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35話 戦場となる宇宙

 戦艦から出撃したアークルス小隊は宇宙要塞〈フィアット・ルクス〉を目指して移動を開始した。要塞とはまだ離れているにも関わらず、モニターには拡大なしでその威容が映されている。


 まさしく帝国の切り札に相応しい存在感だ。主砲が使えなくなったとはいえ、まだ要塞には多数の防衛兵器が備わっているし、敵艦隊だって次々と向かってくる。過酷な戦場には違いない。


「敵の艦隊からアクトフレームがうじゃうじゃ湧いてるな。10分後には接敵する。二人とも気をつけろよ!」


 リンドの通信にセリアは短く「了解です」と答え、直後にフレディの「分かりました」という返事が響く。やがて両軍のアクトフレームが交戦可能な距離に入り、あちこちで激しい戦闘が開始された。アークルス小隊も帝国軍の小隊と戦闘に入る。敵小隊は全部で4機。すべてエリテイルだ。


 小隊長らしき先頭の機体は棒状の武器を手にしている。棍棒の類ではなく、ビームの刃を発振するエナジースピアだろう。使用中は常にアクトを消費するため、一部の者が好んで使う。残りの3機のうち2機は基本的な武装構成で、突撃銃を構えている。残りの1機は剣を引き抜いて先頭の機体に随伴して接近してくる。


「よし、俺とセリアで2機ずつ相手にするぞ。フレディは援護だ。ロングレンジライフルで……うぉっ!?」


 リンドが指示を出しながら眼前の槍持ちと交戦しようとすると、敵機は急に軌道を変えてセリア機へと向かい、ビームの穂先を振り下ろした。セリアはそれを両肩のエナジーシールドで受け止め、両者拮抗した状態でぶつかり合う。


「メリオネート大尉の不在は僥倖だったな! 戦いの一番槍はこの私、レミナ・ミューリスがもらい受ける!!」

「ミューリス大尉、それはさすがに失礼かと……」

「事実だ! 悔しくないのか。奴が戦場に立つと、いつだって美味しいところだけ奪っていくんだぞ! 大佐に贔屓されているところもいけ好かない……これは我々が名を上げる好機と考えろ!」


 通信から届く敵同士の会話。メリオネート大尉とは〈赤き翼〉の異名で有名な第1部隊のエースパイロットのことだ。ということはセリアの所属するアークルス小隊は第1部隊と交戦に入ったことが分かる。第1部隊は他の部隊と比較しても精鋭が揃っており、一筋縄ではいかない相手だ。


「青い機体! それは我が軍の機体だろう? 連合軍とは手癖の悪い奴らだなぁ、奪い返してやるぞ!!」


 レミナという名らしい小隊長は、高らかにそう宣言しながらもエナジースピアで押し込むのを止め、横移動で側面に回り込もうと動く。同時、後方に控えていたエリテイルの一機が突撃銃を撃ってくる。ケルレウスは腰に提げていた突撃銃を右手で抜きながら、エナジーシールドの展開を維持して銃弾から身を守った。


「そこ……おぉっ!?」


 レミナ機が側面からケルレウスとの距離を詰める素振りを見せるも、急停止して盾で防御に入った。後方のフレディ機による援護射撃に気づいたらしい。気づかず目の前の餌であるセリアを攻撃していれば、今頃撃墜できていただろう。セリアは内心でフレディに感謝しながら突撃銃を撃ってくるエリテイルめがけて射撃。


 放たれた一発の弾丸がエリテイルの胸部を撃ち抜き、激しい爆発が起きる。これで一機撃墜。射撃はセリアの得意分野だ。セリアはすぐさまレミナ機に銃口を向け、先ほど同じく操縦席狙いで突撃銃を発砲する。


「っ……こいつ、なんという精密射撃……! だが防御さえできれば怖くはない!」

「それでも接近戦を選ぶんですか。勇敢な人ですね……」

「私を愚弄するか! 近づくしか能のない馬鹿とでも言いたげだな!」

「いえ、そんなつもりは……ありませんよ」


 今度こそ、とでも言うような急接近からの刺突。セリアはそれを寸前で見切り、ケルレウスを半身にして回避。素早く左手でコンバットナイフを抜いて胸部を突こうとしたが、レミナ機の持つスピアの柄が一瞬で縮み、長槍から短槍となる。短槍の先端、ビームの穂先が閃いてコンバットナイフを切り飛ばされた。刃を失ったナイフを捨て、超近距離からの射撃に切り替える。


 レミナ機はそれを読んでいたように左腕の盾で放たれた弾丸を防ぎ、さらに短槍で突いてくる。セリアの手が反射的に動き、エナジーシールドを操作。左肩だけが可動して短槍を防御。さらに片足でレミナ機を蹴り飛ばした。


