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19話 奪還作戦開始

 フェンサリル基地へ進軍するルートが決まった。連合軍はバルダー要塞の時と同じく、部隊を三つに分けている。それぞれの部隊が北側、東側、南東側から攻め、ハーバード隊のミィルたちは北側からフェンサリル基地を襲う手筈となっている。


 ただ、北側にはデルストの森が広がっており、陸上戦艦が通りにくい地形だ。そこで途中までは陸上戦艦で移動して、後はアクトフレームで直接移動しなければならない。敵も陸上戦艦が通れない場所という認識はしているはず。だから上手くいけば北側の戦力は伏兵として機能するだろう。それを考慮して、あえて北側のルートが採用された。


 すでにオリオン級陸上戦艦はデルストの森近くまで来ていた。いよいよ出撃の時が訪れ、ミィルたちはアクトフレームが待つ格納庫へと向かっていた。隣を歩く小隊長のリンドが、めずらしく真面目な顔でミィルに言う。


「ミィル、セリアさんの友達は青い機体に乗ってるんだったな。見つけたら言ってくれ。俺が対処する」

「リンド隊長が? いや、俺だって戦えますよ。大丈夫です。そんなことしなくても全員で戦えば……」

「無理するな。それにだ。お前に覚悟ができてても、セリアさんは悲しむだろ。せっかく仲も良いのに、関係が壊れるぞ」

「でも、対処するって……どうするんですか」

「もちろん撃墜するさ。相手は帝国軍のパイロットだ。投降する可能性も低いだろうからな……」


 そんなことを言われても、ミィルとて軍人である。たとえ恨まれようが敵であるなら殺める覚悟くらいしている。しかしリンドのその気遣いと優しさ自体そのものは素直に嬉しかった。リンドとは反対側の隣にいたフレディも口を挟む。


「まぁ、もしもの話だよ。敵軍にいるってだけで、本当に相対するかは分からないんだし。背負い過ぎるなってこと」

「……そっか。それもそうだな。とりあえず目の前のことに集中するよ。相手が誰でも、やることは一緒だ」


 格納庫に入ると、ミィルはフローレスの操縦席に乗り込んで機体を起動。いつでも出撃できるように準備を始める。そしてハッチを閉めようとした瞬間、飛びこむように操縦席の中に入ってくる人物がいた。セリアだ。狭い操縦席の中で、セリアの顔がすぐ目の前まで近づく。


「すみません、ミィルさん。出撃前の忙しい時に。どうしても言いたいことがあったので」

「え、ああ……大丈夫だけど……びっくりしたよ……」

「格納庫に入ってくる時のリンド隊長との会話、丸聞こえでした。だから一応伝えておきたいんです」


 急に恥ずかしくなってきた。まさか聞かれているとは思わなかった。

 そんなミィルの心情などお構いなしに、セリアは話を続ける。


「もしウルスラと戦うことになっても、気にせず倒してください。私はもう連合軍の人間ですから。例え誰がウルスラを殺しても恨みませんし、許すなんておこがましい考えもしません。戦いに勝つために……なにより、ミィルさん自身を守るために。撃墜してください」


 その表情に迷いはない。戦場で親友と相対し戦った後の、どこか繊細で壊れてしまいそうだった姿は微塵も存在していなかった。強い人だなと思う。短い間に自分で感情を整理して立ち直ったのだ。すでにセリアの気持ちは固まっている。


「……そう言ってくれると助かるよ。決心が鈍らなくて済む。もしかしたら、全部丸く収まる方法があるかもしれないけど……俺たちじゃあ、そんな都合の良い決着の仕方はできない。ごめん、セリアさん」

「そんな。謝らないでください。ミィルさんには死んで欲しくないんです。ウルスラは強い。油断したら殺されてもおかしくありません」


 これほどまでに心配されたことは、未だかつて存在しなかった。そんなに頼りないと思われているのだろうか。実際、実力的には本当に頼りないのだから仕方ない。ただミィルは自分がしぶとい自覚もあったので、当然だ、と言わんばかりにセリアにこう返した。


「もちろんだ。俺も死ぬつもりはないよ。要塞攻略の時だって生きて帰ってこれた。今回もきっと大丈夫」

「……分かりました。私はここで待ってますから」


 会話を終えると、すでに自分が出撃する順番になっていた。上半身を操縦席の中に突っ込んでいたセリアが後ろに下がり、ミィルはハッチを閉めてコントロール・スフィアを握り締める。アクトを送り込んでフローレスを動かすと、両足をカタパルトに乗せて陸上戦艦から発進した。


