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「はあ。お見合いを台無しにした件で、ずいぶんと自宅謹慎をさせられてしまいましたわ」
おじさまとのひとときのデートを終えて屋敷に帰ると、わたくしがお見合いから連れ出された件はすでに屋敷中に知られておりました。
しかも誘拐事件として捜索隊を結成している最中だったらしく、わたくしの帰宅には誰もが驚いていました。
わたくしが無事に帰ってきたことで大きな事件にはなりませんでしたが、わたくしは当面の間の自宅謹慎を言い渡されてしまいました。
お見合いをぶち壊した件でわたくしに何らかの処置をしないとレナルツ伯爵に申し訳が立たないこともあるのでしょうが、それよりもわたくしを外に出すことでまた誘拐されるかもしれないという想いからの謹慎処分だったのでしょう。
謹慎処分ではあるものの、わたくしは屋敷の敷地内にいる分には何も制限をされることはありませんでした。
「おかげで魔法は上達しましたが、おじさま摂取不足で元気が出ませんわ。早くおじさまに会って、心の栄養を補給しないと」
自宅謹慎を言い渡されたわたくしは、魔法の先生を屋敷に呼んで、いつもよりも長い時間を魔法の練習に当てました。
その甲斐あって、わたくしはついに風を起こす魔法を使うことが出来るようになったのです。
まだまだ攻撃魔法と呼べるような代物ではありませんが、一生魔法を使えないまま終わる人が多い中で、少しでも魔法を使うことが出来た事実は十分な成果と言えるでしょう。
わたくしは謹慎処分が解けるとすぐに、おじさまのいる路地裏へ向かいました。
お見合いの件を聞かされていたブランカはわたくしを止めてきましたが、こちらには「ブランカがおじさまとわたくしの恋のキューピッド」という伝家の宝刀があるのです。
わたくしの目論見通り、キューピッドの件を口にした途端に、ブランカはわたくしの行き先に口を挟まなくなりました。
「おじさま、お久しぶりですわ。最近わたくしと会えなくて寂しい思いをしていたのではありませんか?」
「だからー、おじさんは、お嬢様が来なくても寂しくなんかないのー」
「またまた」
「またまたって……もう何でもいいや」
「そんなことより。見てください、おじさま。わたくし、魔法が使えるようになったんですのよ!」
わたくしは懐から魔法の杖を取り出して、習得したばかりの風魔法を披露しました。
杖が無くても魔法を発動させることは出来るのですが、杖があると魔力を一点集中させやすいため、多くの魔法使いが杖を使っています。
ちなみにわたくしは魔法の杖という補助があって、やっと魔法が使える段階です。
とはいえ杖を使ったところで威力のある魔法は使えませんが。
「風よ吹き荒れろ、嵐のように! 風よ吹き荒れろ、嵐のように! えいっ! えいっ!」
わたくしは何度も風魔法を発動させました。
すると複数回魔法を発動させたことにより、おじさまの前髪がふわっと浮きました。
なんだか息を吹きかけるのとあまり変わらないような、むしろ複数回魔法を使ってやっと息を吹きかける程度の威力のため息を吹きかけた方が風が強いような。
それでも、魔法は魔法です。
「まだささやかな量ではありますが、風が吹いたでしょう?」
「風魔法かー。物を乾かすのに便利な魔法だよな。雨が降ったときにはおじさんの服も乾かしてほしいなー」
おじさまは寝起きなのかボーッとした顔でそう言ってから、がばっと身体を起こしました。
「……って、もう魔法が使えるのか!? ついこの前魔法の勉強を始めたんじゃなかったっけ!?」
わあ。何故かおじさまがわたくしの魔法に興味を持ってくれたようです。
わたくし自身ではなく、わたくしの使う魔法に興味を持ったというのは少し複雑な気分ではありますが、わたくしの使う魔法もわたくしの一部だと考えれば、大きな意味では、おじさまはわたくしアリーゼ・ド・アングルヴァンに興味を持ったと言えるでしょう。
