15話 戦場での再会
後方で待機している陸上戦艦は静かなものだった。アクトフレーム部隊が三台の要塞砲を破壊するまでは、大人しくしているしかない。アクトフレームが出撃した後の格納庫の中はがらんどうで、どこか一抹の寂しさを感じさせる。セリアは格納庫に待機したままミィルたちが無事に帰ってくることをただ祈った。
「自分の部屋に戻ってていいんですよー、セリアさん。作戦が終わるまでたぶんメカニックは全員暇でしょうからね」
心配してくれているのか、メイカが現れて声をかけられた。それでも気にせずにはいられない。出撃前に重圧を感じていたミィルを励ましたものの、戦場というものは何が起こるか分からない。不測の事態が発生するのは常であり、たとえフローレスのポテンシャルを引き出せるミィルでも死なないとは言えない。
「すみません、メイカさん。心配をおかけしたみたいで。ミィルさんって頼りないから心配で……」
「あはは。確かにそうですね。良い人ですけど、腕は悪いです。でもミィルさんって本当しぶといというか、生き延びる力は凄いですよ」
「そうなんですか。被撃墜数が多いという話は聞いたことがありますけれど……」
「私、ミィルさんが配属されてからずっと機体の整備を任されてるんですが、正直、無事に帰ってくることの方が少ないです」
「そ、そんなに……」
いよいよ本格的に彼の生命を心配した方がいいかもしれない。でも、とメイカは笑いながら話を続ける。
「やりがいはありますよ。ちゃんと戦ってるんだって分かりますからね。ミィルさんはどんな状況でも生きて帰ってくる。私たちが直した機体に乗ってまた命を懸けて出撃するんだって思うと、こっちもやる気が出るってもんです。機体は帰ってきても、パイロットが帰ってこないことって多いですから……」
その表情はどこか寂し気だった。まだ付き合いは浅いが、メイカはいつも明るく、一緒にいると日向の中にいるような気持ちになれる。そんな彼女が見せた一瞬の顔つきが、セリアの印象に強く残る。そうやって誰か大切な人を失ったのだろうか。
次の瞬間、陸上戦艦が大きく揺れた。格納庫の中にまで伝わってくる。考えられるのは敵に攻撃されたことだけだ。しかし、なぜ。帝国軍はバルダー要塞の防衛に戦力を割いているはずだし、そもそも陸上戦艦を護衛する部隊が残っていて周囲を警戒しているはずなのに。
「っ……やっぱり、帝国軍の方が……少なくともアクトフレームの性能は上みたいですね。平野を迂回して私たちを狙ってる敵部隊を捕捉したから、こっちに残ってる戦力を迎撃に向かわせたって聞いてたんですけど、この様子だと全滅したんでしょうね……」
メイカの推測はたぶん当たっている。再び大きな衝撃がセリアたちを襲った。このままでは戦艦が撃沈するのは時間の問題かのように思われた。
陸上戦艦の艦隊が全滅したら、要塞砲を破壊しても肝心の要塞を陥落させるのに支障が出る。アクトフレームの通常装備で要塞の防壁やバリアを突破するのは手間がかかるからだ。
なにより、陸上戦艦にはメイカをはじめとしてセリアが知り合った人たちがいる。その人たちが死ぬのは、嫌だ。思考するまでもなく反射的にセリアの視線は格納庫の端に置かれている機体に目が入った。予備のライトフラムだ。整備自体はされていて動かすこともできる、と聞かされている。
「メイカさん……あの機体、使ってもいいでしょうか!? 私が出撃して敵のアクトフレームを迎撃します……!」
「えっ……へっ? いやいやっ、駄目ですよ! 仮に許可が下りたとしてもたった一機で戦うなんて……」
「時間を稼ぐくらいなら、どうにかできます。その間に味方の部隊を呼べばいい。違いますか?」
「う……うーーん……じゃ、じゃあ……駄目もとで艦長に確認します。ちょっと待っててください……」
メイカは格納庫に設置されている通信端末を使って艦橋に連絡を入れ、少しの間会話を繰り広げたかと思うと、ゆっくりこちらに振り向いて、嬉しいような、残念に思っているような、どちらともつかない複雑な表情を浮かべて言った。
「な、なんか、あっさり特別に許可されちゃいましたぁ……アクトフレームを戦艦に近づけさせないよう、牽制してほしいって命令までもらいましたよ……」
