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21話 ケルレウス再び

 動かなくなったコーラルリーフにとどめを刺そうと、フローレスは突撃銃を撃とうとする。そのとき、レーダーが敵機の接近を捕捉したために足を止めてから地面に落ちている盾を掴み取った。そして防御態勢に入る。次の瞬間、霧の向こうから無数の弾丸が飛んできた。


 現れたのは三機のエリテイルだ。指揮官の援護のためにここまで来たのだろう。ミィルはフローレスに盾を構えさせたまま、突撃銃を二、三発発砲したが、盾で防がれるか外すばかりで手応えは一切ない。三機のエリテイルを示すレーダーの光点はミィルたちの射撃を回避しつつコーラルリーフの光点に近づいている。


「ミィル、〈溟海の妖精〉は後回しにするんだ。今は戦況を立て直すことに集中する。部隊を散開させるから、エナジーパニッシャーを使え。上手く当たれば敵部隊の数をかなり減らせるはずだ。頼めるか?」

「……分かりました。やってみます」


 ハーバードの指示にミィルは否定することなく頷いた。アクティブウィングを展開して空を遮る枝葉を押し退け、空中で静止する。武装スロットにある〈エナジーパニッシャー〉を選択して、コントロール・スフィアにアクトを込めた。フローレスは片手を頭上高くに持ち上げ、エネルギーの力場が形成されていく。


 エナジーパニッシャーはフローレスの隠し武装の中でもっとも威力が高く、当たれば戦艦さえ一撃で撃沈できる。ただし多量のアクトを消費するので、一般的なパイロットでは扱えないとフローレスを解析したメイカは言っていた。


 やがてフローレスの手のひらに収束されたエネルギーの球体が完成する。ハーバードの指示で友軍機はすでに散開しておりエナジーパニッシャーが当たらない位置に退避済み。指揮官であるマナリルを欠いた敵部隊は、まだ密集したまま動いていない。今こそが好機だ。


「いっ……けぇぇぇ!!」


 光の球体を敵部隊が密集する位置へと投擲する。球体は霧が広がる森の中に消え、程なくして激しい爆発を生む。レーダーを確認したら敵部隊を示す光点が半数以上ロストしていた。ミィルは確かな手応えを感じながら、ハーバードたちのいる場所へと着地する。


「ハーバード中佐、上手く行きました! あ……ところで、敵の副隊長と三機のエリテイルは?」

「撤退したよ、副隊長を回収してね。さっきの一発が効いたんだろう。副隊長は逃したが、これで先に進める」


 フローレスの操縦席のモニターには、ハッチが開け放たれもぬけの殻となったコーラルリーフが映し出されていた。殺し損ねはしたものの、機体を失ったのだ。今回の作戦で再び戦うことはもうないはずだ。


 それからは部隊の隊列を組み直し、森の中を再び進み始めた。マナリル率いる敵部隊との戦闘で、100機近い機体のうち2割が撃墜されてしまった。また、被弾などによって無視できない損傷を負った機体も含めれば、戦力の減少は3割にも達する。


 フレディの機体も右腕を失ってしまい、戦い続けることは難しいとハーバードは判断したようだ。他の損傷した機体と共に陸上戦艦に戻って修理を受けるよう命令していた。フレディは役に立てないまま退くことを悔やんでいたが、その気持ちは小隊長のリンドとミィルが受け取った。


 深い霧の中を再び進み、ようやくデルストの森を抜けた。もうフェンサリル基地が目視できる距離にある。基地に乗り込むにあたり、ハーバードが司令部や他の部隊と連絡を取っている。それが終わるとハーバードが部隊に通信を送った。


「フェンサリル基地に侵入する前に、ひとつ悪い知らせがある。南東側から進軍していたロダン隊が全滅した。おそらく交戦相手は第1部隊だった、とのことだ。よって我々は東側から向かってきているデルフィーニ隊と協力して基地を奪還する……いいな」


 信じられなかった。南東側のルートを進むロダン隊を指揮するアルフレッド・ロダン大佐は、ミィルたちの上官であるハーバード中佐に並ぶエースパイロットだ。ハーバードとは親交もあり、総司令部で顔を合わせたときは親し気に会話もしていた。


「南東側を襲った敵部隊の指揮官は見たことのない銀色の機体だったそうだ。帝国軍の新型機の可能性が高い。全員注意してほしい。以上だ。これより基地に乗り込む。全員覚悟を決めてもらうぞ!」


 こうして基地への侵攻が開始された。目標は基地司令部の制圧、及びマスドライバーの奪還。もっとも気をつけなくてはならないのがマスドライバーの存在だ。これを傷つけては肝心の宇宙へ上がれない。闇雲に基地を破壊するのは厳禁ということだ。


