慈愛
「うわー、えー……ホントに振り込まれてる」
ヴァンたちの組織【百鬼夜行】から今回の報酬が振り込まれる、との事だったが正直半信半疑だった。
だが、数日後に誰もいないことを確認した上で学校の屋上で通帳を見てみたら言われた通りの金額がしっかり記帳されていた。
「これから『百鬼』関連での報酬はここに振り込まれることになる。もちろん中身は君の自由にしてくれてかまわないからね」
そう言ってニッコリ笑って渡してくれたのは俺が普段使っている通帳に、ではなくヴァンたちが手配してくれたらしいそっち用の新しい通帳とカードだった。
俺自身が新しく発行していない為ヴァンたちが開設、契約したんだろうがこちらの同意なしにどうやってやったんだろうというツッコミは諦めた。
国が介在してるというんだったらこれくらいは朝飯前なのだろう。
(金額が金額だからな。ちゃんとした所に隠しとかないとな)
通帳を閉じひとまずカバンの奥底にしまう。
今まで生きてきてこんな桁違いの金額がぽんと現れたため家に隠すのも怖いため肌身離さず持っておいた方がいいかと思いついつい学校にまで持ってきてしまったがいずれ安全な隠し場所は探しておいた方がいいだろう。
「何もかもがいきなり起こりすぎてまだ実感わかねぇな」
ひとりぽつりと呟き下を見る。
校庭では部活に励んでいるものや集団で帰っているものなどいつもと変わらない風景。
ここが数日前まで戦場と化していたとは誰も思わないだろう。
「よく世界の裏側とか陰謀論が囁かれてるけど、こんな風に関わるなんて思いもしなかったな」
『百鬼』に関わる前なら俺も眼下に映る生徒たちと他愛もない会話をしながら平凡で退屈ながらも平和な日常を送れていただろう。
それが今は人が簡単に殺され喰われるえげつない世界に転がり込んでしまっていた。
今後もコレがある限り厄介事に巻き込まれるのだろう。
「……真闇」
あいつは表面上は行方不明扱いになっている。
この修復された学校と同じように綺麗さっぱり痕跡を消された形になった。
人に言えない裏の出来事ゆえの処置なのだろうがモヤモヤしたものは拭うことはできない。
(俺も、いつかはああなってしまうことがあるんだろうか?)
俺は運良く導いてくれるやつ、手助けしてくれるやつがいたから助かっているけど、それでも暴走してやばかった時があった。
だが真闇は誰に助けを求めることもできず、その心のスキマをあのぬらりひょんに付け込まれ取り込まれてしまった。
そして挙げ句暴走しても助けられず結果喰われてヌエになってしまった。
たったこれだけの差だけどそのちょっとした差で生き死にに直結するとゾッとする。
「白銀凛」
「うおっ!?」
いつからそこにいたのか、俺の真後ろに立っていた天が小首を傾げていた。
「な、なんど天先輩か。びっくりした」
「いい反応。白銀凛はそうでなければ」
「どういうことなんですか」
俺の驚いた反応が彼女的には楽しかったのか満足そうに微笑する。
この悪戯っ娘もタマ曰く気を許している人だけにすることらしいのだが心臓に悪いのであまりやらないで欲しい。
「てか先輩は屋上に何の用なんスか?」
「むん。白銀凛がなんとなく屋上で黄昏てるような気がした」
「いやに具体的すぎますね」
「というのは冗談。君が怖い顔しながら階段登ってたから気になった」
「…………」
この人は普段はぼーっとしてるのにこういう人の機微に敏感なところがある。
でも俺自身はそこまで表情とか態度に出さないようにしていたのだが。
「うん。バレバレだった」
「人の思考を読むのはやめてください」
今考えていることを読まれ、それに対しての返答をされてしまった。
俺は天の洞察力に感嘆と畏怖を感じて軽くツッコミを入れる。
その反応も織り込み済みなのかまた満足そうにうなずいた。
「それで、どうした?」
「……1年の真闇についてなんだが」
「……………………ふむ」
「あんた顔覚えてないだろ」
真剣な話をしようとしたが天は表情を変えず曖昧な返事をした。
(まぁ面識ほぼないしな)
興味関心があれば1発で覚えるが、それ以外はどれだけ見聞きしても記憶からすっぽり抜け落ちる。
それが天であるため話は続ける。
「俺も数度しか会ったことしかない後輩なんだけどな。そいつが……行方不明になったって朝礼であってさ」
「友達だったのか?」
「よく分からない。俺は友達と思ってたけど、向こうは結局のところどうかは分からずじまいだから」
出会いはいじめの現場を救ったってところからだが一緒に遊んだとか何が好きだとか。
そういった話は一切してなかったから自分で言っておいて友達という間柄とも言えないな。
「なんとも曖昧なものだな。私的には独りよがりだと思えるな」
「俺もそう思う」
「ならば気にするだけ脳の無駄遣いというものだ。それならばもっと有意義な時間の使い方をすべきだ」
天の言い分は分かる。
その方が合理的だしそういうものだと切り捨てるのは楽だ。
だけど、俺はそう簡単に割り切れない。
特に『百鬼』という人とは違うもので繋がってしまったため他人と切り捨てるのも胸に淀みができてしまう感じがしてなんとも後味が悪い。
人によっては偽善者だと言われるだろうが少なくとも俺はすぐに放り投げ無視することができなかった。
「でも白銀凛。君は違うのだろう?」
「え?」
俺の隣に来た天は風に吹かれた髪を押えながら微笑む。
「君は私と違って優しい人だ。非合理的で感情的で無駄で無謀でーーー」
「あの、それ褒めてます? 貶してます?」
「だけど、そこが愛おしいな」
「わぷっ」
天はぐいと俺を引き寄せ胸に顔を押し付けた。
温かく柔らかい感触が顔全体を包みこまれると、とくんっとくんっと静かな心音が耳を通じて体全体に染み渡るようだった。
「そ、天先輩!? なにをーーー」
「よしよし」
色々な意味で顔が熱くなり逃げようともがくが、どんな力が働いているのか細腕である彼女を振りほどけなかった。
そんな俺の抵抗は無視して子供をあやすかのように頭を撫でられる。
「君は偉い子だ。偉い子にはこうやって褒めるものだと母が言ってた」
「いや、それ子供にやるもので俺は違っーーー」
「よーしよしよし。よーしよしよし」
「……はぁ」
話が通じない上に抵抗も無駄だと判断し俺はひとまずされるままでいることにした。
(なーんか最近この手のオチが多い気がするが気の所為か?)
なんとなくだがそんな思いが過ぎったが人の肌の温かさと心地良さに、黒く靄がかかっていた心が晴れていくようですぐにその考えは霧散した。




