14話 捉えたのはその影だけ
剣状エナジーシールドによる大振りながら威力のある一撃。それを補うかのごとく差し込まれる右手の剣による斬撃。その猛攻に対してハーバードは反撃もできず、ただ回避に徹していた。エナジーシールドかロングソード。このどちらかを封じねば勝ち目はない。
まずエナジーシールドだが、エネルギー切れを狙えばいいのではないかと最初は考えた。元々アクトの消費量が激しい装備なのだ。銃や無反動砲で攻撃を加えてあえて盾を使わせ、消耗させるという作戦はどうだろうか。
だがそれは難しいな、とすぐ頭の中で不採用にした。〈灰の氷壁〉が使うエナジーシールドの消費量がそれほど高いのなら、接近戦で積極的に使ってくるわけがない。消費量の問題は解決されていると考えるのが自然だ。となれば別の方法を考えるべきだ。
ハーバードは右手に握る剣を腰のハードポイントにマウントすると、左腕に装着している盾を右手で持ち直した。さらにコンバットナイフは捨てて左手を無手にする。この装備の変更に相手は少なからず疑問を抱いただろうが、構わず攻めを続行してくる。ハーバードはぎりぎりまでタイミングを見計らい、そして相手の眼前へ盾を突きつけた。盾による体当たり、いわゆるシールドバッシュだ。
盾を活かした戦闘を得手とする〈灰の氷壁〉のお株を奪う戦術だ。キーニスも合わせるようにエナジーシールドでシールドバッシュを防ぐ。盾と盾が激突する。出力は指揮官型エリテイルの方が上なので、シアーフラムが少しだけ押されるような格好となる。
キーニスの指揮官型が右手の剣を振りかぶった。斬撃が迫ろうとしている。ハーバードはそれが来るのを読んでいた。だから腰の後ろにマウントしていた突撃銃を素早く左手で装備して撃つのは難しい話ではなかった。
早撃ちさながらの芸当で放たれた突撃銃の弾丸は、相手の剣がシアーフラムを切り裂くより先に命中した。最初はやや狙いが甘く、相手の右腕に何発か当たったが、その後に放った三発が全弾胸部に命中。操縦席を貫いて完全に破壊した。
すべてはこのための布石。シールドバッシュを使ったのはエナジーシールドを封じる目的と、注意をそちらに向けさせるためのハッタリのようなものだ。シールドバッシュを使ったとき迷わず距離を置かれたらこの戦術は失敗だったが、それでも防御を選ぶ可能性に賭けた。防御に長けた盾使いなら、回避よりも防御を信頼する。これまでの攻防でキーニスにその傾向があることは分かっていた。
「敵の指揮官は仕留めた! このまま攻め込む!!」
通信を使って友軍へ高らかに宣言すると、要塞砲を破壊すべくさらに敵陣の奥へと進んだ。
◆
空に飛行の軌跡を残しながら、白い機影と赤い機影が複雑に絡み合い、もつれ合う。ぶつかりに行くように距離を詰めようとする白い機体はミィルのフローレス。それを上手く躱しながら、正確無比にビームを撃ち優位を取るのがアルヴィスのメリザンドだ。
何度もビームを防いだことでもう盾もボロボロだ。突撃銃なら何発だろうと防げる盾も、エナジーライフルのビームを受けすぎるとこうなってしまう。何箇所も穴が開いており、もう使い物にならないような状態だ。デッドウェイトでしかないので、ミィルは盾を外した。
いざとなればアクティブウィングの機能を使って防御すればいい。それにずっと撃ち合いを続けるうち、ミィルの弾は掠りもしなかったものの、相手のビームを避けるコツだけは掴めた気がする。フローレスの機動力が高いことも相まって回避できるようになってきた。
「しぶといな……逃げ回るのはいい加減にしてもらおうか!!」
通信越しにアルヴィスの声が響く。メリザンドが右腕を突き出してから、エナジーライフルを構えてビームを連射する。おそらく手裏剣を織り交ぜての射撃だ。その戦術はもう読み切っている。フローレスの背部から展開されている光の翼、アクティブウィングを操作して、まるで卵の殻を纏うかのように機体前面を光の翼で覆う。
見えない手裏剣とビームは障壁と化した翼に弾かれ、ミィルは光の翼を開いて一直線に突っ込んだ。全速力の突進である。メリザンドは逃げない。ここで決着をつけるとでも言いたげに、エナジーライフルを構えた状態で狙いを定めている。
「……そこだ!!」
