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正しく生きた先に  作者: まゆ


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1/9

歪められた正義と守りたいもの

こちらのシリーズには暴力や暴言などの表現があります。苦手な方はご注意ください。

 

「近づかないで頂戴っ!」


 甲高い声に痛む顔はいつものこと。王女殿下は俺を汚らしいものを見る目で見下ろす。やけどでもしたかのようにただれた頬。腫れ上がった瞼。肌は化物のように赤く腫れ上がってしまった顔は、もはや俺のものではない。


 こんな顔にした張本人のくせに、本当に吐きそうに顔色を悪くするのだから愚かだ。


「その醜い顔、吐き気がするの。二度とそれを脱ぐんじゃないわよ……っ」

「申し訳ありません」

「――何事ですか?」


 扉が開き、低い声が響くと彼女はハッとして急に涙を浮かべ、なよなよしながら男に近づくと擦り寄っているのだろうことは見てわかる。


 白肌に金髪の男は色素の薄い瞳に感情が見えず、その端正な男らしい顔立ちに彼女はすぐに自分の従者に引き入れたらしい。


「ノイアぁ……あの醜男が私に近づいてきてっ怖かったの……っ」

「それは……っなんて恐ろしかったことでしょう」

「そうなのぉっそこの使用人も私をイジメようとするの……っ」

「――私が直々に罰しましょうか?」

「そんな……っ貴方の手をわずらせるほどじゃないわ……っありがとうね、ノイア」


 甘い声にため息を押し殺していると「もういいわ、下がりなさい」と声をかけられ、俺と震えたままの使用人はその場をあとにした。


 

  ――――――――――――――――


 

 我が国アルダイン王国は周辺諸国よりも大きな領地を収めており、力を持っていた。しかし、近年は作物の育ちが悪く、多くの地で貧困層が急増していた。


 そんな最中に現王の娘であるミネルヴァ殿下を始め、王家の人間が大手の奴隷商から秘密裏に人を買い、奴隷にしていた事実を我が父が知った。父が言うには、その奴隷商は不法な手段で奴隷を集めているらしく、多種多様な子供が奴隷として売られていた。

 

 先王の弟の息子であり、王家の遠縁であった父は周辺諸国からの反感をおそれて反対とともに奴隷の開放を望んだ。だが、それを反故にされ悩んだ最中、王女の奴隷となった子供が抜け出した。


 褐色の肌の少女は間違いなく他国の子供であり、首輪や枷をつけた少女の姿は王宮の中ではあまりにも目立ってしまった。騒ぎを聞き、すぐに火消しのために幼い少女を処刑しようとするのを父親が止め、俺は父の代わりにその子を保護していた。

 

 しかし、陛下はその行為を反逆の意があるとして、父と母を処刑した。その代わりに残された俺は身分を剥奪され、少女と共に身柄を捕縛されたままだった。

 そんな俺のもとに突然彼女は現れた。そして、俺に迫ったのだ。


『それを庇うからこうなったのよ。貴方の父も、御父様に逆らうなんて愚かね』


 不敵に笑った彼女に保護していた少女を思い出して眉をひそめた俺の頬を優しく撫でながら、彼女は嫌な笑みを浮かべた。

 

『ねぇ、ここで私に詫びて見せて?そうしたら、私の従者にしてあげる。貴方のその顔、私は好きよ?』


 彼女の言葉に一瞬で怒りを覚えながら、断固として彼女に従わなかった。それが父の遺志を継ぐことにもなると考えたが、後に俺は彼女の奴隷として王宮内に飼われることになった。


 毎日犬のように扱われ、何度も理不尽なことをされた。それでも、父の行いが間違いではなかったと周りに示すためにも耐え続けた。

 だが。


『あらぁっ!ひっどい顔ねぇっ!』


 彼女が興味を持ったという『呪い』と呼ばれた術を使った戯れは俺の顔を醜く変えた。口元を隠すことなく幼子のように笑う彼女はまさに悪魔のようだった。

 

 そのすぐ後に連れてきたのがノイアだ。彼を従者としてそばにおいてからは俺の扱いは少し落ち着き、先のように前に出たりしなければ、呼び出されることはなかった。


 殆どの使用人には避けられるが、事の有様を知る使用人の中には俺に同情的な人もいる。だから、少しは生きていけた。

 

 そんな今日、肌寒い夜に一人でとある場所に来ていた。そこは王宮の中でも使用人すらほとんど行くことはないだろう地下室だ。ひどい匂いのするそこには檻が並び、罪人が収容されている。

 その中に、彼女はいた。


「お兄ちゃん!」

「ライラ、久しぶりだな……っ」


 褐色の肌に長い黒髪、淡いピンクの瞳が宝石のようなネリアは檻の外にいる俺に近づいて、檻越しに抱きしめた。保護したばかりの時は恐れからか泣き叫びながら俺に抱きついていたのを今も覚えている。 


 保護したばかりの時、彼女は俺のように王女の戯れのせいで呪われており、体の機能は殆ど正常に動かなかったらしい。ひどく痩せていて、逃げ出したのもギリギリだったと聞いた。


 咳をよくしていたし、苦しそうで、初めて蜂蜜を与えたときは笑っていた。

 あれから2年は経ち、ライラは14歳になる。


「咳は?」

「ん、まだちょっと出るの」

「そうか……熱は?」

「ないよっ!」

「それは、良かった」


 ライラは父と母が捕縛された後に俺と共に捕縛された。そして、陛下の温情で身分の剥奪と共に追放処分にすると告げられた際に、俺は自らライラの代わりになると宣言し、慈悲を願った。


 そのために『彼女の本性については一切口外しない』と誓約書も書いて王女の奴隷となった。

 

 だが、こんな顔になってしまってからはライラに会うのを躊躇うようになった。それでも、心配のほうが勝り、恐れながらもこの顔を見せた時、彼女は泣いてくれた。


『ひどい……ひどい、よぉ……っ』

『ライラ……っ』

『いたい?いたい、おにぃちゃん?』

『大丈夫だ』

 

 彼女の涙に心が救われたようだった。ネリアはそんな俺に家族のことを話してくれた。父は戦う人、母は優しい人。兄は無口だけどすごく強くてかっこいいと言っていた。


 そんな彼女の支えになりたくて、彼女の兄ほどではないが強い人であろうと日々を過ごしている。


「今日は甘いもの、持ってきたぞ」

「ほんと!?」

「あぁ、飴を一つだけ……ほら」

「わぁあっありがとうっお兄ちゃん!」


 可愛らしいこの子と合う時間だけが俺の生きる糧。この子を逃してやれるその日までは、なんとか生きよう。そう心に誓った。

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