39話 宿敵との決着
放たれた砲弾に対してウートガルズは左腕の盾で防御を選んだ。砲弾が命中し、爆発が巻き起こる。盾が割れて破片が無造作に宇宙にばら撒かれていく。ハーバードにとっては起死回生の一撃だったが、反撃虚しく砲弾は盾を破壊するだけに留まり、本体はなんの損傷も負っていない。
「ふはははっ。その程度か? もうやることがないなら、撃墜されてもらうぞ!」
「いや……まだだ。直撃さえすれば……!!」
もう一度無反動砲を発射しようと狙いを定める。ハーバードの次弾発射を妨害するように、ウートガルズが左腕を突き出してなにかを発射した。グレネードだ。ウートガルズの両腕は内蔵式のグレネードランチャーになっているらしい。ハーバードは素早く回避しながら再び砲弾を撃ち出す。
後方を抜けていくグレネードはアクトフレームの残骸にでも当たったのか、背後で爆発を起こした。ウートガルズは運動性が高くないであろうにも関わらず、砲弾を回避し、距離を詰めて手斧で近接戦を挑んでくる。今度は両手に斧を装備しており、右腕一本しかないハーバード機は不利を強いられることになる。
「どうしたぁ、ハーバード! 逃げてばかりでは戦いに決着がつかんぞーーーーっ!?」
忌々しいがドルヴァドスの言う通りだ。不利な状況は覆せてない。それでもどうにか回避だけは続けられている理由。それはお互いに何度も交戦したことがあり、攻撃の癖や傾向を知り尽くしてしまっているからだ。機体が変われどもドルヴァドスの戦いの呼吸は同じだ。
「お前が逃げるだけのつもりなら……私が完膚なきまでに、一方的に殲滅してやろう!」
両肩の二連装エナジーキャノンに光が灯る。すぐに発射してこない辺り、見立て通りチャージに時間がかかるようだ。ドルヴァドスはその時間を稼ぐかのように手斧を振り回し、変わらずハーバードに接近戦を挑んでくる。器用なものだ。外さないように間近でぶっ放すつもりなのだろう。近距離であの巨大なビームを撃たれたら避けきれない。
ハーバードは必死に離れようとするが、ドルヴァドスはそれを許さない。やがて近距離を保ったままエナジーキャノンのチャージが完了してしまった。破滅の光がハーバードとシアーフラムを襲うかに思われた時。ウートガルズは突如明後日の方向にビームを発射する。ビームは遠く離れた複数の連合軍の機体を巻き込み焼き尽くす。
「ちっ、外したか……!」
舌打ちをするドルヴァドスの声が通信越しに聞こえた。レーダーを確認すると、ウートガルズがビームを放った方向から近づいてくる三機の友軍がいる。まさか、と思っていると通信が入る。援軍だ。先に呼んでいたアークルス小隊が駆けつけてくれたのだ。
「中佐、待たせてすみません。いきなりとんでもないビーム砲が飛んできてびっくりしましたが……今から援護に回ります」
「来てくれたのか、リンド……助かったよ。おかげ命を拾った。敵は第8部隊の隊長、カイゼル・ドルヴァドスだ」
「了解。セリアを守りにつけます。俺とフレディが前に出ますよ。構いませんか?」
「問題ない……それで頼む」
リンド機とフレディ機である2機のライトフラムが飛び出し、リンドは左腕で剣を抜いて果敢に接近戦を挑む。そのすぐ背後でフレディ機がロングレンジライフルを構え、ウートガルズに対して射撃。盾を失っているウートガルズは手斧でライフルの弾丸を防御する。
「ふん! 一人では勝てんから部下をけしかけるなんてのはなぁ、雑魚のやり口だ!!」
リンド機の剣とウートガルズの手斧がぶつかり合う。出力で勝るウートガルズがリンド機を押し返し、即座に左腕を切り飛ばす。リンド機は右腕でコンバットナイフを抜こうとしたが、動作が遅く、それより先に手斧で右腕も叩き斬られてしまった。
「なんだ、右腕が損傷しているではないか。せめて万全の状態で挑んでこい、小童がッ!!」
「おっしゃる通りで……でも中佐を助けるためだ、無理をさせてもらう!」
それでもリンドは諦めず、両腕を失った状態でなおタックルをしかける。ウートガルズは赤子を相手にするかのごとく、片腕で受け止めた。直後、ウートガルズの頭部が吹き飛んだ。フレディの狙撃だ。これでメインカメラが数秒、死ぬ。二人が作り出した隙を無駄にしてはならない。ハーバードはスラスターを吹かして上昇し、ウートガルズより上の位置から無反動砲を二発撃つ。
