★11
「……と言うことなんですの」
翌日。わたくしの身に起こったことを報告すると、おじさまは可哀想なものを見るような目をわたくしに向けてきました。
「貴族令嬢も大変なんだなー」
「ええ。わたくしだって良い暮らしをさせてもらっている分、家にお返しをしなくてはならないとは思っているのです。ですがその方法は結婚ではなく、魔物迎撃隊を結成してこの町の民を守ることでお返ししたいと思っています」
「家にお返しねー。お嬢様は真面目だなー」
他人事と言いたげな――実際に他人事なのですが――おじさまに、わたしはすがりつきました。
「おじさま、助けてください! このままではわたくし、結婚をさせられてしまいますわ!」
「そんなに嫌なら、見合いの場で性格が合わないって断ればいいんじゃないのか?」
「無茶ですわ。相手はお父様が決めた伯爵令息ですもの」
「貴族令嬢は面倒くさいんだなー」
おじさまがまた他人事のように言いました。
「仕方がありませんわ。相手の方がうちよりも爵位が上ですもの。わたくしから結婚を断ることなんて出来ませんわ」
わたくしの言葉を聞いたおじさまは、やや面倒くさそうにボリボリと頭をかきました。
「うーん。お嬢様から断るのがダメなら、相手から断られるように仕向けるのはどうだ? 相手の前で屁をこくとか」
「おならって、出したいときに出せるものですの?」
「えっ、どうだろう。おじさんは試したことがないから知らないなー」
そう言っておじさまが、傍らに置いていたお酒の瓶を口に運びました。
おじさまの横にはいつもお酒が置かれています。一方でご飯を食べているところは見たことがありません。
お酒を買うお金があるならご飯を買えばいいのに、と思うのはわたくしだけでしょうか。
「屁は踏ん張ったら出るんじゃないかー? ただし間違って実まで出さないように注意しろよー。ああでも脱糞したら、それはそれで見合いの話が流れるかもなー。ガハハハ」
「んもう。真面目に考えてくださいませ!」
「そんなことを言われてもなー。おじさんは貴族の見合いとは縁が無いからなー」
そう、これは貴族令嬢であるわたくしの問題。
だからわたくし自身でも、昨晩たくさんたくさん考えました。
「わたくしも昨日、どうすれば結婚をしないで済むか考えたんですの。そして良い案を思いつきましたわ」
「なーんだ。自分で良い案を思いついてたのか。それで、その良い案ってのは、どんなものなんだ?」
わたくしは無言でおじさまを見つめました。
すると何かを察したおじさまが、顔を引きつらせ始めました。
「……なんだか嫌な予感」
「わたくしの考えた結婚しない方法はこうですわ。おじさまがわたくしの交際相手のフリをして、お見合い会場からわたくしをさらってしまえばいいのです!」
わたくしが誇らしげに考えてきた案を披露すると、おじさまは渋い顔になりました。
「簡単に言ってくれるねー。お見合い会場からお嬢様を連れ出すって、なかなかすごいことだと思うけどなー」
「ふふっ。ですがこれなら厄介な交際相手がいるわたくしとの結婚は出来ない、と相手からお断りの連絡が来るはずですわ」
「でもそれって、お嬢様の家が相手方から怒られるんじゃないの?」
「わたくしはきちんと別れたつもりで、しかしおじさまがわたくしを諦めきれずに暴走してしまったと言うことにするんですの。そうすれば、悪者はおじさま一人になるでしょう?」
そう言ってわたくしがウインクを飛ばすと、おじさまが渋い顔のまま笑いました。
「お嬢様って結構な性格をしてるよな」
「でも、面白そうだとは思いませんこと?」
「確かにちょっと面白そうではある」
「ではこの依頼を引き受けていただけますわね?」
「断る」
「ええーっ!?」
おじさまも面白そうだと仰ったのに、依頼を断る!? どうして!?
わたくしが混乱をしていると、おじさまが依頼を断った理由を教えてくれました。
「だって明らかに面倒くさそうな依頼なんだもーん。お嬢様を連れ出すだけで終わる話なら良いけど、そのあとも面倒ごとに巻き込まれそうな予感がプンプンする話だぞ、それ」
「プンプンしてしまいました!? もしかするとこの一件から何だかんだでおじさまと結婚する流れになったらいいな、と考えていたわたくしの作戦もバレてしまったでしょうか!?」
「いや、そうはならんだろ。むしろお嬢様の見合いを台無しにしたおじさんは、お嬢様の家族に烈火のごとく嫌われるだろうから、結婚なんて絶対に無理だぞ」
「言われてみると、確かに……?」
おじさまが家族に嫌われてしまうのは困りものです。
しかし今はそのことを気にしている場合ではありません。一度嫌われたとしても、その後で好きになってもらえばいいだけの話です。
ですが一度結婚をしてしまったら、後戻りは出来ません。
「お願いしますわ、おじさま。結婚をすることになったら、魔物迎撃隊を作るどころではありませんわ!」
「それは可哀想だと思うけど、思い通りに行かないのが人生だからなー」
「謝礼ならいたしますわ。お酒でもご飯でもお布団でも、何でも用意することを約束いたします!」
「そのくらいの金なら、魔物を狩る依頼をこなせば手に入るんだよなー」
「そこを何とか! わたくしを助けると思って!」
わたくしは必死でおじさまに懇願してみましたが、おじさまの首が縦に振られることはありませんでした。




