会話
「戻す方法は簡単だ。ただイメージすればいい。「元の自分」をね」
「え、そんな簡単なの?」
「いいからやってみたまえ」
ヴァンに言われるままに目を閉じイメージする。
自分がどんな姿をしていたを。
するとフシュッとなにかが抜けていく感覚があり、目を開けて姿見を見ると、さっきまでのコスプレ姿はなく元の自分の姿が写っていた。
「おぉ、戻ってる。よかったぁ」
ひとまず戻れて安堵する俺にヴァンはくっくっと小さく笑い声をあげた。
「ふふっ。いや笑ってすまない。久方ぶりの話せる『ヒャッキ使い』だし、こうやって面と向かって話す機会がないものでね」
「元に戻れたくらいで大はしゃぎして。ガキじゃん、ダッサぁ♪」
「るな、言い過ぎだよ。それにキミだってーーー」
俺を小馬鹿にしたるなを窘めようとしたヴァンの言葉に殺気の籠った表情を彼に向けた。
「おっと口は災いの元だね。分かっているよ。おふざけが過ぎた」
「……ふんっ」
肩を竦め苦笑するヴァンにそっぽを向き、るなは骨付きチキンを骨ごと噛み千切る。
(チキンって普通は骨は残すもんなんだがな)
そんな事を脳内でツッコんでいると心を読まれたのか、るなが今度はこちらを射殺さんばかりの目つきで睨んできたためさっと目を逸らした。
視線を合わせたら襲ってくる猛獣みたいだなと怖さ半分呆れ半分といった感じだ。
「じゃ気を取り直して次。あの赤鬼や俺の左腕って何なの? ヴァンたちが言ってる『ヒャッキ』ってのと関係してる?」
「そうだな。そこら辺を順に話していこうか」
ヴァンは一度座り直し手を組み話し続ける。
「漢数字の百に鬼と書いて『百鬼』。一般人的にはいわゆる化け物の総称だね」
彼が話す言葉を俺は黙って聞く。
化け物、なんて単語、前までの俺だったら笑うか哀れんで病院を紹介するところだろう。
もしくはちょっとアレな人認定で速やかに回れ右して関わらないようにするか。
だが目の前で現実として起こった数々を思い出し、信じざるを得ない。
「ヤツらは何処から来たのか、どういう存在なのか。詳しいことは実はよく分かっていないがどうやら「生物に取り憑く」のは共通しているみたいだ」
「んで、アッキーたちは普通の奴らには見えなくて、るなたちみたいに「てきせい?」てのがあるやつらにだけ見えるの」
ヴァンの話に続くようにしてるなが口を開いた。
あれだけ悪態を付いていてもこうやってこちらに対して説明をしてくれているのは純粋にありがたい。
「てかアッキーってあの赤鬼のこと、でいいんだよな?」
「そ。るなの『ヒャッキ』なのに顔は可愛くないから名前だけでも可愛くしたかったし」
戦っているうちは気にならなかったが、あれにあだ名つけるやついるんだ俺は心中思うが口には出さない。
なぜならそう語るるなのご機嫌が最初の頃と比べると良くなっているからだ。
わざわざ波風立てる必要もないだろうという考えでだ。
「話を戻そうか。『百鬼』に憑かれたものは同じく『百鬼』の気配や存在を認識できる。まあどちらも感覚的なものでアテには出来んがな」
「俺も見えたからその『百鬼』に憑かれたのか?」
「それは分からん。そもそも憑かれていたから視えるのか、視えるから憑かれるのか。どちらが先かはハッキリはしないな」
「そこ気にするところ? なったもんはしょーがなくない?」
「そうなんだろうがさ……て、え!?」
パックのいちごミルクを飲みながら嘆息するるなに言葉を返そうと思った俺は口をあんぐりさせてそれ以降の言葉が出なかった。
「なによ、急に黙っちゃって」
「いやいやいや。さっきまであった飯は?」
「食べちゃったに決まってるじゃない」
テーブルの上いっぱいににあった食料がいつの間にかなくなっていたからだ。
「気は済んだか?」
「まだ入るけどまぁこんなとこかな〜?」
ヴァンがるなに尋ねると彼女はお腹をポンポンと叩きつつ余裕そうな表情でそう答えた。
