招待
「【百鬼夜行】?」
「あぁ。『百鬼使い』を束ねる集団さ。『百鬼』を連れ立って歩き渡る様がまさしく日本の百鬼夜行だということでこの名前が付いている。そしてこの本部には今行ったルートを通らないとここに辿り着けないようになっていてね」
「別空間にワープしたとかそういうことか? これも『『百鬼』の能力かなにかなのか?」
「転移の『百鬼』と『百鬼使い』には私も会ったことは無いがそういうものだとは聞いたことはある。そしてそれと同時に幻惑の『百鬼』がいてね。このルートで来た ことが無いものはここまですら辿り着けないようになっている」
「だから何度が来たことヴァンとるなと一緒じゃないと俺はこの本部に来れずにここら辺をぐるぐる回るだけ、と」
「そういうことだ。回りくどくて申し訳ないね」
「それはまぁ別にいいんだけど・・・・・・ん?」
「どうかしたかね?」
ふと俺はあることが疑問になりヴァンに聞いてみた。
「ここ、というかこの廃墟街って誰の管轄でもない空白地帯なんだよな?」
「そうだね。正確には所有権が個人では誰も持っていない、ということだね」
「なのにここに勝手に家があるって不味くないか?」
「ふむ」
ここは名目上誰も所有権が持っていない完全な空白地帯となっている。
確か、今は一時的にだが国が管理しているとかだった気がする。
「君の言い分はもっともだね。確かに本来ならばここは個人としては誰の物でもない特殊な地帯ではある。……表立ってはね」
ヴァンの含みのある言葉に俺はなんとなく察した。
つまりはこの組織自体が表には出されていない特殊で国にも影響があるということなのだろう。
警察官が誰も見張りや見分に立っていないわけだ。
「で、ヴァンたちはそのすごい組織に所属してるという認識でいいのか?」
「所属、とは厳密には違うのだがその認識でまぁ間違ってはいないよ。私やるな君、そして他の『百鬼使い』たちもここでサポートを受け、その見返りとして国やその周辺の団体からの『百鬼』絡みのはトラブルを処理しているのさ」
「あの大量の食料を買える資金源はここってわけね」
ヴァンの稼ぎだけでるなのエンゲル係数をまかなっているのだろうと疑問に思っていたのだがつまりはそういう事だった。
「言っとくけど、るなのごはん代はるながちゃんと自分で出してるからね」
「え?」
「さっきおっちゃんが言ってたじゃん。ここに所属したらサポート受けれるって。貯金だってちゃんとしてるし」
俺の視線から思考が読まれたのかるなはこちらの目線から完全に背を向けながら呟いた。
驚き目を丸くしながらヴァンの方に顔を向けて視線で真偽を確認すると彼は微笑しゆっくり首を縦に振った。
「るな君の言っていることは真実さ。ちなみに大きな声では言えないが彼女は君が思っているよりも資産を持っているよ」
「……マジ?」
ヴァンが手招きし近づくと耳に手を当て小声で話しかけられた。
彼の言葉に一瞬脳が拒否反応を示しシャットアウトした。
だが真実の言葉による一撃は閉じた拒否の壁をいとも容易く吹き飛ばし否が応でも現実を突きつけてきたのである。
俺はもう一度るなを見ると勝ち誇った顔で挑発的な笑みを浮かべていた。
「は今この場所でいちばんヒエラルキーが低いのってお兄ちゃんだからね」
「うぐっ」
学生の身分だから仕方ないとはいえ、小学生に負けたという事実に言いしれない敗北感が重くのしかかり俺はそのまま膝から崩れ落ち打ちひしがれてしまった。
「まぁこれはいわば非合法の金ではあるからね。あまり言いふらさないでくれたまえ。……おっと」
ヴァンの言葉が不意に途切れると立派な門が大きい音とともに左右に開くとそこには着物を着た男女が恭しくお辞儀をしていた。
「お待ち申し上げておりました。ヴァン様、るな様、そして凛様」