「ぐうっ……足を使うとは癖の悪い。もう少しで仕留められたものを……!」

「そんなギミックがあるとは思いませんでした。伸縮自在のエナジースピア……興味深い武器ですね」


 そんな会話で時間を稼ぎながら、サブモニターを使ってリンドの戦況にも気を配る。リンドの技量は相当なものだが、ケルレウスに乗るセリアと違って機体の性能差までは埋められない。フレディの援護を受けながら、互角といった様子だ。


 パワーの差が出やすい接近戦は避け、射撃の間合いを維持している。相手は逆に接近を試みる様子を見せているが、その素振りを見せた瞬間、すかさずフレディの狙撃が邪魔を入れるので、迂闊に懐には飛び込めない。


 やがて相手は痺れを切らしたのか、強引に近距離戦に入った。フレディ機の射撃に関しては盾を犠牲にすることで解決したようだ。ロングレンジライフルの威力は突撃銃とは比較にならない。たとえ防げても、盾自体が壊れる。それでも一発防げる、という逆転の発想なのだろう。


 そうやって盾を壊しながらも接近戦に移行したところで、敵のエリテイル二機は左右に別れて挟み込むようにリンド機を攻撃する。両方、武器を突撃銃から剣に持ち替え、胸部の操縦席を串刺しにしようと突きの構えを取った。


「同時攻撃……!? 受けるしかねぇ……!!」


 リンドの声を通信が微かに拾った。リンド機のライトフラムは左腕に装着された盾を構えて突きに備える。しかし、右側はがら空きだ。突きを食らうしかない。左右から閃く剣の刺突が、リンド機に突き刺さる。


 左側は盾が防いだが、右側は。リンドの絶妙な見切りによって、剥き出しの右腕の装甲で受けきっていた。その刃は操縦席にまで届いていない。ただし敵機の剣はリンド機の右腕を完全に貫通しており、もう右手を使って武器を振るうことは難しいだろう。


「今だフレディ、やれっ!!」


 間髪を入れずにリンドの叫び声が通信で響き渡り、フレディ機は攻撃を防御されて隙だらけなエリテイル二機に狙いを定める。一発ずつ撃ち込まれた弾丸は操縦席を捉え、二機ともアクトの光を漏らしながら爆発した。


「な……馬鹿な、あの二人がやられるなんて……!?」


 この状況を戦いながら見ていたのはセリアだけではない。相手のレミナも同様であった。味方機が撃墜されて精神的に動揺しているなら好機だ。このまま本領を発揮させないまま押し切るか。しかし、レミナの反応はセリアの想像の逆だった。


「許さない……! 連合軍のパイロット、仲間の分まで貴様らは必ず殺してやるッ!!」


 エンジースピアを伸縮させて長槍とし、連続で突きが放たれる。仲間が撃墜されて攻撃がより研ぎ澄まされた。駆動系を壊すことを念頭に置いた、いやらしい攻め方だ。レミナは機体の動きを奪い取って、確実に殺すことを考えている。まるで蝶の羽根をもぎとって自由を奪うかのように。


 それは操縦席を直接狙って撃墜するという、短絡的なコンバットパターンとは違う。やりにくい相手になった。セリアはエナジーシールドに助けられながらも、回避を織り交ぜてどうにか槍から距離を取ろうとする。だがレミナもそれを許してくれない。


「絶対に逃がさん、このまま死ねーーーーっ!!」


 胴体と肩を繋ぐ関節を狙った一撃。本来なら肩のエナジーシールドでカバーできる部分だが、セリアはあえて守らず無防備を晒した。誘いに乗ったレミナはそこに突きを放ってしまった。狙い通りだ。限界まで引きつけてからスラスターを上部に吹かし、僅かにケルレウスが上昇する。結果、レミナ機のエナジースピアはケルレウスの左脇の下をすり抜けた。


 スピアを引き戻すより早く左手で柄を掴み、右手の突撃銃を胸部に押し当てて発砲する。火薬によって撃ち出された巨大な鉄塊が胸部装甲を貫通し、内部の操縦席を蹂躙する。機体を動かすためのアクトが行き場を失い、機体の外部に漏れ出しながら、やがてレミナ機は爆発した。


「……危なかった。第1部隊だけあって強かったですね……リンド隊長、機体の右腕は動きますか?」

「ああ、一応動作はするが、反応がかなり鈍いな。戦闘では使い物にならないと思う」

「左腕の盾を右腕に装着して、左腕で武器を持つっていうのはどうですか? やりにくいかもしれませんが……」

「なるほど。セリアのその案で行くか。間に合わせの処置だが、片腕で戦うよりはマシそうだ」


 その応急処置は、戦場のど真ん中で迅速に行われた。セリア機とフレディ機の手伝いもあってすぐ装備の調整を終えたリンド機は、動作確認を経た後、宇宙を飛び回る敵部隊との交戦を再開する。連合軍の運命を賭けた戦いは始まったばかりだ。

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