差し伸べられる手
登場人物からのかなり暴力的な表現があります。苦手な方もいらっしゃると思いますのでお読みの際はご注意ください。
またある時、ライラのために小さな菓子の欠片を小さな袋に集めて会いに行った。飴のような大層なものでないのにライラは喜んでくれて心から嬉しかった。けれど、囚人しかいないはずのこの場所に似つかわしくない、ヒールの音が響き、緊張が走った。
「あら、本当にここにいたのね」
扉の開く音に警戒し、ライラを背にした俺の目の前には先に就寝したはずの王女殿下があの従者と共に立ちふさがった。
「ノイアの言う通りに来てみれば……そんな子の何がいいのかしら?」
「お休みになられたのでは……っ」
「私がどうしようが奴隷には関係ないでしょう。にしても臭いわねぇ……大丈夫、ノイア?」
「――大丈夫だ。お前は平気か?」
「本当は吐き気がして嫌よ、こんな所」
彼と殿下とのやり取りが明らかに主従ではない。まるで友人のような言葉のやり取りに驚くものの、彼女は口元を扇で隠しながら眉を釣り上げ、汚らしいものを見る目にライラを隠すと彼女は命じた。
「そこを退きなさい」
「どうか、お許しください」
「背くならお前を奴隷から外してその子供と共に処分するわよ」
冷たい眼差しに、少しの間悩んだがライラを差し出すわけにはいかず、悔しい思いのままに横に履けると殿下はそのまま泣きそうなライラを睨みつけた。
「こんな子のどこがいいのかしら。薄汚れた肌なんて触れたくもない。瞳はえぐり出せばきれいでしょうけれど……ねぇノイアもそう思わない?」
「――そうだな」
恐ろしく、悪寒が走る言葉に「ひっ」とか細い声を漏らすライラを笑った彼女に警戒を強めると、片手に何かを取り出すのが分かった。
「そう怯えないで、今日は貴女にプレゼントがあるの」
そう言いながら向けたものを見て、すぐに前に出た俺の体に何かの液体がかかった。
「お兄ちゃんっ!!」
「――っ下が、ってろ……っ」
ローブが濡れ、液体の掛かった肌から焼けるような痛みが襲い、膝をついて声を上げたくなったが万が一、痛みにうずくまればライラが無防備になると背後の檻を掴んでその場に耐えると彼女は笑った。
「あらやだっ体まで醜くなっちゃったわねぇ?」
歯を食いしばる俺に冷たい声が響く。
「それでも、仕事はちゃんと、できるわよねぇ?」
「――っは、い」
「いい?これは罰なのよ。その子供と会うことを許した覚えはないわ。それに、菓子なんて贅沢品を渡すなんてありえない。それで済んだことを感謝なさい」
「――寛大なお心に、感謝……致します……っ」
「そう、いい子ね。ほら、奴隷の姿をよぉく覚えておきなさい。この子が死んだら、今度こそ貴女がやるんだから」
「ぇ……?」
「その顔も、大好きな彼と同じにして、体がグシャグシャになるまで遊んであげる」
彼女の恐ろしい計画に恐怖がこみ上げたのだろう。ライラの嗚咽を聞いてすかさず檻から手を離し、弱い声を漏らさぬように歯を食いしばりながらその場に頭を伏せた。
そうしてできる限り額を地面につけ、彼女に懇願するしか俺にできることはなかった。
「どうか、どうかお許しくださいっ!一生を王女殿下に捧げます……っですから、この子だけは、祖国への帰還を――っ」
「そんなこと、許す訳が無いでしょう。この子は私が遊ぶために生かしてもらったんだから」
「どうか……どうか御慈悲を……っ!」
「無様ね、一応貴方も王族の血を宿していたでしょうに。こんな小汚い子供が好きだなんて、気持ち悪い」
「どうか……っこの子を、外に゛っぎ――っ」
顔が床にめり込むように押し付けられ、踏まれたのだろうとわかると何度も何度も、頭を床に押しつぶされて鼻が曲がりそうだった。
「ごめんなさいね、ノイア。汚いものを見せて」
「――お前も大変だな」
「そうなの、この子達は奴隷と罪人なのに自覚がないから困っちゃう。私がこうやって躾けないと」
「あまりそちらばかり構うと寂しい」
「あら、可愛らしいことを言うのね……っ早く部屋に戻りましょうか」
「あぁ、そうしてくれ」
仲睦まじく去っていった彼らに静まり返った檻の中でライラが泣き始め、急ぎ体を起こして振り返る。
「ごめ、んなさぃっごめんなさい……っ」
「もう、大丈夫、だからな……っ」
「おにい、ちゃ――」
「俺が死ぬ前に、必ず、だして、やるから……だから、待っているんだぞ……っ」
「でも……っおにいちゃんがぁ……っ」
「俺は大丈夫だっここまで耐えたし、それに……ライラには会いたい人がいるだろ?だから、帰ろう、な……?」
そう声をかけた。なんとかライラを落ち着かせ、足を引きずりながら痛む体を引きずって牢屋を離れた。
肌の痛みは凄まじく、うまく歩けずに壁に身を委ねた。
「は……っはぁ……っ」
(痛い……っ痛い……っでも、歩かないと……明日行かないと、ライラが……っ)
醜い顔をさらに歪め、ノロノロと歩いたがどうしても耐えられず足が止まる。痛見に加えて、体の熱も上がり始めておりついには動けなくなって壁に持たれて座り込んだ。
体は痛みと熱さで震えてしまって、一晩をここで過ごすことも頭をよぎった。
そんな中で走ってくる足音が響く。逃げなきゃと思っても動けず、そばで止まった足音に痛みを覚悟したが、相手がしゃがみ込み、優しい声が聞こえた。
「薬品が掛かった場所はどこだ……っ!?」
それは間違いなく聞き覚えがある声だった。焦りの見える声に恐る恐る腕を上げると、その手が何か小奇麗な小瓶の蓋を取り出し、蓋を開けて中身をかけた。するとみるみる痛みが引いていき、驚いてしまう。
「足は……?」
「あ、しも……っ」
「見せろ」
「ん………っ」
理由を問う前に痛みからか開放されたくて足を差し出し、それがかかるとみるみる痛みは消えた。首や体にもかけられて、痛みがなくなった体に安心して見上げると、ノイアは俺を見ていた。
「どうして……あ、なたが……?」
「――もう少しだ」
「え……?」
「間もなく、終わる。それまで耐えろ」
いつも無表情だった顔を強張らせながら、何も映さなかった青色の瞳を力強く輝かせている。その表情はあまりにも真剣で頷くと彼はその場を去っていってしまった。
その言葉は俺に希望を与えるようで、次の日に俺が無事に顔を出した姿を見て残念がる殿下の姿から、彼の言葉を飲み込み、奴隷であることに努めることにした。




