愛しい妹の行方 (???視点)
俺には可愛い妹がいた。俺の瞳とは違う淡い宝石のような瞳、柔いウェーブの掛かった髪は柔らかくて、抱きしめると頬をとろけさせて笑う。
少し歳が離れていたからか、幼い頃は『 『おにいさま』と呼びながらどこにでもついていこうとして、大きくなれば『おにいさまとけっこんするっ』なんて可愛らしい笑顔で言われてたら事もあった。
そんな妹が俺は大好きだった。何物にも代えがたい彼女のために騎士団長の父の元で鍛錬を積み、教養も身につけた。そうすれば必ず守れるのだと、信じていた俺は愚かだった。
「ライラが、いなく、なった……っ!?」
「――あぁ」
「捜索はどうなってる……っ!?」
「まだ情報はないが、必ず見つける。今夜は俺も参加するゆえ、お前はライラが戻ったときの為に屋敷にいろ」
その日、一睡もせずに待った。けれど、朝になっても父は戻らず、数日後、ライラの行方不明の後に怪しげな荷車の目撃情報が手に入った。
誘拐ならばこちらに関わるものだろうことも視野に入れたらしいが、それが間違いだとわかったのはその荷車が国を出た情報を聞いた頃だった。
騎士団長など関係のない、ただの人さらい。それでは足をつかむのも大変で操作は難航した。しかし、誰も諦めなかった。
騎士団に入団し、父の元に這い上がるようにして地位を確立した頃、やっとライラが大手の奴隷組織に見を移し、アルダイン王国に売られたことがわかった。しかも、それが王族というのだから許すことはできない。
(ライラの出自を知らずとも報いは受けさせる。必ず、国民も全てだ……っ)
その覚悟で俺は父に直談判に出た。自らアルダインに行くことを初めは反対されたが、俺は教養のために通った学院のツテを借りて、第二王子であるサリヴァン殿下へと話を通した。
殿下は学友として俺に手を貸すことを約束してくれた。そばで見ていた彼からするに、『人殺しにさせるわけには行かないから』とのことだったが、いっそそうなってでもライラを取り返したかった。
そこからアルダイン王国を調べれば遠方ゆえに知らなかった彼らの悲惨な状況が浮き彫りになった。下がり続ける国力、声太る貴族に貧しい平民。輸入の質も悪く、安く買い叩く様に周辺諸国は反感を持っていた。
『これなら落とした方が楽だな』
苦笑しながら言った殿下の行動は早く、周辺諸国を味方につけると俺に潜入の任務を与えてくれた。
事前に彼が接触をしていたアルダイン王国第一王女のミネルヴァはその容姿に比例する美しい者が好きというのは知れ渡っており、潜入には彼女が好きな見目になるため、『呪い』を使った。
サリヴァン殿下は博識で、そちらにも精通していたのが功を奏した。代償に呪いを受ける最中は表情が乏しくなったものの、それもライラのためなら安いものだ。
奴隷に扮して、ツテのある商人から事情があって預かった、などと言いながらアルダイン王国の貴族の元で商売の手伝いをしていればたちまち、彼女に情報が言ったのだろう。俺を痛く気に入った彼女のもとに召し上げられた。
中に入ればそのいびつさは顕著だった。使用人は皆、顔が疲れ果てており活気はない。その上、王女に対して怯えたように過ごすのだ。
彼女の部屋では毎日怒鳴り声と謝罪の声が響く。いつまでも子供のままに生きてきたらしいが彼女を見るたびに呆れ果て、気に入られるための性交は苦痛でしかない。
王女のくせに男の肌に触れていないと落ち着かず、とっくに純潔は捨てていたらしい。高貴なはずの女はまるで娼婦にしか見えなかった。
(ライラが見つかればこんな女、殺してやる)
日に日に募る苛立ちに対して、ライラはなかなか見つからない。
彼女の周りには使用人とあの気持ちの悪い男だけ。なぜか王女のそばに置かれた彼は噂では自らの意思で彼女の奴隷になったらしい。奴隷制度に反対した一族もいたというのに頭のおかしいやつだ。
そのせいで顔を溶かされて、何かあれば鬱憤を晴らすために暴力に晒されている。あまりの酷さと彼女の金切り声の煩さに俺が入れば、その男は醜い顔を伏せたままに下がっていく。
こんな気持ちの悪い場所を早く抜け出したく、様々な人間を観察した。そうして、ようやくその男が夜間に出歩く姿を見た。明らかに他とは違う重々しい金属の大扉に設置された人用の扉に入る姿に嫌な予感がした。
「ミネルヴァ殿下、お聞きしたいことがあります」
「やだ、そんな言葉遣いをしないで。私達はもう主従を越えて愛し合っているのだから、ミネルヴァと呼んで頂戴。敬語もいらないわ」
「――ありがとう、ミネルヴァ」
「いいのよ、それで、何を聞きたいの?」
「先日の夜、あの醜い男が金属で作られた大扉の中に入っていくのを見ました。あそこは彼の部屋なのですか?」
「――それは本当に?」
「はい、何やら小さな袋を手に」
そう言うとミネルヴァは穏やかな笑みを途端に憎たらしい笑みに変えたのだ。
「あの男、まだ懲りてないのねぇ」
そう言いながら、彼女は鼻で笑った。ひどくあの男が嫌いらしい。
まあ、自ら奴隷になるなんて趣味の悪い男は彼女すらも嫌なのだろう。
「ノイア、ちょっと私についてきて。気持ちの悪い者を目にするかもしれないけれど、躾をしないといけないの」
「――もちろんだ」
「あぁ、ノイア。本当に貴方はいい子ね。大好きよ」
重なった唇に、吐きそうな胃液を抑えるように頬の内側を噛み締めた。




