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仲裁

「うおっ!?」

「……おっちゃん」


いつの間にいたのか、俺たちの前に急に現れた大柄の男に驚いたがそれよりも。


(俺たちの拳を、生身で?)


いきなり現れたものだから急ブレーキが間に合わず、盛大にコケてしまい顔面からスライディングをかましてしまった。

るなは、というより赤鬼は拳が大柄な男の顔面数ミリ手前で、そちらも止まることができたようではある。


「なんで止めるの、おっちゃん?」


るながおっちゃんと呼んだ男。

二メートルを越すほどで、マントを羽織っているが

隙間から見えるガタイのいい肉体にさっぱりした黒の短髪にサングラスという出で立ちが明らかに一般人とはかけ離れている雰囲気を放っている。


「戦いすぎだ。これ以上やりあえばただでは済まない。お互いにね」


彼は不満げなるなに返答し、こちらに顔を向ける。


「そして、君もだ」

「俺も?」


言っている意味がわからず聞き返した。


「そんなの知らないよ。今いいところなんだからさぁ邪魔しちゃダメじゃんね?」


彼の静止はしかし、るなを止められるものではなく静まってきていた殺気がどんどんと膨れ上がっていくのを凛は感じた。


「楽しくやってんだからさぁ、ジャマなのじゃま邪魔ジャマぁっ!!」

「ゴガァァァァッ!!」


るなのボルテージが上がるほどに赤鬼も呼応し雄叫びをあげる。


「致し方あるまい。ふんっ!」


大柄な男はそんな赤鬼を見てぽつりとつぶやくと一瞬にして俺たちの視界から消えた。


「ぐっ!?」


呻く声が聞こえる方を見るといつの間に移動したのか、俺たちから数メートル離れたるなの目の前におり、右拳を彼女の鳩尾にめり込ませていた。

るなはそのままぐったりと前のめりに倒れ込みそうな所を大柄の男が優しく抱きとめる。

そして彼女が気を失うのと同時に赤鬼の姿がふっと消えていった。


(このおっさん、俺よりも早い。それに、強い)


彼の一連の行動に内心驚く。

自身よりさらに強大な存在にビビってしまい、一度は膨れ上がっていた闘争の熱が引いていった。


「キミは……必要なさそうだな」


こちらの心を呼んだかのように俺を一瞥し、ふっと微笑むと男はるなをお姫さまだっこし踵を返し出入口へ歩き出す。


「ま、待てよ!」


俺の引き止めの言葉に男は足を止め、こちらに顔だけを向ける。


「あんたたち、一体何者なんだよ。なんで双一を襲った? それに俺の左手やその子が出した化け物も。もう何もかもわからないことだらけだ。知ってるなら教えてくれ」


男は俺の言葉にすぐに答えずしばらく静かな空気が辺りに流れる。

それを打ち破ったのは遠くから聴こえてきたパトカーのサイレンだった。


「……流石に暴れすぎたね。知りたいのならついてくるといい」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。友人を置いてきてて」

「置いておけ。友人とやらは警察に保護してもらえれば安心だろう。私達はそこまで面倒見きれんさ」


それだけ言って男はさっさと走り出してしまった。


「……双一、悪い」


少しばかり逡巡はしたが、俺は双一を助けることよりも現状が知りたくて男を追うことに決めた。

一言彼に謝ると、俺は男に続くように走っていった。



ーーーーーーーーーー



「るなが起きるまで待っていろ」


男についていってたどり着いた場所はあの廃ビルからかなり離れた場所にある高層マンションの一室だった。

ちなみに街中を走ると目立つ面々なため、ビルの屋上をパルクールみたいに飛び移っての移動でだ。

アメコミのヒーローみたいでちょっと楽しかったのはここだけの話ではあるが。

着いて早速色々と聞こうとしたのだが、男は「用事がある」と言い、前述の言葉を残して俺とるなを置いて何処かへと言ってしまったのだ。


「・・・・・・」

「……う、うぅん」


手持ち無沙汰になっている俺はちらりとソファーで寝かされているるなを見る。

腹を殴られた当初はうめき声を上げていたが、今はもうすうすうと規則正しい寝息が聞こえている。


(すんごい勢いで殴られてたのに頑丈だな)


