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9話 ゴールドラッシュ作戦

 俗に統一戦争と呼ばれている帝国と連合軍の戦争が始まって間もない頃。ドルヴァドスはまだ第8部隊に所属する大尉であり、さほど突出した人物ではなかった。ただ、当時の隊長や副隊長からパイロットとしての腕前は評価されていたし、撃墜された経験もまだない。


 貴族が幅を利かせるデュクス帝国で、平民出身であるドルヴァドスの出世は頭打ちが来ることを知っていた。今でこそ皇帝陛下が能力主義を徹底した結果、そのような風習は欠片も残されていないが、当時、高級将校になれるのは貴族出身者だけだったのである。


 だからドルヴァドスは密かに目標を立てた。昇進が望めないならエースパイロットとして名を残してやる。一機でも多く敵を落とし、自身の名をこの惑星に知らしめてやると。実際、それだけの実力はあったに違いない。今まで腕に覚えがあるらしい敵と何度も戦ったが、最後には必ず勝ってきた。


 そんな彼の自信を徹底的に叩き潰したのが、連合軍のローウェン・ハーバードなのだ。ハーバードは連合軍に加盟する小国の出身で、当時まったくの無名であった。侵攻してくる連合軍を迎え撃つ格好で戦ったが、ドルヴァドスはあろうことか会敵後、数分足らずで撃墜されてしまった。


 恐ろしいほど正確な射撃でこちらの突撃銃を撃ち落とされ、それならばと弾切れの隙を狙って接近戦をしかけた。対するハーバードの判断は早かった。弾の切れた突撃銃を捨てて左手に剣、右手にコンバットナイフを持ち、まず左手の剣でドルヴァドスの斧を防ぎ、右手のナイフで鮮やかに頭部を潰された。


 このとき、相手が胴体を即座に狙わなかったのはドルヴァドスが本能的な死の恐怖から盾で操縦席を守ったからだろう。それでも頭部を斬り落として上からナイフを通せば、操縦席を攻撃することは可能だ。ナイフの二撃目が来る前に、ドルヴァドスはハッチを開けて逃げ出した。


 あのときの屈辱は今でも鮮明に思い出せる。それ以来、何度も交戦する機会があったものの、決着は未だについていない。どちらかが死ぬまで勝負は続くのだ。第8部隊の隊長に上り詰め、大佐となった今でもその想いは変わらない。


「いい加減にしたいものだな、このライバル関係も。もちろん勝つのは私だ」


 ドリュアス級陸上戦艦〈バルバロイ〉の艦橋内。艦長の座席に腰かけたドルヴァドスは足を組み、モニターに映された景色を眺めながら呟いた。どこまでもつまらない荒野だ。しかし東側に視線を移せば、雄大な山々が連なっている。


 レイアム基地の周辺は基本的に荒野だが、高い崖や山も多い。陸上戦艦が通れるルートは意外と限られている。今回は戦艦が十隻もいるのだから、なおさら経路は絞られてくる。考えた結果、現在のルートがもっとも広く、奇襲の可能性も低いはずなのだ。


 レーダーは連合軍の陸上戦艦が接近しているのを示している。お互い、戦艦の砲撃が届く距離まであと少し。そこから頃合い見てアクトフレームを出撃させ、本格的な戦闘が始まることになる。数の上では互角。しかし機体の性能差を考慮すれば確実にこちらが有利だ。


「よし、艦砲射撃を開始しろ。アクトフレーム全機発進準備! 性能が上だからと言って気を抜くなよ」


 陸上戦艦同士の撃ち合いが始まり、両軍のアクトフレームが次々と荒野へ飛び出していく。オリーブ色の塗装で彩られたエリテイルたちが戦場を駆け抜け、連合軍のライトフラムを瞬く間に撃墜していった。


「ドルヴァドス大佐、私たちが圧倒的に優勢ですね。今回ばかりは勝てるんじゃありませんか?」

「ふん。当然だエムブラ。ハーバードの奴ならエリテイルだろうと難なく撃墜するだろうが、一人だけ強くとも戦況は変えられん」


 〈バルバロイ〉の副艦長であるエムブラの声もどこか嬉し気だ。エムブラはポニーテールに結んだ自身の黒髪を触りながら、片時もモニターから目を離さない。第8部隊にはハーバードを相手にしたときだけ決まって痛い目を見てきた歴史がある。おかげで他の部隊からは見下されている節があり、肩身の狭い思いをしている。


