集合
「それで? 呼び出した理由ってなんなんだ?」
ヴァンに呼び出された俺は放課後猫宮たちと別れて彼やるなが住んでいるマンションに来ていた。
「やぁ。よく来てくれたね。とりあえず座って紅茶でも飲んでくれ」
言われるままにソファーに腰掛けるとすぐにカップに紅茶を注ぎ入れて俺の前に置かれた。
「るながいないけどどこに行ったんだ」
いつもなら俺が来るとすぐに悪態をつくか大量に買い込んだ飯を食べているクソガキ(るな)が辺りを見回してもおらずヴァンに尋ねた。
「今は食事を終えてすぐに眠気がきたようで今は自室にいるよ。彼女に何か用かい?」
「いや。うるさいのがいなくて話しやすいってだけだよ」
俺はぶっきらぼうにそう言うとヴァンは小さくくっくっと笑った。
「なんだよ?」
「失礼。2人とも不器用だなと思ってね」
「あっそ・・・・・・」
暗にるなも同じことをしていたと言われ、俺はそっぽを向いて紅茶をひとくち飲んだ。
そんなこちらの行動もまた可笑しかったようでヴァンはまた笑う。
これ以上はしつこいので軽く睨むとさすがにおどけすぎたと反省したのか、ヴァンは苦笑しごほんっと咳払いをひとつした。
「さて。本日君を呼び出したわけなのだがね」
「おう」
気を取り直し真面目な顔でこちらに向き直るヴァンにまだもやっとした気持ちはあるものの、俺も対峙する。
「来週の日曜日の午前からなのだが、私たちとともにある場所に来て欲しい」
「・・・・・・それだけ?」
「それだけだ」
俺は正直肩透かしを食らいソファまーにもたれかかった。
真剣な顔をして言うのだからまた『百鬼』関連で退治とか調査のようなものだとばかり思っていたからだ。
だが、危険を伴わないようなのでそこの点には安心はした。
(姉貴にまたいらん心配事を増やすこともないしな)
俺は脳内でそう零し、ヴァンから詳しい話を聞こうと口を開いた。
「まあまいいけど、そのある場所って?」
「それは当日に伝える。今は詳しくは伝えられないのは申し訳ないが」
「・・・・・・行った時にはちゃんと説明してくれるんだな?」
「それは約束しよう」
「OK、わかった」
どこに行くか分からない。
そんな怪しい誘いは本来であるなら拒否一択だったろう。
だが少なくともこの数日という短い期間ながらもヴァンは信頼できる。
そう感じて念押ししたあと彼は真剣な目で頷いたのを見て俺は了承の意を示した。
「感謝するよ」
「そう感じてるんなら貸しいちって事にしといてよ」
「何を要求されるのか恐ろしいね」
ふっと苦笑するヴァンに俺もにっと笑いまたひとくち紅茶を喉に流し入れる。
「げっ」
「ん?」
後ろから声が聞こえ後ろを振り向くとるなが嫌そうな顔をして立っていた。
「人の顔を見て第一声がそれかよ」
「うっさいし」
いつものような悪態をついてはいるものの、見た感じ変わらない彼女を見て内心少しほっとする。
先日の大蜘蛛に瀕死の重症を負わせてしまったことによる負い目があるため顔を合わせづらかった。
しかし、当の本人はそんな俺の思いなど知らず、ふんと鼻息を吐いてパタパタとスリッパの音を鳴らし冷蔵庫からパックのいちご牛乳を取りだし直接飲み始めた。
「るな君。飲み物はコップに注いでから飲みなさいとあれほど注意したはずだが?」
「別にいーじゃん。どーせこれはるな専用のなんだから」
ヴァンが軽くたしなめるもるなはそっぽを向いて再び直で飲む。
そんなやり取りにヴァンはやれやれと首を横に振りこちらに視線を向ける。
その目からは「君も何か言ってやってくれないか?」と
訴えていた。
俺は少し考えてから席を立ちるなに近づき!彼女が飲み終わりキッチン台に置くのを確認してからひょいと取り上げた。
「俺もちょうどそれ飲みたい気分だったんだよな。お飲ませてくれな」
「・・・・・・は?」
るなは俺の行動が理解できず脳がフリーズしている隙に彼女と同じようにいちご牛乳を直に飲もうと口をつけようとした。
「は、はぁぁぁぁぁっ!?」
その瞬間、ようやく俺の行動が認識したるなは赤鬼を召喚し俺の腹に強烈な一撃をお見舞いしてきた。
「ぐほっ!!」
俺も未来予知の映像のおかげで瞬時に左手の『百鬼』を発現させ防御したためなんとか致命傷にはならなかったが、防いだ左腕が痛覚が麻痺するくらいのダメージを負ってしまった。
「ふ、ふふふざけんなしっ。あ、ああんたるなのに・・・・・・そそ、それってか、かん、かんーーー」
