34話 光の中の死闘
指示通り、アクトキャパシターは破壊した。これで主砲は使えなくなったはずだし、その報告もさっき通信で送った。後はどうするべきだろうか。エナジーパニッシャーでその辺をちまちま破壊して帝国軍を混乱させるべきだろうか。少しの間、考えを巡らせていると、レーダーに反応が生まれる。ひとつの光点がこっちに向かってくる。とてつもない速さだ。
姿を現したのは銀色の機体。その機体のことを忘れるはずがない。帝国軍第1部隊隊長、ハース・クライテリオンが駆る専用アクトフレーム。イルミナーヤである。イルミナーヤは通路を抜けてこの空間内に入るなり、エナジーライフルを連射してフローレスに攻撃を加えてきた。ミィルは機体を下降させ、ビームの光から難を逃れる。
「クライテリオン大佐……貴方だけですか……!? もっと大人数で来るかと思ってましたけど……!」
「ええ。私だけです、ミィルくん。他のパイロットは連合軍の相手で忙しいですからね」
イルミナーヤが剣を抜き放ち、一気に加速。フローレスとの距離を詰めてくる。近接武器すら持ってない今のフローレスでは、接近戦になっても不利なだけだ。ミィルはアクティブウィングを展開して全速力で逃げることに決める。どこかへ続く通路の中に入ってひたすら距離を空けることに腐心する。
もちろんイルミナーヤはフローレスを追いかける。しかし、距離の空いた状態ではエナジーライフルでたまにビームを撃つのがせいぜいで、本気で殺しにかかってくるような気配はない。イルミナーヤは背部に多くの武装を備えた機体だが、それも使ってこない。要塞内でそれらを使えば、要塞そのものをいたずらに破壊しかねないからだ。このまま中を逃げ回って、隙が生まれるのを待つ。
「……げっ、しまった」
しかし、そこで致命的なミスを犯してしまう。焦りで道を間違えてしまい、要塞の外に飛び出してしまったのだ。フローレスが真っ暗な宇宙空間に放り出された。これが宇宙。果てなく広がる暗闇の世界。大抵のアクトフレームは宇宙での戦闘も想定されており、気密性と酸素は心配ないだろうが、それでも専用の宇宙服を着ていないので一抹の不安が残った。
「……ふっ。随分とうっかり者ですね。おかげで私はやりやすくなりました」
フローレスを反転させ背後のイルミナーヤを確認する。背部のウェポンプラットフォームから次々と武装が飛び出していく様子がモニターに映し出された。右手にエナジーライフル、右肩にエナジーキャノン。左手にはグレネードランチャーで左脇の下にはエナジーランチャーを構える。たった一機を撃墜するには過剰すぎる火力に、ミィルは思わず顔が引きつった。
イルミナーヤによる一斉射撃が解き放たれる。ミィルは全速力で回避を選択し、機体を操作する。コントロール・スフィアを掴む力が強くなり、わずかに汗ばんだ。そして小細工も加える。フローレスに備わる機能であるミラージュシフトを発動させた。
この機能はアクティブウィングから立体映像を投射することで、分身したように見せ、敵を撹乱することを目的とした装備である。分身に射撃が当たるように見せて油断を誘い、側面から肉薄する作戦だ。作戦通り、投射した分身が一斉射撃に飲み込まれる。
「やった……いや、残光が横から……!」
クライテリオンが思わず呟いた独り言を通信が拾う。さすがは部隊を率いる隊長だ。簡単には騙されない。だとしても僅かながら反撃のチャンスは生まれた。フローレスの右手で手刀を作り、肉薄してイノセンスセイバーで仕留める。
「……なるほど。言うなれば〈白き影〉のフローレスといったところですね」
分身による奇襲を寸前のところで見切られ、貫き手を避けられる。フローレスはイルミナーヤの側面を通り抜けただけだ。フローレスを振り返らせた瞬間にエナジーライフルの光が届き、左脚に着弾する。命中箇所が熱で焼き切れ、大腿部から先が宇宙の闇に舞う。
命中したのが脚部でよかった。本来なら操縦席を狙ったもののはず。命中箇所がズレたのは、ミィルの操縦が甘かったために、振り返りざまにほんの少し機体が上昇したおかげだ。でなければ今の一発でミィルは死んでいた。
「やはり貴方は面白い。陛下の命令とはいえ、殺すのが惜しいですよ……!」
