24話 デルフィーニ隊の戦い
フェンサリル基地の東側から進軍したデルフィーニ隊は、途中で帝国軍の部隊と交戦したものの、数を大きく減らすこともないまま無事に基地へと攻め入ることに成功した。陸上戦艦の援護射撃が効果的だった。いかに最新機のエリテイルといえど、戦艦の砲を防げるほどの強度は持ち合わせていない。
信じられないのは南東側から基地に向かっていたロダン隊が全滅したことだ。部隊の指揮官だったアルフレッド・ロダンは連合軍のエースパイロットであり、ハーバードとも同期の優れた人物だった。そんな彼が呆気なく死んだ。気分はふわふわとしていて、まだ実感が追いついていなかった。
フェンサリル基地に正面から侵入してからは、陸上戦艦が一隻撃沈したものの、順調に敵機を減らし続けることができた。戦艦さえ容易く沈める青いアクトフレームの存在だけが厄介ではあったものの、ハーバード隊のフローレスが行動不能に追い込んだようなので、後は残存する敵戦力を掃討するだけ。そう思っていた。
「デルフィーニ中佐、敵部隊が接近中です。数は100。このままだと会敵します」
「ハーバード隊は今も敵と交戦中だ。私たちで食い止めるよ。戦艦にも報告を。艦砲射撃で援護してもらおう」
数はほぼ互角だが性能では相手が上。油断できない。カイリは乗機であるシアーフラムを操作し、盾で身を固め、突撃銃の銃口を前に向ける。会敵は数分経たず訪れた。敵はほとんどエリテイルだ。しかし一機、部隊の先頭を疾走する機体だけは見たことのないタイプだった。
銀色を基調として、一部の装甲を鮮やかな赤で染めた専用機らしきアクトフレーム。左腕に赤い盾を装着し、右腕にはエナジーライフルを握っている。銀色の機体はライフルの銃口を隊長であるカイリに向け、ビームの光を撃ち出した。
ビームを盾で受けつつ、突撃銃の引き金を引いて撃ち返す。銀色の機体もまた盾で防御しながら、距離を詰めてくる。お互いに右手の装備を銃から剣に切り替え、刃を振るう。高周波振動する刀身同士がぶつかり、鍔迫り合いとなる。
「なんだこの機体……新型ッ!?」
「またシアーフラム。連合のエースパイロットですね。お手柔らかにお願いします」
通信越しに響く声。その「また」という言動から、カイリは銀色の機体の部隊がロダン隊を全滅に追いやったのだと理解した。今回の作戦でシアーフラムに搭乗しているのはカイリ、ハーバード、ロダンの三人しかいないためである。
「誰なのアンタは……!? 第2部隊じゃなさそうだね……!」
「ええ。私は第1部隊の隊長、ハース・クライテリオンと申します」
第1部隊。デュクス帝国が擁するアクトフレーム部隊のうち最も優れているとされる精鋭部隊だ。バルダー要塞攻略戦においても、ハーバード隊が第1部隊所属の〈赤き翼〉と交戦したとは聞いていたが、ここで遭遇することになるとは。相手が精鋭たる第1部隊ならロダン隊がやられてしまうのも納得がいく。
「自己紹介ありがと。それじゃあ……死んだロダンの敵討ちといこうか!」
刀身を逸らし、受け流しつつ相手の側面に逃げる。敵機もシアーフラムの動きを追うように機体の向きを合わせてくる。まだ接近戦の間合いだ。再び剣で斬りかかってくるかと予測したが、違う。銀色の機体は剣を構えたまま、背中の一部が可動して右肩の上にエナジーキャノンを展開した。
「この近距離で……!?」
やや小型のエナジーキャノンの砲身からビームの光が迫る。カイリは反射的に半身になって初撃を回避。続けて発射される二発目と三発目はスラスターを吹かして後退しつつ盾で防ぎ切る。完全に不意を突かれた。きっと培った経験がなければ命中していただろう。
咄嗟のことだったとはいえ距離を置いてしまった。カイリはどちらかというと接近戦を得意とする。この未知の機体に対して、もっとも自信のある距離で戦えないのは収まりが悪い。さらに次の瞬間、自分の選択が誤っていたことを確信する。
右肩のエナジーキャノンに続き、背中が蠢くように可動して、次々と武器が展開されていく。左肩の辺りに銃らしき持ち手が飛び出すと、銀色の機体はそれを左手で掴み取る。グレネードランチャーだ。さらに脇の下から小型のエナジーランチャーも。剣を右手に握ったまま、それらを一斉に発射し、銀色の機体は前方に在るものすべてを一掃する。
