↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/42

質問

 こちらとの距離があり、けっして声を張っているわけでもない少年の声ははっきり、そして心地よい声音が耳にするりと入り込む。

 10歳にも満たない肩まである艶のある黒髪の彼は微笑を崩さず口をまた開いた。


「来ていただいて感謝します。どうぞ近くまで来てください。利空、穹。2人は下がっていなさい」

「「かしこまりました」」


 世話役の2人は声をハモらせ俺たちが部屋に入るのを確認したあと一礼しゆっくり戸を閉ざした。

 閉められたあと数秒経ってからヴァンとるなは少年の前で正座で座り頭を下げた。

 作法など何も知らないため俺もふたりの後に続いて同じように頭を下げる。


「ひと月ぶりに御座います、若様」

「はははっ。なんだかまだ慣れないものだね。ヴァン、るな。今は僕たちだけだから頭を上げて楽にしてください」


 若様と呼ばれた少年は先程までの大人然とした態度を崩し年相応に笑った。

 それを皮切りにヴァンは正座を崩さず、るなはあぐらをかいてそっぽを向いた。

 そんなるなの態度に若様は悲しそうに苦笑するだけだった。


「さて、凛。君は初めましてだね」


 2人に話しかけた若様は俺の方に向くと優しく柔らかい笑みになる。


「自己紹介がまだですね。僕は【百鬼夜行】の現当主で獅子王幻夜です」

「あ、どうもご丁寧に」


 深々と頭を下げる若様、獅子王幻夜に俺も同じく頭を下げる。


「申し訳ないんだが、もっと僕の近くに来てくれないか?」


 言われるまま近づくと頬に彼の両手が添えられじっと目を見てきた。

 必然的に幻夜の目を合わせることになるが、彼の瞳は黒目部分も全て白に近い色をしていた。


(ていうか、この目って……)

「不躾に触って申し訳ない。もうわかると思うけど僕は生まれつき目が見えないんだ」


 俺の考えていることが読まれたのか幻夜は事も無に俺の思考に対しての回答した。

 その間もじっと見えない瞳で俺を、いや俺の中にある「なにか」を見通しているように感じた。


「ありがとう。ヴァンはそうだけどるなも彼に心を許しているのが何となくわかったよ」


 俺から両手を離すとこちらに微笑んだ。


「凛、今までこちらの要求を聞いてくれてありがとう。そのお礼と言ってはなんだけど君の疑問に答えるよ。何が聞きたいかな?」

「……そうだな」


 疑問ならいくつもある。

 だが、どれから聞くべきか少しだけ悩み、質問の優先順位を考えてから口を開いた。


「それじゃ先ずはこの組織ってなんなのか教えて欲しいんだけど、いいですか?」

「構わないよ。あと、敬語はいらないよ。歳は僕の方が下だしね」

「んー……了解した。そんじゃ今の質問に答えてくれ」

「あぁ分かったよ」


 俺たちのやり取りにヴァンがなんとも言えない表情をしている。

 自分の当主に対していくらOKが出ていてもタメ口で接すればそれはそうなるだろう。


「まず、この組織である【百鬼夜行】はヴァンから話は聞いて察していると思うが国家が関わっている。それにある程度自由な権力を有している」

「それは警察なども、ってことか?」

「そう。君の姉がいる、ね」


 俺の言葉をすぐに理解しあえて姉のことをすぐに話題に出した。

 権力を使えるということはつまりはそういうことなのだ、と。


「仕事内容は国家に仇なす『百鬼』ないし『百鬼使い』の討伐。こちらの意を汲んでくれる『百鬼』や『百鬼使い』などは保護をしたりもしますがね」

「それは戦力に数えるってこと?」

「否定はしない。彼らも全てが暴れたり戦いたいという訳じゃないけど世間一般的には脅威でしかないからね」

「ふーん……」


 要は保護を盾にそちらの仕事を手伝え。

 出来なければ粛清対象として討伐されるということだ。

 非常に傲慢な考え方であまり好きにはなれない。


「それで、俺も討伐対象に入っているのか?」


 あえて喧嘩を売るように口調を厳しくトゲのあるように言う。

 俺はここに所属していないわけで、もしそのためにここへ連れ込まれたのであれば非常に危うい。

 もし仮に逃げることに成功したとしても、姉のことも既に手中にあると脅されてもいるのでかなり分が悪い。


「勘違いさせてしまったのなら謝罪します。別に今回あなたを呼んだのは直接礼がしたかったからです」

「ん?」


 殺伐とした空気が幻夜の発言と頭を下げられたことで一気に霧散した。


「ヴァンからは逐一報告を受けています。あなたは巻き込まれたにもかかわらずこちらに協力してくだり無事に戦い抜いてくださいました。それなのに礼はあれど処罰など考えませんよ」