 すでに出撃して森の中へと進んでいくリンド機とフレディ機に追いつき、二人の後ろをゆっくりと歩く。ハーバード隊の機体数は、全部で100機といったところだ。背後を見れば他の陸上戦艦から次々と飛び出してくる味方機が目に映る。やがて意識を前に向けたところでリンドから通信が入った。


「セリアさんと話してたが、大丈夫だったか? 最近はずっと気持ちが沈んでた感じだったからな」

「問題なさそうでした。上手く立ち直れたみたいです。それどころか生きて帰ってこいって心配されました」

「そうか。それなら心置きなく戦えそうだな。俺の心配は杞憂だったか」


 森は巨木が林立する天然の迷路のようで、霧が立ち込めていることもあり、かえってこちら側が奇襲されてしまいそうな気配さえ漂っていた。ここはフレディの機体をはじめとする、索敵役に活躍してもらいたい局面だ。ただ帝国軍には機体がレーダーに映らなくなるステルスクロークには注意せねばならない。


 とはいえセリアの話によればステルスクロークは特殊な素材を使うのでコストがかかるらしく、数百単位の量産はできないらしい。せいぜい中隊程度に装備させるのが限界だと聞いている。デルストの森を慎重に進み続けること数十分。不意にフレディから通信が入る。


「レーダーに反応がありました! 敵部隊が接近中です。数は……百近く。こちらとほぼ同数です!」

「戦力は同じか。機体性能で劣るこちらが不利だな。向こうもこちらを探知したはずだ、全員備えろ!」


 ハーバードの通信が飛んでから程なくしてデルストの森は戦場と化した。濃霧で視界が不透明の中、弾丸がそこかしこから飛んでくる。ミィルをはじめ全機が左腕の盾で操縦席をがっちりと守り、レーダーを頼りに撃ち返す。当てずっぽうに発射する弾がそうそう当たるはずもなく、両軍はすぐさま膠着状態に陥った。


「あんまり良い状況じゃないな。このままじゃあ、北側ルートの俺たちだけ出遅れちまう」

「リンド隊長、空の飛べるフローレスで上から強襲するっていうのはどうですか。多少はこちらが有利になるかも……」


 リンドとフレディの会話が通信で聞こえてくる。ミィルとしてはフレディの提案は悪くないように思えた。多少は敵の布陣を崩せるかもしれない。それに今まで使う機会がなかったものの、フローレスには複数の機体をまとめて攻撃できる隠し武装があるのだ。上手くいけば敵の数を大きく減らせる。


「そうだな。ハーバード中佐に進言してみるか。ちょっと待っ……」

「あ……! リンド隊長、待ってください。敵の機体が単機でこちらに向かって突っ込んできます!」

「単機だってぇ……? そんな無茶な真似をする奴がいるのかよ……!」


 フレディの報告から少しして、それらしき機体がフローレスのレーダーにも映し出された。リンド機もそうだろう。その敵機体は近づく連合軍の機体を次々と撃墜しながら、常軌を逸した機動力で展開する陣形深くへと侵入してくる。おそらく狙いは指揮官のハーバード中佐だ。


 ミィルは背後にいるハーバード機の前に移動し、盾を構えたまま敵機の突進に備える。濃霧に覆われた森は、未だ敵の姿を覆い隠し、果たしてどこまで接近しているか、感覚を狂わせようとしている。レーダーが正しければすぐそこまで接近しているはずだ。


「っ……来たか!?」


 フローレスがアクトフレームの駆動音を拾った。この風を切る音は普通の速度じゃない。スラスターを全開で吹かして移動する音だ。白い濃霧を切り裂いて、その機体の姿がはっきりとモニターに映し出される。水色の装甲で覆われ、巨大な突撃槍と盾を構えた騎士のような機体。


 初めて見る機体だ。エリテイルとは違う。指揮官、ないしエースパイロットの専用機か。単機でここまで突貫してきたのだ。相当の自信があるのだろう。水色の機体は突撃槍をフローレスに向け、地面を蹴りスラスターで加速。質量にものを言わせた突きを放った。


「へぇぇ、もしかして君が話に聞いてたフローレスかい? こんなところにいるなんて。僕がちょっと腕前を確かめてあげるよ!!」


 水色の機体のパイロットと思しき人物の声が、操縦席の中に響いた。

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