「そんなこと言われても……俺だって戦いたくない。クライテリオンさん、貴方には手当てしてもらった借りもある。貴方みたいな優しい人を殺すのは避けたい……!」
「優しい人、ですか。そう言われるのは初めてかもしれません。大抵は私を出世欲に駆られた、皇帝の犬と評します」
エナジーライフルとエナジーキャノンの連射が雨のようにフローレスに襲いかかる。盾がないため、アクティブウィングで機体前面を覆い、即席のエナジーシールドとして降ってくるビームを防御する。
「前皇帝が存命の頃から、私は第1部隊の軍人として皇帝に尽くしてきました。陛下に命じられれば、どんなことでもやった。中には口では言えない汚いこともです。ただ、陛下に忠実なのは出世したいからではなく、それが軍人の正しい姿だと思ったからに過ぎない……」
イルミナーヤは休みなく攻め続ける。エナジーランチャーの銃身がフローレスを捉え、発射される。戦艦の装甲をも貫く、この強力なビーム砲は簡易的な盾のアクティブウィングでは防ぎ切れない。当たるすれすれで回避すると、避けきれずに右肩の装甲を削っていく。
「軍人は組織を動かす正確な歯車であればいい。そのために自分の意思は捨てています。軍医に君の手当てを頼んだのも、陛下の意思を汲んだだけのこと……だから私は別に優しくはない。恩義は感じなくて構いませんよ。いや感じているなら、なぜ……」
畳みかけるようにグレネードランチャーを連射するイルミナーヤ。弾切れになるまで撃ち尽くしたところで放り捨てて、左手で剣を抜いて距離を詰めてくる。爆発するグレネードに翻弄されてしまい、ミィルは逃げることもできず相手の接近を許してしまう。
「……なぜ脱走などしたのですか。陛下の提案を飲めば、私は貴方を殺す必要などなかったというのに……!」
操縦席を狙って袈裟斬りが迫る。間に合わない。回避動作が。咄嗟に左手を突き出して掴みかかろうとするが、掴み切れずに左腕を叩き斬られてしまった。しかし、操縦席を守ることに成功し、ミィルはカウンターで右手による手刀を繰り出す。プラズマを帯びたイノセンスセイバーの一撃が盾に阻まれる。盾の表面を切り裂いただけで、なんの痛手にもなっていない。
「……帝国のやり方が好きじゃない。弱者は虐げられても当然みたいな考え方は、俺には理解できない……」
「それは残念です。陛下は徹底した実力主義ですから……能のない者は死んでもいいとお考えです。ならばやはりミィルくん、君にはこの宇宙で散ってもらうしかありませんか……!」
再び斬撃が来る。ミィルは残った右足でイルミナーヤを蹴り飛ばし、強引に距離を取った。やはりクライテリオンは優れたパイロットだ。単純な技量も高いうえ、イルミナーヤの性能も最高峰ときている。普通の戦い方をしていたのでは、まず勝ち目がない相手だった。
だからミィルに残されたのはフローレスにだけできる戦い方。プライムアクトをありったけ注ぎ込み、性能を極限まで向上させて戦う。突破口はこれしかない。コントロール・スフィアを掴む手に力を込め、持てるだけのアクトを送り込んでいく。
「勝つにはこれしかない。本気で行くぞ、フローレス。頼むから壊れてくれるなよ……!!」
「いえ、もう終わりです。ミィルくん、君の命運はこれで尽きた!」
イルミナーヤがエナジーライフルから光線を放つ。一条の光は操縦席を貫いた、ように見えただろう。それはミラージュシフトによる分身だ。フローレスはすでに高速移動で側面に回り込んでいる。イルミナーヤが向き直りつつエナジーキャノンで迎撃するも、捉えたのはやはり分身だった。
「なっ……速い……!? これまでとは次元が違う……!」
「これが! フローレスの本当の性能だ。俺のアクトが尽きるまでに貴方を倒す……!」
もうクライテリオンの反射神経とイルミナーヤの運動性能ではフローレスに追いつけていない。捉えられるのはその影だけ。言葉を借りるなら、まさしく白き影のフローレス。やがて一瞬の隙を見せたイルミナーヤの背後から遂にイノセンスセイバーの貫き手が命中した。
イルミナーヤの背面は様々な武装を備えたウェポンプラットフォームとなっている。その装備群が邪魔をして操縦席には届かなかったが、ミィルは構わず手刀で背中を引き裂き、武装をすべて剥ぎ取った。




