案内
ヴァンに言われ迎えた日曜日午前11時少し前。
いつもの制服とは違いラフな私服でここに訪れるのは何気に初めてな気がする。
.「今更ながら、この格好でも良かったんだろうか?」
何処に連れて行かれるか話してくれなかったので思いっきり普段着で来てしまったが、もし畏まった場所なのだとしたら場に浮くどころか最悪途中でお断りされる可能性もあるわけで。
「んーまぁそれならそれでヴァンなら先に言っているだろうし。それはない、かな?」
少し不安はあるものの、時間になったので部でチャイムを鳴らした。
『やぁ、時間ピッタリだね。鍵は開けてあるから入ってきてくれたまえ』
チャイムを鳴らして数秒してヴァンから入室の許可を得たので俺はドアを開け「お邪魔します」と一声かけて中に入った。
「おはよう凛。昨夜はよく眠れたかな? 朝食がまだならトーストくらいならすぐに用意できるが」
「おはようヴァン。朝はちゃんと食べてきてるからいいよ」
軽い挨拶をすると紅茶を出してくれたのでそれを受け取りソファーに座る。
「で、あいつは朝からこんなに食ってるわけか?」
リビングに入った時から気にはなっていたがのだがツッコまざるを得ない。
目の前の山積みになっている大量の食料、そして食べる音が聞こえてくることを。
俺が来ていることに気づいていないのか、あえて無視しているかは分からないが。
「るな君は起きてからずっとこうだよ。お陰でここら一帯は今食べ物を買うことができずに困っているだろうね」
肩をすくめて苦笑いをするヴァンや俺にかまわずポイポイと時折食べ物の包装紙が飛んでくる。
「起きてからって、何時くらい?」
「んーそうだね。軽く3時間前くらいからだね」
「うわぁ……」
ということはこの山はだいぶ減った方ということか。
このリビングが食料で埋め尽くされている様が容易に想像できるが、絵面的に見ただけで普通ならば胃がもたれそうだ。
そう、普通ならば、だ。
ーーーぐぅぅぅぅぅっ
「うっ」
『百鬼使い』になってから食欲がヤバいほど増進してしまっており、大量の食料を見て腹の虫が盛大に部屋に鳴り響いた。
すると今まで食べ物の壁からゴミが飛んでくなくなった。
「・・・・・・・・・・・・あげないからね。これはるなのだし」
「いや取らねえから。全部お前のだから」
「・・・・・・ふんっ」
俺と2、3やり取りをしたあと再びるなは食事を再開した。
(しかし、1度いらないといった手前ヴァンに今更飯をねだるのもなんか違うし。どうすっか・・・・・・ん?)
空腹をどうしようかと考えているとふと何かがこちらに落ちてきたのでキャッチして手に取ったそれを見てみる。
「チョコバー?」
いきなり降ってきたそれに疑問符が出たがすぐに答えは出た。
ここで今食料がる場所はひとつしかないからだ。
「サンキューな」
俺はるなに礼を言う。
あいつ自身はからは何も返事はなかったがそれもまたあいつなりの優しさみたいなものだろう。
俺は改めて礼を言ったあと包みを開けひと齧り。
チョコの甘みが体に染み渡り、中に入っているナッツを歯で砕くことで食べている感が感じられる。
これ一本で到底空腹が満たされるわけは無いが少しはマシだろう。
「さて、凛も来たことだしそろそろ出たいのだがね」
「おぅ。お前もそろそろ・・・・・・うお!?」
俺たちのやり取りのタイミングを計ったかのように声をかけてきたヴァンに俺は顔を合わせうなずいた。
そしてるなにも準備するように伝えようと振り返るとさっきまでまだ壁になっていた食べ物が綺麗さっぱり無くなっていた。
ヴァンの方を向いたのはたった数秒だ。
その数秒であの小柄な身体に全て食い尽くされたということなのだろうか。
某ピンクの悪魔もびっくりの早業に俺は呆然とるなを見るしかなかった。
「何ボケーッとアホ面してるのよ。さっさと行くわよ」
るなは俺の心情などお構いなしにペタペタとスリッパの音を鳴らし横を通り過ぎて部屋を出ていってしまった。
「う、うそぉ・・・・・・?」
「ふふっ。驚くのも無理はない。ないのだが、今は今日の要件を片付けに行こうか」
呆気にとられている俺の肩をポンと叩き笑いながらヴァンもリビングを出ていく。
俺は1人、理解が追いつかずとりあえずまだ残っているチョコバーを何も考えないようにしてまた一口齧ったのだった。
ーーーーーーーーーー
「なぁ、用事ってここなわけ?」
「あぁそうだ」
「さむっ。肉まん買ってくればよかった」
さっき起こった出来事を脳の片隅に放り投げてひとまず
ヴァン達に着いて行った先はまさこの廃墟街だった。
ここ最近はよくよく縁がある場所ではあるがこんな場所でいったいなんの用事があるのだろうか。
「付いてきたまえ。少し道程が厄介でね」
「はぁ」
「あんまんピザまんカレーまん」
再び歩き出す彼らに黙って付いて行く。
前日の事件で警察が貼ったであろう進入禁止のテープをくぐり抜け廃ビルの1棟に入っていく。
(そういえばあれからまだ日が経ってないのに警察官が誰1人いないけど何処に行ったんだ?)
ふと疑問が浮かんだ。
あれだけ悲惨な現場だったはずなのに廃墟街どころかここに来るまでの道中も警官が誰も配置されていなかった。
「なぁ、ここにいるはずの警察官がいないみたいだけど、なんでた?」
「どうしてなのだろうね」
「チーズまんチョコまん角煮まんタコスまん」
「あとさっきからブツブツ言ってるこいつを何とかしてくれ。ウザったい」
「はっはっはっ。それは私にはどうすることも出来ないよ。諦めてくれ」
はっはっはっと乾いた笑いで諸々誤魔化されてしまったが、多分姉の説得した件と同様のことがあったんだろうと推察し俺はこれ以上はツッコまずに口を噤むことにした。
沈黙は金、とも言うしな。
そんな話をしながらビルに入ってすぐ手前にある階段を3階まで登り、廊下を進み奥にある階段を今度は降りる。
今度は2階に着き角を曲がる。
曲がった先にある3つの扉があり、その中の真ん中の扉を開ける。
中は何も無く割れた窓ガラスから寒風が吹き寒さが肌を刺すように冷たい。
1度扉を閉めると今度はガチャガチャとドアノブを何度か捻り扉を再び開ける。
「なぁ、聞かないでおこうと思ってたけど何がしたいんだ? 俺をどこに連れて行こうとしてるんだよ」
「安心したまえ。もう着いたよ。さぁ先に入ってくれ」
怪訝な顔をした俺に先に入る(出る)ように促され、扉を抜ける。
「・・・・・・・・・・・・は?」
抜けた先にはボロボロの廃ビルの廊下、ではなく桜咲き乱れる桜並木であった。
そしてその先には俺の身長よりも遥かに高い塀に囲まれており、立派な門構えが目に映った。
「どうな、ってんだ、これ」
今日は朝から驚かされてばっかりだったが今の状況は群を抜いての衝撃だった。
「ようこそ。ここが『百鬼使い』達が集う、そして私たちが所属する組織【百鬼夜行】だ」