 副隊長にしたってそうだ。一年前、第8部隊の副隊長はハーバードに撃墜されて死亡した。その後任がアスク・ヴァリエールという男なのだが、まだ26歳という若さである。有望な士官に限ってあの男に殺される。第8部隊は常に人手不足で、まだ若いエムブラが副艦長をやっているのもそういう関係だ。


 今回こそは。誰もが第8部隊の勝利を確信していた。異変はその直後に起きたのである。隣を走行していた味方の陸上戦艦の艦橋が撃ち抜かれ、爆発した。前からではない。背後からだ。オペレーターの上擦った叫び声が響いた。


「は、背後から敵襲です! 数は12機! 連合のライトフラムがエナジーランチャーで艦を狙ってます!!」

「なんだとぉ!? そんな馬鹿な話があるか! どうやって後ろに回り込んだんだ!!」


 完全な奇襲であった。なぜ、そんなことが起きているのかまるで理解できない。〈バルバロイ〉が激しく揺れた。艦橋を外しこそしたが、エナジーランチャーのビームが艦に命中したようだ。エナジーランチャーはアクトフレームが携行できる武装の中では最高の威力を誇る。アクト量の多いパイロットしか使えないものの、その威力は戦艦の装甲も突破できる。


 モニターに艦の背後の映像が映し出される。表示されたのは奇襲を行った連合軍のアクトフレーム部隊だ。11機はライトフラムだったが、残りの1機は違う。シアーフラムだ。指揮官や一部の優れたパイロットだけが乗れる少数量産機。レイアム基地であれを操縦するのはローウェン・ハーバードしかいない。心の奥底から怒りが込み上げてくる。


「おっのれぇぇぇぇ。ハーバードか。ハーバードのせいなんだな。エムブラ! 艦の指揮は任せるぞ! 私はエリテイルで出撃する!」

「まっ……待ってください大佐。危険です! もう戦艦だって四隻落とされてるんですよ!?」

「今ならまだ挽回できるだろう! アスクにも通信を入れろ。何機かこっちに寄こせとな。こうなれば私自ら決着をつけてくれるわ!」

「むっ、無茶ですぅ~~~~。大佐、ここは撤退するしか……!」


 座席から立ち上がって格納庫へと向かおうとするドルヴァドスを、エムブラが阻止した。艦橋の扉の前に立ち、出ていかないように通せんぼをする。その間にも、陸上戦艦がまた一隻、二隻と落とされていく。〈バルバロイ〉含めて残り三隻となったところで、ドルヴァドスは諦めがついたのか座席に座り直した。


「……分かった。分かったとも。冷静に現実を受け止めよう。今回は連合軍の作戦勝ちだ。腹立たしいが認めてやる。アクトフレーム部隊を回収しろ、撤退だ!」



 ◆



 ハーバードが考えた作戦は単純だ。敵を囮の部隊で引きつけておいて、背後から奇襲をしかける。たったそれだけだ。ではどうやって奇襲を実行するか。問題はそこなのだ。ハーバードが目につけたのは、第8部隊が移動している経路の東側。その山脈にあった。


 これらは普通の山ではない。数十年前は鉱山として金が掘られていた。その地下には作業用アクトフレームが掘った坑道が広がっている。つまりアクトフレームでも通れる。この坑道を利用して背後に回り込み、第8部隊を襲う。これがハーバードの考案した奇襲作戦なのである。


 もちろん、懸念もあった。数十年使われていない坑道だ。崩落していて通れない可能性だってあった。それら不確定要素を孕みながらも、ハーバードの作戦は成功した。旗艦は仕留め損ねたが、陸上戦艦を七隻落とし、撤退に追い込むことができた。


 誰が言いだしたのか知らないが、この作戦はゴールドラッシュ作戦と通称された。作戦会議でハーバードが金鉱脈を発見しようと冗談を言ったのが始まりらしいが、いつの間にか決まった作戦名を聞いた当の本人が、なぜか一番照れくさそうにしていた。

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