「魔法の先生曰く、わたくしには魔法の才能があるらしいですわ。わたくしのやる気を出させるためのリップサービスかもしれませんが」
「いやあ、実際に才能があるんじゃないか? まだ一か月も練習をしてないだろうに、風魔法が使えるんだから」
「ふふっ。おじさまに褒められると嬉しいですわ」
わたくしは得意になって杖をくるくると回してみせました。
この行為には特に意味はありません。魔法も発生しません。
ただ魔法の先生が癖で杖回しをしているのを見て、格好いいと思って練習をしただけです。謹慎処分中のわたくしは、時間を持て余していましたから。
「人にはそれぞれ得意な魔法があるらしくて、わたくしは風魔法が得意なんですって。ですから風魔法を中心に練習をしていますのよ」
「数週間で習得したなら、そりゃあ風魔法が得意なんだろうな」
「ええ。水魔法や炎魔法も練習をしてみたのですが、ちっとも出てくれないんですの」
「そっちの方が普通だよ。おじさんなんか何か月練習しても、水も炎も風も土も、何一つ出なかったんだから」
わたくしが杖を見ながら呟くと、おじさまが笑いながら告げました。
どうやらおじさまも、過去に魔法の練習をしたことがあるようです。
ですが、いつどこで魔法の練習をしたのでしょう。
この世界に魔法使いはそう多くはありません。魔法を習いたくても、魔法の先生が見つからないことがよくあるのです。
お金を持っている貴族なら魔法の先生を付けることも可能ですが、おじさまは貴族ではありません。では、おじさまはいつどこで魔法の先生と出会ったのでしょう。
「ねえ、おじさま。前にもそのようなことを仰っていましたが、おじさまも魔法の勉強をしたことがあるんですの? どういう伝手で習いましたの?」
「騎士の伝手で……いや、通りすがりの魔法使いが教えてくれたんだ」
「通りすがりの魔法使いが教えてくれた……んですの? 酔狂な魔法使いもいるのですね」
「そう。酔狂、酔狂。ただおじさんには魔法の才能が無さすぎて、一度も魔法を発動させられないまま終わっちゃったけどなー」
そう言っておじさまはお酒をグイっと煽りました。お酒は寝起きに飲むものではないような気がするのですが……。
一方でおじさまの発言を聞いて、わたくしはピンときました。
「おじさまが魔法を使えないのは、天は二物を与えず、というものではありませんか? だっておじさまは肉弾戦がお強いですもの」
「肉弾戦って。ひったくりを転ばせたり、泥棒を殴ったことを言ってるのか? それは買い被りすぎだよー」
「いいえ。あの身のこなしは、ただ者ではありませんわ! それにおじさまは肩に賞金首を担ぎながら、わたくしのことを抱えていらしたではありませんか!」
「あれくらい男なら誰でも出来るって。百姓なんか両肩に米俵を担ぐこともあるんだぞー?」
「んもう。わたくしが強いと言っているのですから、強いと認めてくださいませ。おじさまはとってもお強いんですの!」
「ははは。ありがとよー」
おじさまはわたくしの言葉を本気にしていないのか、雑な相槌を打ちました。
絶対に絶対に、その辺の護衛よりもおじさまの方がお強いと思いますのに。
そう、おじさまはとても強いのです。それなのにおじさまはその強さを無駄にしています。日がな一日このようにごろごろとしていては、宝の持ち腐れです。
「おじさまはあんなにお強いのに、どうして路上で生活をしているんですの? あの強さがあるなら、職業の選択肢はたくさんあると思うのですが」
「残念ながら、おじさんは怠惰なんだよなー。一日一時間しか働きたくないの。あとは酒を飲みながらぐうたら暮らしたーい」
「腕が立って、一日一時間しか働きたくない……」
いくら腕が立とうとも、そのような人材はどこも採用してくれません。
そう、普通の職業なら。
「……まさかおじさまは、わたくしの求めていた人材なのではありませんか!?」
「求めてた人材?」
「魔物が出るまではこの町で待機をして、魔物が出たときにだけ魔物退治で動く。魔物迎撃隊の理想の人材ですわ!!」




