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2日目の朝

「うぅ、ケツ痛てぇ」


今日も早くに出た凛は自分の尻を擦りながら、学校への道をヨロヨロとした足取りで歩く。


「この歳になってお仕置きに尻叩きってありえねぇだろ」


昨日のことを思い出すと今でも顔から火が吹き出しそうだ。

あの後すぐ帰ったはいいが連絡もせず、真夜中の帰宅に姉は激怒し説教&ズボンをひん剥かれてのケツ叩きだからな。

他人に見られていないことが唯一の救いだろうか。

ふたつの意味で泣けた。

ちなみにカバンは朝起きたら俺の机になぜか置いてあった。

中身も全部無事でありがたかったがのだが、ただただ不気味でもある。


「しかし、いつも通りの朝を迎えると昨日死にかけながら戦ったとは思えないよな」


そう呟きながら俺は自分の左手を見て握ったり開いたりしてみる。

昨日の夜から同じことを何度も繰り返すがいつもと何も変わらない俺自身の腕だ。

まるで昨日のことは全て夢なんじゃないかと錯覚するほどに。


「でも、夢じゃないんだよな……」


俺はスマホを取り出し連絡先にあるヴァンの名前を確認し、昨夜のことが夢や幻の類でないことを物語っている。

ちなみにいつ登録されているのか、とかは考えないようにしている。


「夢や幻と言えば」


そう呟きながらカバンを開けてみる。

昨日までカバンに潜り込んでいたあのぬいぐるみモドキがあれ以来姿を見せなくなっていた。


「んー、まぁいないならいないで困るわけじゃないけど……ん?」


また目の前にノイズが走る。

だがいつもに比べるとモノクロではなく鮮明な色とともにこの後起こる光景が見えた。


「おっはよー、白鐘ー!!」


映像が見えたすぐ、後ろから飛び蹴りを繰り出しながら挨拶する猫宮の足を振り向かず、半身で避けて彼女の足を捕まえ止める。


「フニャッ!?」


昨日まではおとなしく喰らわせていた攻撃が見事に避けられ、さらに捕まえられるという行為に驚いた声を上げる猫宮を他所に、俺自身も少なからず驚いていた。


(これもやっぱり『百鬼』の影響か?)

「ちょっ、離してよぉ」


今までは視えていてもほんの一瞬で間に合わない時もある。

だからいつもあえて喰らっていたのだが、今回は脳で認識した瞬間に身体がイメージしたように素早く動けた。


「ちょっと、凛。パンツ見えちゃうから」


猫宮の動きも妙にゆっくり見えたため身体能力はもちろん、感覚も鋭くなっているのかもしれない。


「離してってば、この変態っ」

「あいてっ!?」


あれこれ考えていると掴まれていた足を起点に、掴まれていない方の足で蹴りを後頭部に受け、俺はようやく意識を現実に戻した。


「流石に延髄周りはまずいと思うんだが」


本来ならば悶絶ものだし、打ちどころが悪ければ最悪病院直行コースです。

思ったよりもダメージもないがそれでも痛いことには変わりない。

首の後ろを擦りながら俺はようやく猫宮の足を手放した。

その時にバッチリ水色の何かが見えた。


(ふむ。動体視力も上がってるってことだな)


ふむふむと納得している俺に対して、彼女は顔を真っ赤にしてスカートを押さえ涙目でこちらを睨んでいた。


「・・・・・・見たでしょ?」

「ミテマセン」


彼女の名誉のため俺は真顔で嘘をつく。

俺は紳士的だからな。


「本当に? ホントに見てない?」

「ハッハッハッ。勿論さ」

「今日のはよりにもよって真っ白のパンツだよ? 全然可愛くないのに」

「え、水色だったよな?」

「……」

「……」


紳士、ウソツカナイ。

季節とはまた違う冷たい空気が二人を包み沈黙が長く続く。


「では今日も一日、お互い良い日にしようではありませんかではごきげんよーーー」

「やっぱり見たんじゃん!!」


爽やかな笑顔のゴリ押しで回避しようと歩き出したが、それは猫宮が俺に飛びつきこめかみをグリグリしてきた。

これは地味に痛い。


「痛い痛い。悪かったって」


猫宮の怒りもごもっともではあるから、しばらくは自分への罰として甘んじて受けておこうと思う。


「猫宮さん、出来ればお離ししていただけると大変ありがたく存じ上げますことよ?」


されるがままになって数分経っただろうか。

俺の言葉に、後ろからぐすっと鼻を啜る音が聞こえる。

ぎょっとして後ろを向くと猫宮が涙目になっていた。


「見られた……」

「ちょちょちょっ!?」


いつもと違う予想外なアクションに俺は慌てふためいた。


「泣かんといて!? 泣かんといて!?」


焦って何故か関西弁風になってしまった俺に、しかし猫宮は俯き顔を伏せて嗚咽を繰り返す。

朝早い時間なので人通りは少ないが、誰か一人にでも見つかれば今後の学生ハードモードなので必死にもなる。

俺は彼女をあやすようにおぶり直し上下に揺する。


「謝るし、できる範囲でならお詫びもするし」


泣き止んでもらうために提案はしてみる。

あくまでもできる範囲で、ではあるが。


「……クレープ」

「お、おぅ?」


俺の言葉に猫宮の嗚咽がピタリと止まり、そして猫宮はぽつりと声を上げる。


「今日、部活終わったらクレープでチャラ。商店街の」

「商店街のクレープって、たっちゃんの?」

「うん」

「あー、お財布の中身が少し寒くなってきたしそれ以外だとーーー」

「えぐっ」

「よろこんで、奢らせていただきます。マムっ!!」


猫宮の提案にイエスを言わず濁そうとすると、彼女から嗚咽がまた漏れる。

そんな

女性の涙に弱い、それが男というもの。

それがたとえ理不尽であっても、だ。



ーーーーーーーーーー



「えーまずだが、瑚々無は事故でしばらく入院するそうだ」


朝の日課(動物と望月先生の世話)を終えてHRにて教師が開口一番そう告げるとクラスがざわついた。


「なんでも廃ビルでの爆破テロに巻き込まれたんだそうだ。命には別状はないらしい」


淡々と話す教師の言葉に未だ収まらないクラスメイトたちを他所に、俺は独りふむと思考する。


(爆破テロねぇ。あれだけ暴れまわってぶっ壊したのに。『百鬼』が見えないやつにとってはまぁそう映るのかな?)


『百鬼』は普通の人には見えないと言っていた。

なのであれだけの破砕音をさせたわけだし、傍目から見ればそう捉えられても仕方ない、のか?

まさかその爆破テロの渦中の人物がここにいるとは思うまいと俺は他人事のように考える。


「最近物騒だよな」

「物騒って言えば最近人がいなくなるって噂あるよね」

「それ瑚々無もネットでも言ってたな」


周りのひそひそ声が結構はっきりと聞こえる。

朝からのアレもそうだが、五感も鋭敏になっているよからだろう。


(やっぱり『百鬼』になった影響、だよな?)


あれから出してはいないのだが、ほぼ間違いなく『百鬼』が憑いてからだ。


(それに……)


昨日ヴァンたちの話からして、同じ『百鬼』になった者同士は感覚的に察知できると言うが、学校に着いてから普段感じるのとは別の気配というかそういうのをちらほらと感じる。


「学校にこんなにいんのかよ、って……あれ?」


その気配の中に見知ったものを感じ取り、俺は首を傾げ辺りを見回したが特に何も見えなかった。


「気の所為、か?」



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