間断なく撃ち出されるエナジーキャノンの光が次々に友軍機の操縦席を射抜き、放たれたグレネードが纏めて吹き飛ばし、戦艦の装甲をも突破するエナジーランチャーの威力で跡形も残さず破壊する。それは破壊の化身とでも呼ぶべき圧倒的火力だった。
そんな状況下にあってなお、カイリ機は撃墜を免れることができた。下手に左右へ避けず、シアーフラムの性能で出来うる限り最大の跳躍をすることにより爆風を浴びるだけで済んだ。
問題はここからだ。カイリのシアーフラムは空を飛べるわけではない。降下をはじめた今は完全に隙だらけだ。スラスターを吹かせば着地位置を変えるくらいはできるが、敵の射撃を回避するのは不可能。
「……ごめん。私のせいだね。敵機から距離を空けたせいで味方機まで巻き込んじまった」
「懺悔の必要はありませんよ。すぐ同じところへ送って差し上げますから」
銀色の機体がエナジーランチャーの砲身をカイリのシアーフラムへと向け、発射の準備を始めている。しめた。カイリはそこに窮地を脱するチャンスを見た。エナジーランチャーという武器、威力は非常に高いのだが発射まで一瞬の溜めがある。その隙を使って、カイリ機は腰からコンバットナイフを抜き放ち、銀色の機体へと投擲する。
狙いはもちろん、胸部の操縦席。正確な狙いで飛来するナイフを前に敵機は発射を一時中断し、盾で迫るナイフを防御する。これで着地までの数秒を捻出できた。地面に足をつけた瞬間、スラスターを最大出力で吹かしてサイドステップで移動。今度は後方の味方機を巻き込まない位置取りを保ちつつ、銀色の機体との距離を詰めていく。
そうはさせないと言わんばかりに、敵機は肩に備えられたエナジーキャノンを連続で発射する。恐ろしいほど正確な狙いで足下めがけ迫ってくるが、正確ゆえにカイリにはその軌道が読めた。砲身の向きにさえ注意していれば、どこに飛んでくるかすぐに分かる。
「よし。近接戦なら……!!」
ビームを避けて再び接近戦の間合い。両者共に剣を構え、カイリは肩口を切り裂いて操縦席を狙う考えで、斬撃を繰り出す。銀色の機体はそれを盾で防御し、反撃で剣を振るう。カイリもまた盾で防御しようとしたが、銀色の機体が持つ剣に変化が起こる。刀身にビームの光を纏い、リーチが伸びたのだ。
「ただの剣じゃない……エナジーソードだとでも言うの!?」
敵の剣とカイリ機の盾が接触する。ビームを纏った剣は凄まじい切断力を発揮し、盾を溶断してカイリ機の左腕にまで食い込んだ。コントロール・スフィアを動かしても、左腕に反応がない。もう使い物にはならないだろう。カイリは往生際悪く、右手の剣を再び振り下ろすが、やはり盾で防がれる。シアーフラムのロングソードでは、盾に細かな傷を負わせるだけで切断は不可能だ。
「『詰み』ですね。抵抗は結構ですが、ここで命を奪わせていただきます。どうぞお覚悟を」
「なにをふざけたことを……! 私の全存在をかけて、アンタだけはここで倒す!!」
それは様々な戦場を渡り歩いたからこそ働く勘だった。この銀色の機体と、それに乗る第1部隊の隊長。この敵は強い。強すぎる。ここで生かしておいては、後で何人もの仲間が死ぬ。たとえ刺し違えてでも殺さなければ取り返しのつかないことになる。カイリにはその確信があった。
「艦長、聞こえるね。艦砲射撃で私ごと敵の機体を撃て! 私が抑えている今のうちに!!」
後方に控える陸上戦艦の艦長は、この指示に驚いたことだろう。だがデルフィーニ隊と敵部隊の戦況は、現状こちらが不利。せめて指揮官だけでも撃破して指揮系統を混乱させねば勝機は薄い。艦長もそれぐらいは理解できるはずだ。
しかしカイリの覚悟を決めた指示も虚しく、その願いは聞き届けられなかった。シアーフラムの拘束を脱して、銀色の機体は空高くに上昇した。跳躍、ではない。飛行している。フライトシステムによる飛行能力まで有しているのだ。憎らしいほど高性能。量産機でないことだけは確かであろう。
いつの間にか右手の武器をエナジーライフルに切り替えた銀色の機体は、ビームの光を発射し、一発でカイリ機の操縦席を撃ち抜いた。そして艦砲射撃が来る前に続けてエナジーランチャーを発射し、自分を狙っていた陸上戦艦の艦橋を焼き払う。
「こちらクライテリオン。東側から侵入した敵部隊の指揮官を撃破した。残存戦力の掃討は任せ、これより私は陛下の任務遂行に移る。後は頼みます」
それだけを一方的に告げて、ハースと彼が操る銀色の機体は、フローレスのいる戦場へと飛び去った。