「えっと、あ、そうっすか」


 こちらの早合点で喧嘩をふっかけてしまったことに少し気恥ずかしさを覚えそれ以上は何も言えず口をつぐんだ。


「ですので礼と謝罪を込めてこちらをお渡ししようと思っていたんです」

 そう言って幻夜は懐から1枚の紙を取り出し俺に手渡した。


「えっと……え?」


 それを受け取った俺は目を疑った。

 それは俗に言う小切手とやらでそこに書かれていた金額があまりにも常識外れだったからだった。

 なにせゼロが6つも並んでいたからだ。


「今回の討伐に関しての礼金です。お納めください」

「は? え? は、はい?」


 今まで見たことがない数字に手は震え声が上手く出なかった。

 こんな金額を一個人に対してポンと出せるとか普通ではありえない。

 それはるなの食事代やヴァンたちが住んでいるマンションなど金に関することを気にしていないのも納得出来る。

 国の機関という話がこれによってようやく俺の中で現実味を帯びてきた。


「金銭の受け渡しに関してはあとでヴァンに聞いてください」

「あ、は、はい」


 とりあえずそう返事して小切手をどうしようか迷って結局ヴァンに渡すことにした。

 ヴァンはくっくっと声を殺して笑い、るなからは「きもっ」と一言冷たく呟かれた。


「それで、他に質問はあるかい?」

「え、えっと。ゴホンっ。それじゃ次の質問なんだが……『百鬼使い』になったやつを救う方法ってないのか?」


 頭に浮かんだのは真闇の事だった。

 あいつは経緯はどうであれ本来はこんな血なまぐさい戦いとは無関係だったはずだ。

 そして俺の問いに若様は首を横に振る。


「残念ですが、それは……ここの組織が創設されてからずっと模索してはいますが未だにその糸口すら掴めないのが現状なんです」

「そう、か……んじゃ次の質問。あのぬらりひょんってやつはなんなんだ?」


 先日現れた真闇を唆し利用した小さい老人の見た目とは裏腹に強烈な圧力を放っていた『百鬼』。

 ヌエとなった大蜘蛛でも単独では倒せなかったのにさらにあいつのようなさらに強い化け物が相手となるとゾッとする。


「そう、ですね。まずぬらりひょんなのですが、私たちの仇敵のひとり、ですね」

「ひとり? 他にもいるってことなのか?」


 俺の言葉に幻夜はこくりと頷く。


「今現在確認されているだけでも幾人かの『百鬼』しかもヌエとなった者がいる。ぬらりひょんはその中でもかなり厄介なんです」

「厄介?」

「はい。奴は記録で確認できる中でも最古に位置しており強さも別格です。最近は姿を表さず目立ったこともせず姿をくらませていたのですが」


 そこで言葉を一旦閉じヴァンたちの方をちらりと見る。


「先日姿を確認し討伐を依頼していたんです。彼らもそのうちの2人でして」

「そーなのか?」

「おや、話していなかったかね?」

「いよお前ら全然自分のこと話そうとしないじゃん」


 わざとらしい表情でとぼけるヴァン。

 いつもと同じやり取りなのでもうツッコむことを諦めた俺は次にるなを見る。


「……なに?」

「いや、別に」


 朝からもそうだが、るなの調子がどうにも変だ。

 いつもなら自分より優位な立場になるとイキがってこっちに無駄に絡むクセに今もずっと不機嫌そうにして黙っている。


(ここに、というよりはもしかしてこの若様に会いたくない、とか?)


 そんなことを考えている俺を他所にるなは立ち上がり部屋の出入口の方に歩いていく。


「るな。若様の前で無礼だぞ」

「……かんけーないし。るなはるなの考えで行動していいって前から言われてるし」


 ヴァンの注意にもるなは従わず襖を開けピシャリと音を立てて出ていってしまった。


「……やはり、僕はるなにはまだ恨まれているんだね」

「若様、申し訳ありません。後でーーー」

「いやそれには及ばないよ。これは僕のせいで彼女に責はないんだ。だからどうかあの子を怒らないであげて欲しい」

「……承知しました」


 話から察するにどうやらるなと幻夜には浅からぬ関係がありそうだ。

 だが俺がおいそれと2人の関係を聞くのも野暮というものだろう。

 なのでこの場では黙っておくのが正解だろうと思いあえて何も問いただすことはしなかった。


「醜態を晒してしまって申し訳ないね」

「それはまぁ、いいですけど」


 青ざめた顔をして悲しそうな声音で謝罪する幻夜に俺はなんでもないと返した。


「こちらから呼んでおいて大変恐縮だけれども、今日はこの辺で終わりにしてもらってもいいだろうか?」

「私は構いません。凛、どうだろうか?」


 幻夜の話にヴァンはすぐに了承し俺にも問いかけてくる。


(というか、この場合ここでNOと言える空気でもないしな)


 言外に空気を読んでくれという口調に従い俺も頷くしかない。

 すると俺の言葉を待っていたように襖が開かれたかと思うと、利空と穹の2人が既に外で待機していた。


「お見送りをさせていただきます」

「どうぞ、ついてくださいませ」


 こちらの返事を待たず2人はすたすたと玄関へと歩きだす。

 有無を言わせないそれに内心イラつくところはあるが今回は素直に引き下がろうと俺もヴァンも立ち上がり部屋の外へと向かう。


「それでは若様。私もこれで失礼いたします」

「あぁ。この埋め合わせは後ほど連絡させますので」


 一礼しヴァンはそれ以上何も言わず出ていく。

 俺は出ていく前にちらりと幻夜を見る。

 その姿はこの組織の当主ではなく、まるで親に叱られしょげているただの子供のように見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。