ハーバードが狙うのは両肩のエナジーキャノン。六隻の戦艦と多数の友軍機を落とした強力な武装だ。二発撃ったうち片方は外れたが、残り一発が右肩のエナジーキャノンの破壊に成功する。サブカメラに切り替えたらしいウートガルズは腕からグレネードを射出し、フレディ機を攻撃。フレディ機は避けきれずにロングレンジライフルごと右腕が吹っ飛んだ。
「まだだぁ、私のエナジーキャノンはまだ片方残っているんだぞ! 貴様らをまとめて葬るだけなら十分だ!」
「っ……フローレスほどではないですけど、化け物みたいなアクトフレームですね。中佐は後ろに。私が守ります」
セリアが通信を介してドルヴァドスの機体をそう評すると、突撃銃を構えて射撃する。普通の弾丸でウートガルズの装甲を貫けないことは確認済みだが、セリアの狙いは駆動系。肩や腕の関節を正確に狙って撃っている。動き回るアクトフレームを相手にそれを実行するのは至難の業だ。しかし、セリアも並みの腕前ではない。
砲身にアクトをチャージしながらも両手に手斧を持って突っ込んでくるウートガルズを相手に。腕の関節を正確に撃ち抜いた。一発で駆動系が壊れ、左腕が糸の切れた人形のようにだらんと垂れ下がる。これに対し、ドルヴァドスは残る片腕だけでも守ろうと半身になってなお突撃してくる。
「小娘がぁ!! 味な真似をしよるわ!!」
セリアのケルレウスは、振るわれた手斧を両肩のエナジーシールドを前面に展開することで防御。そして突撃銃で近距離から胸部を狙って撃つが、装甲に弾痕を残すばかりで操縦席に至らない。やはり突撃銃では威力不足だ。やがてウートガルズの左肩に備わるエナジーキャノンが二本のビームを放った。
その威力のあまり、ケルレウスは押し出されてハーバード機の遥か後方へと遠のいていく。エナジーシールドで防御していたおかげで撃墜こそ免れたものの、障壁の発生器が損傷したらしい。ケルレウスはもうエナジーシールドを使えない。
「邪魔な連中は片付けた、これで貴様と再び一対一だ、ハーバード!!」
「そう意気込んでいるようにみせかけて、本当は私との対決なんてどうでもいいんじゃないかね」
「なんだと!?」
ハーバードは無反動砲を捨てて剣を抜き放った。ドルヴァドスも片腕の手斧を構え直し、両者突っ込んで切り結ぶ。
「エナジーキャノンを使うとき、君は決まって後方の艦隊に打撃を与えた。私との対決より、撤退する自分の部隊を守ることを重視している証拠だ。今までは私を殺すことに執着していたかもしれんが、今ここにいるカイゼル・ドルヴァドスは違う。と……私は思うのだがね」
真正面からの力勝負では勝ち目がない。だから手斧による一撃を剣で受け流し、次の斬撃で損傷を与える。そのハーバードの作戦は上手くはまり、胸部装甲を傷つけることに成功したが、浅い。やはりまだ操縦席には届かない。
「それがどうした。私は貪欲な性格でな、どちらも重要視している。貴様を殺して決着をつけること、部隊の者を一人でも生かすこと! どちらも重要だ! だから付き合ってもらうぞ、私の悪足掻きにな! 最後に勝つのは、この私だぁぁぁぁぁ!!」
再び振るわれるウートガルズの手斧が、シアーフラムの首筋部分に叩きつけられた。その圧倒的機体出力による一撃は、装甲を叩き割り、操縦席の天井を破壊しつつある。だが避けられなかったのではない。避けなかったのだ。確実に相手を倒すために。
「その勝負は、すでに君の勝ちだよ……少なくとも一対一なら私はもう死んでる。今回だけじゃない、昔からね。戦場で決闘めいた考え方をするなんて馬鹿らしいから言わなかったけれども、君と私がフェアに戦えば勝つのは君だ。でも……」
腹部と胸部の装甲の隙間に差し込まれたシアーフラムの剣が、ウートガルズの操縦席を貫いた。おそらくここが重装甲を誇るこの機体、唯一の弱点。ずっとそこを狙っていたのだが、それができる状況は限られていた。相打ち覚悟で防御を捨てたのもそのため。
「……生き残るのは、この私だ。私は死なない。捕虜になった部下が帰って来るのも迎えてやりたいんだ。まだ生きて戦い続けるよ。この戦争に勝つためにも……」
ウートガルズの全身から微かにアクトの光が漏れ出す。機体を動かしていたアクトが制御を失い、爆発する寸前だった。剣から手を離したシアーフラムは爆発に巻き込まれないよう、距離を取る。やがてウートガルズはドルヴァドス諸共、宇宙に散った。




