惚れたってことだな!? 女性は強い男に惚れるという話を聞いたことがある。なるほど、そういうことか! 強さが惚れた理由か!」
「ちょっと、ローラン? わたくしは別に強いからおじさまが好きなわけでは……もちろん強いところもおじさまの魅力だとは思いますが」
「おい、そこの浮浪者。僕と決闘をしろ!」
わたくしが混乱している間に、ローランが自身の手袋をおじさまに投げつけました。
決闘の申し込みです。
「ええー。話の展開が早すぎて、おじさんついていけなーい」
しかしおじさまは手袋を拾おうとはしませんでした。
おじさまの性格から考えて、決闘などという面倒ごとには巻き込まれたくないのでしょう。
おじさまが受けないのなら決闘は成立しない……と思っていると、ローランがおじさまの弱点を突きました。
「決闘を受けないなら、路上を不法占拠した罪でお前を立件する」
「うげえ」
おじさまはとても嫌そうな顔をしながら、渋々ローランの投げつけた手袋を拾いました。