「分かりました。なんとかしてみます。任せてください」
整備班が着用する作業着のまま、ライトフラムの操縦席に乗り込むと機体を起動させ、両手でコントロール・スフィアを掴む。動作に異常はない。そのまま陸上戦艦から出撃すると、セリアはカメラとレーダーを確認して状況を把握する。
南東に帝国軍のアクトフレームを確認した。離れた位置からエナジーランチャーを用いて陸上戦艦を攻撃している。数は10機。中隊は12機で編成するから2機足りない。おそらくこちら側の部隊と交戦したときに落とされたのだろう。10機のうち9機はエリテイルだが、残る1機は見たことのない機体だ。青の機体色をしている。新型の専用機だろうか。
陸上戦艦が近づけさせないよう火砲で弾幕を張っているため、今のところ寄ってくる気配はない。それでも戦艦の装甲にも通用するエナジーランチャーを装備しているから、やはり窮地ではある。まずはランチャー持ちを潰す。
セリアの機体はしょせん量産機だが、出撃前に装備は自由に選ばせてもらった。射程の長いロングレンジライフルを構え、狙いを定める。そして弾丸を発射すると、ライフルの弾はランチャー持ちエリテイルの頭部を吹き飛ばす。操縦席を狙ったのに上に狙いがズレた。
原因はすぐに分かった。ライトフラムに搭載されている照準補正機能の精度が低い。これなら全部マニュアルでやった方が上手く当たる。セリアはすぐさま操作パネルに触れて照準補正を切った。先の射撃でセリアの存在に気づいたエリテイルがエナジーランチャーの砲身をこちらに向ける。
「これなら上手く当たる……はず!」
セリアはスラスターを横に吹かして回避運動を取りながら、ライフルの照準を合わせる。敵部隊のエリテイルと同時に撃ち合う。ビームの光がセリア機の横を掠め、二発のライフルの弾丸がエリテイル二機に命中、爆発する。
想像通りの結果だ。エナジーランチャーを持つ機体があと一機残っている。他の機体が盾を構えつつ突撃銃で撃ってくるが、セリアのライトフラムに当たる距離じゃない。敵の突撃銃はどれも命中せず、その間にセリアはロングレンジライフルを使って最後のランチャー持ちを撃ち落とした。
「これでこちらの戦艦を沈められる機体はいないですね。後は……」
上手く時間を稼ぐだけでいい。そう呟こうとした言葉をセリアは飲み込んだ。セリアも知らない青い機体が、陸上戦艦の弾幕の中を突っ込んできたのだ。青い機体が両肩に装着している盾を前方に展開すると、光の障壁が発生する。エナジーシールドだ。実用化の段階まで来ていると聞いたことはあるが、実際に搭載している機体ははじめて見た。
光の障壁で陸上戦艦の弾幕を強引に突破し、相手がロングソードを抜く。刀身が伸縮式になっており、縮んでいた刃が伸びる。あの剣には覚えがある。ベルグアに制式採用されているモデルだ。なんというか、ちぐはぐな機体だ。最新の装備であろうエナジーシールドを搭載しているのに近接武器は古い。パイロットの好みなのだろうか。
セリアはロングレンジライフルを放り捨てた。いくら撃ってもエナジーシールドには通じない。それならすぐ近接戦に切り替えるべきだ。ロングソードを抜き、さらに盾で防御の構えを取る。青い機体が剣を振り下ろす。セリア機はそれを盾で受け止め、剣で突きを放つ。が、青い機体もまたその突きを盾で防ぐ。
一瞬の均衡は即座に破られた。青い機体はスラスターで加速し、高い機体出力に任せてセリア機を押し倒そうとする。踏ん張りの効かないライトフラムが倒れそうになるが、セリアもまたスラスターを吹かして後方に移動したので、転倒することだけは免れた。
後方に逃れようとするセリア機を追うように、青い機体は跳躍し、回転しながら急降下、右手で握る剣で斬りかかってくる。この独特の動きには覚えがあった。まさか。上から襲ってくる斬撃を盾で受け止める。
そしてそちらに注意を向けさせておいて、本命である左手のコンバットナイフによる突きを、セリア機は逆手に握った剣で受け流した。やはりそうだ。推進力を活かした派手な動きを囮に操縦席を一突きで潰す、このコンバットパターンをセリアはよく知っている。
「貴女はウルスラ……なの……!?」
セリアは半ば反射的に、青い機体に通信でそう問いかけた。




