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お見合い当日。わたくしはレストランで赤毛の男性と向かい合って座っておりました。
外はわたくしのどんよりとした心を嘲笑うかのような、気持ちの良いお天気です。いつもはお天気だと気分が良いのですが、今日に限っては、ますますわたくしの心を沈ませていくだけです。
「はじめまして。私はギュリヴェール・レ・レナルツと申します」
「ごきげんよう、レナルツ伯爵令息。アリーゼ・ド・アングルヴァンですわ」
しかし気分がどんよりしているからと言って、顔に出してはいけません。お見合い相手に落ち度は無いのですから。
わたくしの暗い気分を態度に出すことでお見合い相手を嫌な気持ちにさせるのは、八つ当たりであり自分勝手というものです。
「本日はお日柄も良く、本日の太陽は他人の気持ちを無視しているかのような輝きですわね。暗い気持ちの者にも無理やり光を当てる無神経さがありますわ」
「あはは。初めて聞く天気の表現方法ですね。確かにすべてを輝きで照らし出すような力強い太陽です」
わたくしの感情の漏れ出た発言に、レナルツ伯爵令息は気を害した様子も無く答えました。
……もしかするとレナルツ伯爵令息は気を悪くしているのかもしれませんが、少なくとも態度には表れていません。
それに比べてわたくしの体たらくと来たら、自分で自分が嫌になります。
「この度は、私とのお見合いを受けてくださってありがとうございます。実は前からアングルヴァン子爵令嬢に興味があったのです」
「わたくしに?」
レナルツ伯爵令息がわたくしに向かって微笑みました。貴族らしい優雅で隙の無い微笑みです。
「アングルヴァン子爵令嬢は、舞踏会で見事なダンスを披露されておりましたので。私からだけではなく、他にも見合いの話がたくさん来ているのではありませんか?」
たくさんが何通を指しているのかは不明ですが、お見合いの話はそれなりに来ています。
しかし誰にも興味を持つことが出来なかったため、なんとなくすべてにお断りの返事を書きました。
今となっては魔物迎撃隊を作る目的があることと、おじさまという想い人がいるため、なんとなくではなく確固たる意思を持ってお断りをすると思います。
……今日のお見合いは何故か受ける流れになってしまいましたが。
「アングルヴァン子爵令嬢は魅力的な方ですから、目を付けている貴族は多いことでしょう」
「ふふっ。ありがたいことに、何件かはお話をいただきました。すべてお断りいたしましたが」
「へえ。そんな中で私との見合いを受けてくれたと言うことは……期待をしても良いってことですか?」
レナルツ伯爵令息の目がきらりと光りました。
しかし残念ながらわたくしが今日ここへ来たのは、わたくしの意思ではありません。
「ええと、あの、本日の見合い話はお父様が持ってきたもので……そういえば、どうしてお父様がお見合い写真を持っていたのでしょう?」
今さらですが、お見合いの話をお父様がわたくしに持ってきたのはこれが初めてです。
いつもはお父様に知られる前にお見合いの話を蹴っていましたのに、どうしてでしょう。
わたくしの疑問には、レナルツ伯爵令息が答えをくれました。
「それはもちろん、見合いの話をアングルヴァン子爵宛てに送ったからですよ。娘さんとお見合いをさせてください、ってね」
「どうしてお父様に?」
「アングルヴァン子爵令嬢が片っ端から見合いの話を断っているという話は、実は有名なんですよ。そのため策を講じたというわけです。変な期待はしておりませんのでご安心ください。さっきのは冗談です」
「冗談でしたのね。わたくし、まんまと引っ掛かってしまいましたわ」
「あはは。ただ、子爵家のくせに生意気だと怒っている人もいましたので、気を付けた方が良いですよ」
「そうだったのですね。ご忠告をありがとうございます」
わたくしは素直にお礼を述べつつ頭を下げました。
失礼にならないようなお断りの手紙を出しているはずですが、文面がどうであれ断られたことに腹を立てる人がいてもおかしくはないでしょう。
お見合いを断られたからアングルヴァン家を冷遇する、なんて恥ずかしい真似をする貴族はいないと思いたいですが、今後はより一層お断りの方法に気を配った方が良いかもしれません。お見合いをお断りする代わりに一緒にお茶をする、くらいのことはした方が良いのでしょう。
「ところでアングルヴァン子爵令嬢……ううん、アリーゼ嬢」
わたくしが今後の方針を固めていると、レナルツ伯爵令息の吐息が顔にかかりました。
何故吐息が?と顔をあげると、いつの間にかレナルツ伯爵令息は正面の椅子から居なくなっており、わたくしの真横におりました。
「レナルツ伯爵令息!?」
「アリーゼ嬢は、恋愛経験が豊富ですか?」
「あの、えっと」
レナルツ伯爵令息が手慣れた様子でわたくしの手をさすりました。
「豊富でも、豊富ではなくても、どちらでも魅力的ですけどね」
レナルツ伯爵令息はわたくしの手をさすることをやめ、今度はわたくしの手に自身の手を絡ませてきました。
レナルツ伯爵令息は真面目だと聞いていたのに、話が違います。
「き、距離が近いですわ。あなたとわたくしは初対面ですのに」
「初対面ではありませんよ。舞踏会で挨拶をしたことも、一緒に踊ったことも、忘れてしまいましたか? 貴族令嬢として、それは良くないですね」
確かに挨拶をしたり一緒に踊った相手のことを忘れる行為は、ものすごく失礼です。この件に関してはわたくしに落ち度があります。
「申し訳ありません」
「気にしなくていいですよ。これからは、あなたにとって二度と忘れられない相手になりますので」
「それはどういう……」
「きゃあああーーーーっ!」
そのときです。
店の入り口付近から食器の落ちるガシャンという音が響いてきました。
それと同時に複数人の叫び声も飛んできます。レストランで聞こえてはいけない音と声です。
「何が起こったんですの!?」
甲高い女性の悲鳴に驚いてそちらを向くと、女性の横を二人の男が通り過ぎるところでした。
前を走っている男がテーブルクロスを引っ張り、そのせいで床に散らばった食器を避けながら後ろの男が追いかけます。
前の男は知らない人ですが、後ろの男は、あれは――。




