表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

8話 隠されし武装

「あーもしもし。ミィルさんですか? すみません、戦闘中に通信を送ってしまって。だけどどうしても伝えたいことがあったので、司令室をお借りして通信してます。今、大丈夫ですか?」

「正直に言うけど、全然話せる状態じゃない! 帝国の〈赤き翼〉と交戦中なんだ! 用件があるなら手短に頼む!」

「おー……それは大変ですね。それなら、通信が間に合って良かったかもしれません」


 フローレスを走らせてリンド機のところへ向かう。リンド機の盾を取りに行くためだ。フレディ機の盾は真っ二つに切断されてもう使えない。だが無傷の盾があれば、もう少し持ちこたえられる。


 その見え透いた行動を〈赤き翼〉が黙って許すはずはなかった。エナジーライフルの銃口をリンド機に向け、ビームを何度か発射。光線に撃ち抜かれた盾が溶解して壊れる。


「ミィルさん、フローレスには隠し武器がある、っていう話を覚えてますか? 今まではロックのせいで使えなかったんですけど、徹夜で頑張って外しました。全部ではないですけど。ウェポンスロットに入れてあるので使ってください」


 ビームと手裏剣が同時に放たれる。ミィルはフローレスの機動力に任せてビームを回避するが、追尾する手裏剣を避けられず、左腕に手裏剣が二つ突き刺さる。でもまだ腕は動く。この機体の装甲材が堅牢だったおかげで助かった。


 藁にも縋る思いで眼前のコンソールに触れ、ウェポンスロットを確認する。メイカの言う通り、知らない装備が追加されている。〈赤き翼〉に対抗するにはこれに賭けるしかない。今まで空きスロットだったコントロール・スフィアのボタンを押し、新たな武装を起動する。


 エナジーライフルの銃口がフローレスの操縦席に向けられた、その瞬間。フローレスが頭上高くへと飛んだ。放たれたビームの光は直前までフローレスがいた空間を素通りして地面を焼く。これが隠し装備その一、アクティブウィング。高純度のアクトをエネルギーの翼に変えて飛行する次世代のフライトユニットだ。


「飛んだだと……!? 馬鹿な。そんな装備を隠し持っていたのか!?」


 通信越しに動揺する〈赤き翼〉の声が聞こえた。その驚きに反して操縦は冷静そのもので、飛行するフローレスをビームで狙い撃ち、駄目押しとばかりに手裏剣も投擲する。ミィルは咄嗟にコントロール・スフィアを操作して翼で機体前面を覆うようにカバーした。


 淡く虹色に煌めく光の翼が、ビームと手裏剣を弾く。翼は一種のバリアとしても機能するようだ。これならいける。腰にマウントしていた剣を抜き放ち、空を飛翔して距離を詰める。射撃武装はもうないが今なら接近戦に持ち込めると考えたのだ。


「この私とメリザンドに接近戦だと! いいだろう、その考えがどこまで愚劣であるかを教えてやる!!」


 〈赤き翼〉の機体、メリザンドが左腕の盾に収納していた剣を引き抜くと、スラスターを吹かして一直線にフローレスめがけて突っ込んでくる。その様子はさながら赤と白の流星が衝突したかのようだった。フローレスの剣は盾で防がれ、メリザンドの剣が高く振り上げられる。盾を持っていないフローレスでは同じように防御できない。


「潔く散るがいい! フローレスのパイロット!!」

「待ってたぜ、接近戦を受けて立ってくれる瞬間を!! そこだぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!」


 左側のコントロール・スフィアのボタンを押してウェポンスロットを選択。フローレスの左腕を操作する。何も持たない左手が手刀の構えを取った。これが隠し装備その二、イノセンスセイバー。高純度のアクトをプラズマに変換して手に纏う格闘装備だ。


 青白い光を帯びたフローレスの手刀が剣とぶつかり合い、真っ向から叩き折った。そのままイノセンスセイバーの貫き手が肩に命中。メリザンドの右腕を砕きながら吹き飛ばす。片腕を失った〈赤き翼〉は逃げるように後方へ距離を置いた。


「馬鹿な……! 私がこんな失態を犯すとは……!! これでは大佐に示しがつかん……!」

「これで俺の方が有利になったな……〈赤き翼〉! まだ戦闘を続けたいなら相手になるぞ……!」


 挑発のようでいて虚勢でもあった。隠し装備を使って優位に立ったまではいいが、同じ手がそう何度も通用する敵とは思えない。ある意味で不意打ちだったから成功したのだ。真っ向勝負では、やはり技量の劣るミィルの方が不利だ。


