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正しく生きた先に  作者: まゆ


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6/9

捕縛と安堵

一部暴力的な表現があります。苦手な方には不快な思いをさせてしまうと思いますので、お読みの際はご注意ください。

 エリオットの顔が戻り、喜びの声が涙と共にこの場を穏やかなものへと変えたというのに、その空気を壊すように金切り声が響いた。

 

「っ顔が戻ったくらいで騒ぐんじゃないわよっ!お前だって私達と血がつながってるんだがらぁっ!」

 

 ミネルヴァ殿下の声に暖かくなっていた胸の内が冷えていく。自分に流れる血を思えば、ライラのためにも離れねばならない。もう彼女に俺は必要ないのだ。


 抱きついていたライラの体を少し離し、ゆっくりと立ち上がった俺は涙を少し手で拭い、真っ直ぐサリヴァン殿下に体を向けた。


「彼らを捕縛するなら、私も捕縛してください。その先に何があろうと甘んじて受け入れます」

「それは、なぜだ?」

「私は先王から続く血が流れております。彼らを止められず、そのせいで大切な国民や奴隷達を長く苦しめました。なにより、私が捕縛されるより前にライラを先に逃していればここまで苦しむことも――」

「違うっ!」


 言葉を遮ったのはライラの声だった。思わず声を止めて見下げると、彼女はしっかりと俺の足元に抱きついており、涙でいっぱいの淡い瞳を見せた。


「お兄ちゃんがいたから私はここにいるのっ!お兄ちゃんが私の代わりに酷いことされたからっ!」

「それはちが――」

「お兄ちゃんが一緒じゃなきゃ帰らないっ!」

「ライラ――っ」

「お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ、いやだぁ……っ」


 あれだけ長い時間を過ごした檻の中でも泣かずに耐えていた彼女が、子供らしく泣き叫ぶ姿に言葉を失うと、サリヴァン殿下が俺に声をかけた。


「君の考えは王族の血を流す者として全うな考えだろう。だが、君を捕縛すれば、私はここにいる者の信頼を失ってしまう」


 そう言いながら彼が視線をノイアやったので彼を見ると、無表情だった顔をこわばらせていて、殿下に対して怒りを顕にしているようで内心驚いてしまう。そんな彼にサリヴァン殿下は叱責することもなく、苦笑しながら俺に目を向けてくれた。


「君は私の国民であり、友である彼の家族を救ってくれたのだ。その体にどんな血が流れていようともその命を奪うことはできない。ぜひ、我が国に来てほしい。その身を必ず守ると約束しよう」


 まさか帝国に迎えられるなど思わなくて驚いてしまうが、力強い瞳に偽りは見えず、その傍で見つめるノイアの真っ直ぐな瞳にも断る言葉は浮かばなかった。

 

「――っ寛大なお心に感謝いたします」

「まあ、私が言わずとも彼が無理やり連れ帰るだろうさ」


 ははっと殿下に笑われたノイアは、ムッとしながらも、かすかに頷いて見えて優しい人なのだと改めて思った。


 穏やかな彼らはかすかに息を吐くと、その空気を変え、顔つきを一層固くしながら捕縛された王族に目を向けた。


「さて、そろそろ私の目的を果たそうか」

「――ライラは彼と待っていろ」

「うんっ」


 そう言いながら、俺達を素通りした彼とノイアは王族の前に並び、広間に響く声で語りかけた。


「アルダイン王国国王ヴァルドロン、並びに王妃リヴェア、第一王女ミネルヴァと、第一王子、ヴァルリー。貴殿らは我が国に連行する」

「貴様らがここを制圧しようとも、我らに並ぶ連合国軍がすぐにでも――」

「あぁ、彼らは連合国から離脱し、我がヴァルガス帝国の傘下に入ることになった」

「そ、そんな知らせは――」

「その結果がこれだ。言わずとも解るだろう」

「まさか――っそんなはずはない!貴様らの戯言など信用に値せん!」

「好きにしたらいい。我々はお前達を連行するのみだ」

「――ノイアっ!」


 突然名を呼ぶ彼女はまだこの状況を理解していないらしい。


「貴方の肌は少し変わっているけど、私は好きよ……っだから、私は貴方を待ってるわっだって、貴方は私を、愛しているもの……っねぇ、そうよね?」


 彼女は現実から逃げようとして、肝心な事を忘れたらしい。彼は自らが甚振ってきたライラの兄だというのに、まだ愛を語っている。


 いや、もしかしたら彼釜どんな思いで檻の前で共にいたのか全くわからないのかもしれない。案の定、彼が発したのは恐ろしい声だった。


「貴様はライラのみならず、彼の全てを搾取し、侮辱し続けた。そんな貴様を許すことはない。簡単に死ねると思うな」

「も、もう、そんな演技したって――っ」

「お前を愛したことなど一度もない。その面を、二度と見せるな」


 冷たい言葉に彼女は言葉を失った。だが、すぐさまこちらを力強く睨見つけてきた。殴られ腫れた顔もあり、一層恐ろしい姿にライラを後ろに庇うと彼女は罵った。


「必ず殺してやるからっ!その汚い肌も顔もっグッシャグシャにして、スラムにでも捨ててあげるっ!お前もだっ!エリオットぉおっ!」


 その声にライラを引き寄せながら、睨み返したが、それが尚更気に入らなかったらしい。抑えつけられた体を目一杯暴れさせ、兵士を困惑させながら彼女は俺に向かって怒鳴りつけた。

   

「あんたも同じようにしてやるっ母親と同じように苦しめて殺してや――っ」


 そう話す間にノイアが近づき、一瞬希望を見出して見上げた彼女の頭を思い切り床に叩きつけるように、押さえつけた。


「んぎゅぅう゛っ!」

「彼に手を出す前に俺が直々にお前を罰し、二度と外に出れぬようにしてやる。次、その口を開けば歯を折るぞ」


 その声にやっと大人しくなった彼女に、ようやく兵士達が彼らを連行した。彼らが外に出た途端、疲れの見えた殿下はノイアに俺達を任せると早々に護衛と共に王の間を早退室した。

 そうして、俺達は共に保護されるためにノイアと王宮内を歩くことになり、ライラは兄の腕に抱かれていた。


「お兄ちゃん、お兄様のお名前はね、ライオネルっていうのよっそれでファミリーネームはネヴェスタ、ずっと言いたかったけど、家族に何かあったらと思って言えなかったの。ごめんなさい」

「謝らなくていい。ちゃんと考えて行動したおかげでこうして無事に会えたんだ」

「うんっ」

「――お前の名は、エリオット、だったんだな」

「はい。家はなくなったので、それしか名前がありません」

「貴方の大切な家族の名前だろう。聞かせてほしい」

「――ルヴェールです。」

「エリオット・ルヴェールか。良い名だ。君の家の名が保護先でも生きるように勧めておく」

「――っありがとうございます」

「まさかあの怖い人がお兄様だなんて、思わなかった……っ」

「あの時は手を出さぬようにと我慢していたからな」

「そうだったんですね。あの日、貴方様のおかげで私は今、共に歩けます。本当にありがとうございました。改めて、よろしくお願いいたします、ネヴェスタ様」

「畏まらないでほしい。貴方は恩人なんだ。どうか、ライオネルと呼んでほしい。その代わりに私もエリオットと呼びたい」

「わ、分かりました……その、ライオネル、様」


 名前を呼ばれて微笑む姿は先のノイアだった頃とは程遠く、勇ましい見た目に似合わぬ穏やかな姿に思わず頬が緩んだ。

 

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