★13
「おじさま!?」
レストラン内を逃げ回っている男を追っているのは、まぎれもなくおじさまです。
あんなに素早く動くおじさまは初めて見ました。
「どうしておじさまが……あっ」
一瞬おじさまと目が合った気がしましたが、おじさまはわたくしに構うことなく男を追い続けています。
「ちょーっと、失礼!」
「きゃああっ!」
今やレストランは食事どころではありません。
あちらこちらで前を走る男によって食器がめちゃくちゃに落とされ、おじさまが食器攻撃を避けながら男を追いかけています。
「そこの賞金首、待ちな!」
「待てと言われて待つわけがねえだろ!」
前を走る男はテーブルの隙間を縫うように逃げ、おじさまを翻弄しています。
しかししばらくレストラン内を逃げ回った男は、ついにおじさまによって壁際まで追い詰められました。
そしてじりじりと男に詰め寄っていたおじさまが、一気に男との距離を縮めました。
「待つなら紳士的に連行してやろうと思ったのに。残念だったな!」
男に近付いたおじさまは、男のお腹に拳を打ち込みました。
見ているこちらまでお腹が痛くなるような、強烈な一撃です。
「うぐっ……」
おじさまの拳を受けた男は一声呻いたかと思うとどさりとその場に倒れ、そのまま動かなくなってしまいました。
どうやらあまりの痛みに気絶をしたようです。
男が気絶をしたことで、レストラン内に静寂が訪れます。
「お騒がせしてすみませんねー。実はこいつは悪質な泥棒でね。懸賞金が出るくらいの悪党なんですよー」
おじさまは成り行きを見守っていたレストランの客たちにそう告げると、男を肩に担ぎました。
気絶している男は抵抗もせずにおじさまに担がれます。
「ってことで、さようなら」
呆然としている客たちに手を振りながら、おじさまはレストランを去ろうとしました。
しかし去る直前、何かを思い出したようにわたくしの方へと歩いてまいりました。
そして。
「そうだ。ついでにこっちの女性も連れて行かせてもらいますよー。彼女は俺の元恋人なんですよ。別れたけど俺はまだ諦めきれてないんで、さらっちゃいまーす。ってことで、今度こそ。さよーならー」
おじさまはすべての客に聞こえるような声量でそう宣言をすると、男を担いでいない方の腕でわたくしのことを抱えました。
そして今度こそレストランを出て行きました。
出て行く寸前、おじさまに抱えられながらちらりと後ろを見ると、口をあんぐりと開けたまま呆けているレナルツ伯爵令息が目に入りました。
「おじさま! 来てくださったんですのね!」
レストランから出たおじさまに向かって、わたくしは歓声を上げました。
お見合いの場から連れ出すなんて、まるで恋愛小説のようです。
「ものすごくロマンチックでしたわ!」
「お嬢様、ロマンチックの意味は知ってる?」
「ロマンチックとは、先程の出来事のことを言うのですわ。おじさまがわたくしをさらいに来たんですもの!」
「追ってた賞金首がこのレストランに逃げ込んだだけー。お嬢様はついでだよ、ついで」
「そうやって恩を着せないように振る舞わなくても良いんですのよ。わたくし、分かっておりますから。おじさまはわざと強盗がこのレストランに逃げ込むように誘導してくださったんですよね?」
だっておじさまはひったくりを捕まえたときも、寝返りを打っただけ、と恩を着せないように振る舞っておられました。
だからきっと今日のこれも、わたくしに気を遣わせないように、場を整えてくださったに違いありません。
なんてスマートで、なんて紳士的なのでしょう。
わたくし、おじさまを惚れ直しました。
「おじさまはわたくしをお見合いから連れ出すために、あのレストランにやって来たのでしょう? そうでしょう?」
「お嬢様はポジティブだなー」
「ふふっ。ポジティブに生きた方が人生は楽しいですもの」
「その意見には同意だな!」
おじさまはわたくしを抱えながら、ニカッと歯を見せて笑いました。
いつもはやる気の無いおじさまですが、今日はハツラツとして見えます。だからでしょうか。少しだけおじさまが幼く見えたのは。
おじさまの新たな魅力を発見です。
「ねえ、おじさま。ポジティブついでに、このまま二人でデートをするのはどうでしょう? せっかく二人きりなんですもの」
「担いでるこいつも入れたら三人だろ」
「気絶をしている人間はカウントされませんわ」
「あっはっは! 賞金首を担いだ状態でのデートを提案するなんて、お嬢様は大胆だなー」
「ふふっ。おじさまは大胆な女性が好きなのでしょう?」
「そうだったな。今日はお嬢様の勝ちだ」
おじさまはそう上機嫌に述べると、わたくしを降ろして、一緒に歩いてくれました。
捕まえた賞金首を受け渡しに行く道中だけのことではありますが。
これは……デート換算をしても良いですわよね!?
わたくしはおじさまとのデートで頬をぽおっと紅潮させながら、騒がしい昼の町を歩きました。
なんと言うこともないただの町歩きでしたが、これほど楽しい町歩きは生まれて初めてでした。
きっとこれが、恋の力。
ただの町歩きを、この上なく楽しいものにしてしまう、不思議な魔法。
この不思議な魔法に引き寄せられるように人は恋をするのだ、とわたくしは実感しました。