 〈赤き翼〉ことアルヴィス・メリオネートのメリザンドは距離を取ったまま動かず、しばらく沈黙していた。技量で敵わないという考えが頭にあったので、ミィルは攻勢に出ず様子を見守る。時間にして数十秒。やがて繋がったままの通信から声が響いた。


「……フローレスのパイロット。君の名を教えてもらおうか」


 その唐突な問いにミィルは一瞬だけ逡巡する。

 結局、隠すことでもないと思って正直に答えた。


「俺はミィルだ。ミィル・ライズベール」

「ミィルか……いいだろう。確かに覚えた。次会ったとき勝つのは私だ……! それを忘れるな!」


 〈赤き翼〉ことアルヴィス・メリオネートはそれだけを言い捨てて、残存する味方機と共に撤退していった。助かったのはこちらと言うべきだろう。長く戦っていれば総合的に大きな被害を受けていたのはミィルたちだった。それは間違いない。



 ◆



 片腕を失った状態で空を飛行しながら、アルヴィスは屈辱に耐えていた。連合軍にも優れたパイロットはいる。第8部隊隊長のカイゼル・ドルヴァドスが目の敵にしているローウェン・ハーバードをはじめアルフレッド・ロダン、カイリ・デルフィーニなど。自分と互角に渡り合える敵は彼らエースパイロットぐらいだと思っていた。


 その鼻っ柱を、あのフローレスのパイロット。ミィル・ライズベールがへし折ってしまった。どう考えても操縦技術では負けてない。なのに結果は機体を損傷させたうえに作戦失敗。すべてはフローレスという機体の力を把握してなかったことにある。


「8機撃墜ですか。作戦には失敗したようですが、君の腕が悪かった、というわけではなさそうですね」


 通信が入り、上官である第1部隊隊長、ハース・クライテリオンの声が聞こえた。クライテリオンはあまりにも優しい上官だ。部下が失敗したからと言って冷たい態度を取ったり、怒りに任せて叱責するような人間ではない。その優しさがかえってアルヴィスの心を抉った。ひょっとしたら今まで築き上げてきた信頼関係すら失ったのではという疑念すら湧いてくる。


「……雑兵を倒して稼いだ撃墜数です。お世辞は必要ありません大佐。フローレスの力を甘く見た私が原因です」

「そう自分を責める必要はありません。まさかフローレスの性能を引き出せるパイロットがいたとは。ドルヴァドス大佐の作戦が失敗してしまったことも一因です。すべてが君のせいというわけではない」

「……その話も信じられません。まさか、ドルヴァドス大佐が。あれだけの戦力を揃えて撤退に追い込まれるとは……」

「それが戦争というものです。常に予想外の出来事が起こる。今回ばかりは連合軍の手腕を見事と言う他ないでしょう」


 一瞬の沈黙が二人の間に流れた後、アルヴィスはクライテリオンに尋ねた。


「大佐。フローレスとは何なのですか。どう考えてもあの機体の性能は異常です……!」

「それについて私も深くは知りません。ただ、フローレスの開発には皇帝陛下が関わっている。それだけは確かです」

「皇帝陛下が……?」

「君だから話しました、他言無用でお願いします。一応、機密扱いなのでね。あまり深入りするべきではない。陛下の御心は誰にも分かりません……私でさえも。フローレスは次の機会に取り返してくれればそれでいい。君もこれで終わりにしたくないでしょう」


 その言葉で、アルヴィスは自身の心を満たしていた暗い澱みが消え去っていくのが分かった。大佐はまだ自分を信頼してくれている。挽回の機会も与えて下さる。今はそれで十分だった。


 自分はこんなところで躓くような人間じゃない。大佐だっていずれ将官まで上り詰める人物だ。このまま成功を収め続け、ゆくゆくは大佐を補佐する第1部隊の隊長となる。それがアルヴィス・メリオネートの野望だった。


 待っていろミィル。どれだけ機体の性能が高かろうと、次は必ずフローレスを取り返してみせる。吐き捨てるように心の中で呟いて、アルヴィスは同じく撤退をしているであろうドルヴァドスの艦隊との合流地点へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