「ウッソだろ……」
あれだけの量をものの十数分でほぼ跡形もなく消え去ったテーブルとるなを交互に見て凛は呆然とした。
「凛、お前もそろそろ来るだろう」
「来るって、何がーーー」
ぐーーーーー
「あ……」
「ふふっ。まぁ食べなさい。『百鬼』の使用は飢餓感が激しくなり腹がとにかく空くんだ」
腹を抑え顔を赤くする俺にヴァンはふっと笑い、俺用にも買っていたらしいおにぎりやサンドイッチなどの食べ物の入ったレジ袋を渡してくれた。
「す、すみません。いただきます」
俺はお礼を言いながら手早くおにぎりの封を開けかぶりつく。
(やばい。一口食ったらもう歯止めが効かねぇ)
そこからは一心不乱に食事を摂る。
そして気がつけばものの数分で袋いっぱいにあった食べ物を平らげてしまっていた。
「マジか……」
普段から確かに食べる方ではあるが、ここまでの食欲はなかった。
なのに今は袋いっぱい食べてもまだ腹に入る余裕がある、むしろまだ少し足りないくらいだと思えるほど食欲が増している。
「ふんっ。がっついて食べるなんてまるでブタみたいよね」
「キミも同じようなものではないか」
「る、るなはもっと上品に食べてるもんっ」
俺に悪態をつくるなをヴァンが微笑み嗜めると彼女はバツが悪そうにそっぽを向いた。
「さて、『百鬼』を扱うことで注意事がある。一つ目が長時間使わないことだ」
「使うとどうなるんだ?」
「侵食が進むんで戻れなくなる」
ヴァンが答える代わりにるながポケットからスマホを取りだし、ぽちぽち触りながら答える。
「侵食?」
「質問はうけつけませ〜ん」
「脅かすようで悪いが君にとっていいことは無い、とだけ伝えておこう」
ふたりの表情や「侵食」という厄介なワードからして言うことを聞いておいた方がいいと判断し俺は頷いた。
「分かったよ。その代わり一つだけ教えてくれ。なんで見ず知らずの俺に親切にしてくれる?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
俺の言葉に二人は押し黙りちらりと顔を見合わせる。
「……あるものを、追っているんだ」
少ししてヴァンが口を開いた。
「キミにはその協力をしてほしいんだ」
「だから教えた、と?」
ヴァンは俺の返答にうなずき話を続ける。
「『百鬼』になりたてなのにるなと対等に渡り合う力。そしてなにより友のために行動する犠牲心に心動かされてね」
ヴァンが語る横でるなは「るなは全然本気じゃなかったし。本気出したらるなのあっしょーだし」とぶちぶち言っているが、今は聞こえていないフリをしておこう。
「その探してるのがこの街にいるのか?」
俺の問いにヴァンは黙ってまた頷いた。
「まぁ、色々教えてもらったわけだし、オーケーと言いたいが……悪いが協力するかどうかは即答できない。あんたたちが俺を信じきれてないように俺もまだあんたたちを信じきれてないからな」
そう言いながらちらりとるなを見やる。
協力をする上で一番大事なのは「信頼」であるが、るなが双一を襲った時点で果たしてこの二人を信じていいのかまだ不安がある。
俺のその胸中を組んでくれたのかヴァンはふっと苦笑した。
「まぁすぐに回答を急がなくていい。ひとまず我々は現状敵対したくないということを知ってもらえれば」
そう言ってヴァンはスマホを取り出した。
「とりあえずは連絡先を教えてもらえることはできるかね? 情報を共有できると嬉しいのだがね」
「あー、その事なんだけど、スマホを今無くしーーー」
ヴァンのスマホを見て今まで忘れていた記憶が蘇った。
(やっば。俺、まだ姉貴に連絡してない!?)
「凛?」
真っ青な顔で固まっている凛に訝しむヴァン。
唯一るなだけはケラケラと笑っていた。
ーーーその後、ヴァンに携帯を借りて連絡を取るも、地獄のお仕置きが待っているのは言うまでもなかった。