 ハーバード隊が基地に侵入すると、雲霞(うんか)のごとくエリテイルが出現した。100機ではとても足りない数。やはり帝国軍もマスドライバーを渡さないために戦力を揃えていたのだろう。


 さらに基地の東側から爆炎が生じるのを見た。デルフィーニ隊が交戦状態に入ったらしい。遠くにうっすらと何隻もの陸上戦艦も見える。向こうの部隊は陸上戦艦の支援砲撃によって比較的優位に戦えている様子。その折にハーバードから通信が入る。


「ミィル、すまないがデルストの森と同じように、エナジーパニッシャーを使えないか。敵は大半がエリテイルのうえ数もこちらを上回っている。先制攻撃で数を減らしたい」

「分かりました。アクトの量にはまだ余裕がありますし、大丈夫です。任せてください!」


 ハーバードの指示で部隊の最前列へ躍り出ると、マニピュレーターを前方に突き出してエネルギーの力場を展開。それを球状に収束してから一直線に発射する。猛然と突撃してくる無数のエリテイルを相手にエナジーパニッシャーが炸裂した。広範囲を光が飲み込み、多くの敵機の撃墜に成功する。


「よし……! これで大分数は減らせて……」


 そこで思わず口を閉じた。ハーバードも、リンドも、他の全員も一瞬押し黙り、部隊の通信は一瞬だけ静寂が支配した。見たことのない新たな機体が格納庫から飛び出し、上空に現れたのだ。それは青い装甲に通常のアクトフレームの倍はあろう巨体。また、その機体は各部から発生している光輪で全身を支え、飛行しているように見える。


 おそらく重力制御による新型フライトシステム。連合軍側ではまだ実用化されていないが、帝国軍では〈赤き翼〉の機体であるメリザンドなどに使われている技術だ。そしてよく見れば、胴体にすっぽり収まる形でアクトフレームの上半身が露出している。それが本体なのだろう。見覚えのある機体だった。あれはセリアと戦っていた青い機体だ。


「セリアさんの友達の……ウルスラって子がパイロットなのか……!?」


 ミィルの呟きから数秒後、ハーバードの声が通信で響き渡る。


「全員散開しろ! あの巨大な機体の正面に立つな!!」


 蜘蛛の子を散らすように友軍機が左右に別れ、ばらばらに離れていく。ミィルも命令に従い右側に逃げたとほぼ同時、青い巨大な機体の背面からエナジーキャノンが展開し、ちょうど両肩の上に乗る形で砲門を正面に向ける。そして視界を埋め尽くすような光線が放たれた。散開が遅れた機体が何機か光に飲み込まれ、光の中へ溶けるように爆散する。


 危なかった。ハーバードの命令がなければもっと多くの機体が犠牲になっていた。アクトフレームが装備できる武器の中で、最大の威力を持つのはエナジーランチャーという大型の砲だが、今のはそれに匹敵する威力だった。しかも両肩から二発。既存のアクトフレームの常識を凌駕する火力だ。


「……そこにいるのはフローレスか! セリアはどうした。ここにはいないのか!?」


 通信から女性の声が響き渡る。やはりこの声は、以前聞いたものと同じ。セリアのかつての親友、ウルスラだ。巨大な機体に乗っているのは彼女で間違いない。ミィルは機体を操縦してウルスラの機体の側面に回り込むために走らせつつ、返事をした。


「ああ。セリアさんは戦場にいないよ。前は非常事態でライトフラムに乗ってたが、本当は正式なパイロットじゃないんだ。悪いけれど君の相手は俺たちがさせてもらう」

「そうか。それならそれでいい。だがフローレスのパイロット……ミィルという名だったか。お前には捕獲命令が出ている。少々荒っぽいやり方になるが、メリオネート大尉が来るまでにお前の戦闘能力を奪わせてもらうぞ!」


 巨大な機体がフローレスを捕捉し、こちらに方向転換する。ミィルにとっては予想外の展開だった。まさか自分自身が身柄を狙われているとは思っていなかったのだ。そういえば〈溟海の妖精〉も似たようなことを言っていたことを思い出したが、もう遅い。


「ミィル、お前にケルレウスの真の力を思い知らせてやろう!」


 ケルレウスを胴体に収納している巨大なユニットの肩と脛のスリットが開く。露出したのはレンズ状の砲門。肩に2門ずつ。脛に4門ずつ。それぞれ合計12発の細長いビームが照射され、一斉にミィルの操るフローレスへと襲いかかった。

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