なんて考えが頭によぎるが、今は自分も大概な体のため出てきた言葉は脳内にだけ留めておくことにした。


「そういえばこれ、戻るのかな?」


それよりも今1番の問題と言えばこの姿だろう。

姿見で自分の姿を写しため息を吐く。

真っ黒な左腕、鏡を見て初めて知ったが髪の色まで鮮血のように真っ赤になっており、しかもうっすら発光までしているっぽい。

他人から見ればコスプレした厨ニ病である。

しかし、元の姿に戻れないと学校どころか家にも帰れない。


「そういえば今何時だったっけ?」


今の今まで気づかなかったが、外は真っ暗になっていた。

ふと壁掛け時計が見え、それは既に19時を過ぎていた。


「やばい! 姉貴に連絡をーーー」


血の気が一瞬で引いた俺はひとまず1度連絡を取ろうと自身の携帯を探そうとしてふと思い出した。


「……携帯、鞄の中だった」


家に連絡をしようにもこの部屋には固定電話はない。

鞄を取りに行こうにも道に置いてしまったし、この姿では取りに戻ることも出来ない。


「アカン詰んだ。絶対姉ちゃんぶち切れてるよ」


前に連絡を怠って夜遅くに帰ったらベランダに厚手の布団で逆さ簀巻きにされて一晩放置されたことがある。

あの時を思い出し、体が自分の意思とは関係なくガタガタと震えだした。

あの赤鬼と戦った時ですらここまでの恐怖を抱かなかったのに。


「マジどうすんだよ。どうればいい? 俺どうすれば助かる!?」

「うるっさいな。るなの家でぶつぶつ喋るのやめてくんない?」

「え?」


俺の今後を思えば思うほど絶望しかない現状に悲観していると、いつの間に起きたのかるなが不機嫌そうな顔で凛を睨んでいた。


「あ、えっと」

「てかいつまで『ヒャッキ』出してんの? 消しなよ。微妙にキラついててウザいし」

「いや消し方知らねぇし」

「は?」


凛の言葉に、るなは片眉を上げ苛立ちをにじませた声を出す。


「そもそも『ヒャッキ』ってなんだよ。そこから教えてもらおうと思っておっさんに付いてきたんだよ」

「ふーん……てかおっちゃんは?」

「用事があるって出てったよ」

「あっそ」


凛の言葉につまらなそうに答えるなはソファーに寝転ると自分のポケットに手を入れた。


「ちっ。そういえばアメ食べちゃって切らしちゃってたんだっけ。ねぇ、なにか食べるものない? 甘いの」

「ちゅ~るならあるけど」


俺は放課後猫たちにあげた余りのちゅ〜るをポケットから取りだし差し出すが、るなは目に見えて落胆の表情を浮かべる。


「ちっ。つっかえねぇ。あのお兄さん結局食べそこねたんだよね、誰かさんのせいで」


彼女の言動にイラッとした俺はるなの近づく。


「言っとくがな、俺は双一を襲ったお前を許したつもりはないぞ」

「ハッ。別にあんたに許されなくてもるな知らないし。てかお腹空いてイライラしてんだからつっかかんないでくれる、おじさん?」

「……ガキだからって何しても許されるわけじゃねぇぞ。いっぺんうち流でしつけたろか?」


謝るどころか挑発するような言動にふつふつと俺の怒りのボルテージが上がっていく。

年長者を敬おうとしないお子様には姉仕込みの方法でわからせが必要だろう。


「ヤりたいなら今ここでヤっちゃう? るなは全然構わないけど」


俺の怒気に反応したのか、るなは好戦的な笑みを浮かべる。


「いいぜ。ならここでーーー」

「私がいない数分も待てないのか君たちは」

「きゃんっ」

「痛って!?」


一触即発な空気を放つ俺たちに、戻ってきた男はげんなりした声でげんこつをおみまいされた。

さすが俺たちを止めるだけあり、その拳の一撃は重く芯に響くもので、痛みにその場にうずくまってしまった。

それはるなも同じようでぷるぷると頭を押さえて俯いていた。


「ただいま。腹空いてるなら飯を買ってきたから食べなさい」

「やったーおっちゃんだいすきいただきまーす」


男はため息をひとつ吐いてテーブルにコンビニに売ってあるパンやおにぎりなどを置く。

それを見たるなはさっきまで痛がっていたのに一瞬でケロッとした顔をし目の前の食べ物にかぶりつく。

その食べている笑顔は今朝出会った時のように年相応の無邪気さがあった。


「え、何この量?」


それはそれとして、テーブルに置いてある食料の量に俺は驚きを隠せなかった。

店の棚が空になるんじゃないかと思えるくらい山と積まれていたからだ。


「これは彼女、るなが食べる分だよ。この子はよく食べるんでね」

「いやいや、それにしたって食いすぎでは?」

「沢山食べて動けば大きくなるのだよ」

「限度があるわっ!!」

「おいしー♪ 空腹にしみる〜♡」


俺たちが話している間もリスのように頬いっぱいに、彼女は食べ物を次から次へと詰め込んでいく。


「ウッソだろオイ」


山と積まれていたはずの食べ物が1分もかからずに3分の1ほど彼女一人で消費されていたことに驚く。


「こんな光景、漫画やアニメだけかと思ったよ」

「ふふっ。さて、待たせてしまって悪かったね」


リスのように頬いっぱいに頬張ってご満悦なるなを他所に椅子に座った男はふっと小さく微笑み彼女の頭を撫でる。


「まずこの子の空腹をどうにかしないと話しもままならないものでね」

「……いや、こっちは話を聞いてくれるならいいんだが」


男に促されるようにして俺は近くにある椅子に座るとふぅと一息入れた。


「聞かせてくれるんだよな、俺の知りたいこと」

「すべてを、とはいかん。基本的なことだけだ。こちらもわからないこともあるし知られたくないことがあるからね」

「あと質問もな~し」

「あ、お前には聞かないからいいよ」

「むっかつくわねあんた。お願いする立場が偉そうにしないでよね」

「るな、止めなさい」


男に窘められたるなはがるるると唸っている横で俺をまっすぐ見据える。


「まずは自己紹介といこうか。私はオーヴァン・ヴェルナンドだ。ヴァンと呼んでくれ」

「俺は白鐘凛。日本の学生だ」


大柄な男、改めヴァンが手を差し出したので凛も同じように手を差し出し握手をする。


「そして隣で食べているのがるなだ」

「そっちは自分のこと名前で言ってるから今更どうでもいいや」


俺の心底どうでもいいという表情にヴァンは苦笑し、るなは一度睨み鼻を鳴らしたがすぐに食事を再開した。


「さて、聞きたいことを答えようか。まずは何から聞きたい?」

「そうだな。取り急いではーーー」


ヴァンからの言葉に考えることもせず、すぐに口に開いた。


「これ、元に戻して」


俺は自身の腕と髪を指差し、珍妙なコスプレもどきな見た目を戻す方法を聞いたのだった。


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