赤鬼に殴らせた間に俺からいちご牛乳を奪い取っていたるなははわなわなと唇を震わせ俺といちご牛乳に顔を行ったり来たりして狼狽えていた。
「そういうことがあるかもしれないから私は常々注意をしていたのだが、これで理解してくれたかね?」
今までも忠告されていたから怒るに怒れず、るなは涙目でぷるぷる震えると何も言わずいちご牛乳を冷蔵庫に戻してから乱暴にリビングのドアを開け自室へと戻っていってしまった。
嵐のようなるなの退出にヴァンほくっくっと笑いが抑えきれないようであった。
「いやいや、なかなかのお手前だ」
「いや、俺も昔あいつみたいに直飲みのクセが治らなくて姉貴に人前でこれされて恥ずかしくなって止めたことを思い出してな」
思い返すと俺にもダメージが来る恥ずかしい過去話にヴァンはとうとう耐えきれなくなり声を出して笑いだした。
「ハッハッハッハッハッ。確かに荒っぽいやり方だが効果は覿面というわけだ。やられたのが君だから余計にそうだろうね」
言っている意味はよく分からないがこんなに笑うヴァンを見たの日初めてかもしれない。
いつもは紳士然として喉を鳴らす程度の上品な笑い方しか見たことがないからかなり新鮮に俺の目に写った。
「んで、話ってのはもしかして会おうってだけなのか? それだけなら今日はもう帰るけど」
「あぁ失礼。要件はそれだけだ。わざわざ来てもらって悪かったね」
「・・・・・・いいけど、あとでちゃんとあいつのフォローしといてくれよ。次会ってまた殴られるのはかなわんからな」
「承知した。それでは午前11時くらいにまたここに来てくれ」
「あいよ。それじゃお邪魔しました」
席を立ち玄関に向かう俺はヴァンからの再度の約束に手を振り出ていった。
ーーーーーーーーーー
「もうお兄ちゃん行ったの?」
「あぁ。先程出ていったよ」
お兄ちゃんがマンションを出ていった音を聞いてから少ししてあたしはリビングに向かいおっちゃんに話しかける。
おっちゃんは返事し自分で淹れたコーヒーを飲んだ。
「ふーん」
冷蔵庫を開け、いちご牛乳をコップに注ぎいれてソファーに座りひとくち飲んだ。
するとおっちゃんはくっくっと笑いを噛み殺すようにしていた。
「・・・・・・なによ。なんかるなにモンクあるわけ?」
「いやなに。すぐに言うことを聞くようになったなと感心しているのだよ。彼にあぁされたから気持ちはわからなくもないが」
「〜〜〜っ!?」
あの時のことを思い出し顔が熱くなるのが触らなくてもすぐに分かってしまった。
何か言ってやろうと思うのに頭がぐちゃぐちゃになり何も言葉が出てこない。
「うっさいし。るなはいつもこーしてるもん」
結局絞りだせたのがこの言葉だけだった。
色んな意味で笑いかけるおっちゃんの顔を見たくなくてあたしはそっぽを向いてまたいちご牛乳を口に含ませる。
甘く冷たいこれはあたしにとってのしあわせで冷静になれる味。
でも、今はこれを飲むとお兄ちゃんの顔が浮かんでちょっぴり恥ずかしい味でもあった。
「そうそう、るな君」
ごちゃまぜの頭をとっぱらおうとしているとヴァンが微笑を消して話しかけてきた。
「"屋敷"から彼を連れてくるように命じられた」
「・・・・・・ふーん」
その一言であたしも色々察することができた。
おっちゃんの言葉にあたしは冷たく一言返していちご牛乳をもうひとくち飲む。
今度は甘いはずなのに苦味も感じた。
(るなのいちばんキライな味だ・・・・・・)
せっかくの幸せの味が一転して気持ちの悪いものに変わりあたしはキッチンに行きまだ残っているいちご牛乳を流しに捨てた。
「で、るなも行くってこと?」
「そうも言われている。彼も会いたがっているしね」
「それは命令?」
「自由に受け取ってもらっていいとは言われている」
「・・・・・・わかった。それじゃるなはまた寝るから」
それだけ言ってあたしは自室にまた戻りベッドに倒れ込む。
抱き枕を抱きしめながら体力を回復させるためにもう一度眠りにつこうとして目を閉じた。
すると浮かぶのはあいつの姿ではなく、お兄ちゃんのことだった。
さっきは恥ずかしい思いだったお兄ちゃんだったけど、今は脳内に浮かぶとほんのちょっぴりだけ安心する。
あたしはその幸せを眠る直前まで決して手離さないように考え続けながらゆっくり意識が蕩けていくような感覚に身を委ねていった。