またアルヴィスの声がフローレスの操縦席に反響した。放たれたビームは狙い過たず胸部に命中した、かのように見えただろう。それは錯覚だ。突進したように見せかけたフローレスが側面に回り込んだときに生じた、残像。いや分身の方が正確か。
これこそフローレスが搭載する三つ目の隠し装備、ミラージュシフト。移動時にアクティブウィングから立体映像を投射して分身したように見せるという、試作の撹乱機能だ。セリアの説明ではずっと使うと相手も目が慣れるから、ここぞという時だけ使ってくださいと言われている。今こそが、そのタイミングだ。
「し、白き影…………!?」
アルヴィスが捉えたと思っていたのは、その影だけ。フローレスは剣を構えて側面から接近している。反応が遅れながらもメリザンドは剣を抜いた。そして相手が盾で受けるより早く、フローレスの剣がメリザンドの頭を斬り飛ばした。続けざまに左の上腕を切断する。盾を装備した左腕が落下していった。
苦し紛れに剣を振り下ろすメリザンドだが、斬ったのは分身。フローレスはすでに背後に回り込んでいる。三度目の斬撃で、メリザンドのフライトユニットである翼状の大型スラスターを斬る。飛行能力を失ったメリザンドが落下する。
「馬鹿なっ。ありえない。ありえるはずがない。この私が二度も敗北するなどということは……!!」
それがミィルの聞いた最後の言葉だった。メリザンドの操縦席のハッチが開き、金髪の男性が飛び出すのが見えた。素顔を見るのは初めてになるだろう。あれが〈赤き翼〉のアルヴィス・メリオネートなのだ。アルヴィスは忌々しそうにフローレスを、ミィルを睨むと、パラシュートで外へと脱出した。
追撃すべきか。生身の人間だが。ミィルはそう逡巡するが、直後に味方から通信が入ったため意識をアルヴィスから通信の方へと変えるしかなかった。通信を入れてきたのはハーバード中佐だった。
「ミィル、聞こえるか。ハーバードだ。そちらの方はどうなっている?」
「ハーバード中佐。〈赤き翼〉の機体は撃墜しました。パイロットには逃げられてしまいましたが……」
「そうか、分かった。よくやったな。こちらも要塞砲の破壊に成功した。デルフィーニ隊もロダン隊の方もな。これで陸上戦艦を使って本格的に要塞を落とせる。ただ、少し問題が起きた」
「問題って……なんですか?」
ハーバードはミィルの疑問に応えるべく言った。
「中隊規模の敵アクトフレーム部隊が後方で待機している陸上戦艦を襲っている。こちらの部隊から何機か寄こすつもりだが、間に合わないかもしれん。ミィル、フローレスには飛行能力があるんだろう? なら君の機体が一番速い。戦艦を守りに戻ってくれないか」
どうも平野を大きく迂回しての奇襲らしい、と中佐は言った。ミィルの脳裏によぎったのは陸上戦艦で待っているメイカやセリアの顔だった。もしかしたら戦艦が墜ちるかもしれない。そうなったら。肌が粟立つのを感じた。そんなことはあってはならない。子どもの頃と同じだ。自分がいないところで大切な人が死んでいく。そんなのは二度とごめんだ。
「了解しました。急いで戦艦の方に向かいます!」
「すまん、こっちからもリンドとフレディを向かわせる。頼むぞ!」
通信が切れ、ミィルは全速力で空を駆けた。少しの間もなく、後方から弾丸が飛んできた。ミィルは慌てて回避行動を取る。フローレスの背を追ってくる機体がいる。エアドルートの部隊だ。メリザンドは撃墜したが、まだ空にはこいつらが残っていた。
とはいえ地上の部隊を狙っていたせいだろう、ほとんどの機体がミサイルを撃ち尽くしているようだ。残された機銃で馬鹿みたいに撃ち回りながら追いかけてくる。戦いの趨勢は連合軍の勝ちで決まりつつあるのに、この抵抗。いや抵抗というより嫌がらせの類だろう。少しでも敵に不利益を与えたいのだ。
「今、忙しいんだよ! 邪魔するんじゃねぇ!!」
背を地面に向けるように反転すると、そのまま突撃銃を撃ち返した。エアドルートの部隊は散開して銃弾を避ける。ミィルはそれでも当てずっぽうで突撃銃を撃ち続ける。偶然、主翼の腕に命中した一機が墜落していくのが見えた。これに懲りて邪魔しなくなることを祈りつつ、陸上戦艦のところへと急いだ。