顔を上げたその顔はどちらも日本人形のように美しく整っている。
だが髪色がどちらも雪のように真っ白で歳は若くも見えるし年老いても見える不思議な感じだ。
「自分は利空」
「私は穹と申します」
「「我ら2人、若様のお世話係をしております。以後、お見知り置きをお願いいたします」」
2人は恭しく頭を垂れる。
その仕草一つ一つが綺麗だが何故か機械的というか人間味がない感じがした。
「それでは若様は奥におりますのでご案内いたします。どうぞこちらへ」
「凛。彼らについていくぞ」
2人の容姿や言動についてあれこれ考えていると、ヴァンにぽんと軽く背中を押されハッと我に返る。
先に歩いていくヴァンとるなの後を追うように俺も歩を進め門の内側に入る。
「うわぁっ」
外からの眺めも立派だったが中も外に負けず劣らずの豪奢な日本家屋だった。
庭園には池があり大きな錦鯉が何匹も悠然と泳いでおり、庭木は整然と植えられ無駄な枝葉がないように切り取られており、全てがひとつの芸術作品と言われてもおかしくないほど。
芸術や美術に疎い俺でさえ息を飲むような美しさにただただ圧倒されるばかりだ。
そんなテレビや漫画などでしか見たことがない程の広さと美しさに失礼だと分かっていてもあちこち視線を張ってしまう。
「やめてよね。田舎者じゃないんだからさ」
「仕方ねーだろ。こんな明らか違う世界の場所に初めて来たんだからさぁ」
「お兄ちゃんって結構ビビりだよね。ぷぷーっ。るなはここに最初に来た時は慌てず騒がずお上品にしてたもんね」
「誰がビビりだってこのクソガキっ」
俺の行動にるなは隣に来てヴァンたちに聞こえないように小声で話しかけてくる。
それに反論すると煽ってくるクソガキ様に少しイラッとくる。
「ふふっ、るな君。そうやって笑っているが君も初めて来た時は凛と同じ反応をしていたじゃないか。それこそあれこれ触って調度品の壺を割ってしまって泣きべそをかいていたのがつい昨日の事のように思い出せるよ」
「は、はぁっ!? るなそんなみっともないことなんてしてないし!」
「なーんだ。やっぱりぶってるだけじゃん。でもまぁお前は見た目完全にお子ちゃまなんだから気にする必要なくなーい?」
ヴァンがあごに手を当てながら昔のことを話して聞かせてくれるとるなは顔を真っ赤にしてヴァンに詰め寄る。
それを見て今度は俺が挑発し返した。
ヴァンに背後から撃たれ、さらに俺の口撃のダブルパンチでるなは涙目で睨みつけてくる。
「先に喧嘩売ったのそっちだからね。あっきー」
「おいこら。口喧嘩で『百鬼』は反則だろ!?」
るなは赤鬼を出現させると俺に何度も殴りかかってくる。
それを俺も『百鬼』を左手に発現させ防ぐ。
「皆様方。若様がお待ちの部屋に到着なさいました。これよりご静粛にお願いいたします」
淡々とした抑揚のない声での叱責に俺とるなは気まずさを覚え『百鬼』を引っ込めた。
ちらりとヴァンを見ると、表情こそ平成を保っているが口の端がピクピクと震えており、笑うのを必死で我慢しているのがわかった。
るなもそれには気づいているがこの屋敷の主と思しき人の前とあってこの場で癇癪を起こすことを我慢しているようで右拳が怒りで震えていた。
(あれは帰ったら大変だろうな)
「若様。ヴァン様、るな様、そして凛様をお連れいたしました」
「入ってください」
襖の奥から聞こえる青年・・・・・・いや、もっと若い男性の声に世話役の利空たちは左右に別れ襖をゆっくりと開いた。
「ヴァン、るな、久しぶりだね。・・・・・・そして凛」
開いた部屋の座敷のさらに奥の1段高い場所。
そこに座っているのはるなとほぼ同じほどの幼さがある少年が柔和な笑みを浮かべ、こちらを静かに見下ろしていた。




