決着
「あ、がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
大蜘蛛のギザギザのナイフのような歯がゆっくりとるなの身体にくい込んでいき、苦悶の表情になり痛みに声が漏れる。
奴の力なら彼女をまっぷたつにするのは簡単なのだろうが、先程やられた恨みを返すかのようにすぐには殺さずいたぶり弄んでから食べる気なのだろう。
大蜘蛛はるなの苦しむ顔を見て満足そうに笑みを浮かべて見えるのがその証拠だろう。
「あ、あっきー・・・・・・」
痛みを堪えながらるなが青鬼に声をかけるも大蜘蛛の攻撃に近づく隙がなく、彼女の救援に行くことができない。
「ギギッ、ギシャシャシャッ」
勝利を確信したように喜色を滲ませた声で鳴く大蜘蛛。
次に捕食者たるるなの取る行動、つまりは命の懇願をすると考え歯に力を込めて更に彼女の柔肌に食い込ませる。
「あ、ぐぅっ!!」
痛みに汗を大量に流しているるなを傷ついた複眼が捉え大蜘蛛は悦に至る。
しかし、その後の彼女の言動は大蜘蛛にとって違う反応であった。
「ふ、ふふふっ」
笑っていた。
激しい痛みに耐えながらも口端を上げて大蜘蛛に不敵な笑みを見せる。
「ヌエになってもやっぱりムシはムシよね。考えること単純ザコ過ぎて笑えてくるっつーの」
言葉は理解できないがこちらを嘲笑するようなるなの顔になんとなくこちらをバカにしていることは分かり先程までの余裕だった心はすぐに怒りと殺意に変わった。
「ギギギギッ。ギジャー!!」
大蜘蛛はもう弄ぶのをやめ大口を開けるなを食い殺そうとする。
「おめめたっくさんあるのにるなしか見えてないとか。やっぱりるなってミリョク的ってやつよね」
その言葉とともに青鬼・・・・・・いつの間にか元の赤鬼に戻っていたるなの『百鬼』は大蜘蛛の前腕の両鎌を掴んだ。
だがそれだけでは大蜘蛛の捕食は止められない。
だがそれでいい。
攻撃のための道筋が出来ればそれでな!!」
赤鬼の足元から俺は滑り込み、さっきよりも左腕に全力を込めて大蜘蛛の顔面に叩き込む。
「ギャブッ!?」
大口を開け弛緩している今、こちらの攻撃の衝撃が100%以上通るこの瞬間を待って力を溜めての拳撃に、大蜘蛛の顔面に突き刺さった。
拳は表皮を貫き顔上半分が爆散し血飛沫が辺りに飛び散った。
「悪いるな。囮役感謝するぜ」
俺はるなを抱き上げると大蜘蛛から離れる。
傷はかなり酷かったが臓器までは達しておらず、重傷ではあるが致命傷とまではいっておらずひとまず安堵の息を漏らした。
(これも『百鬼使い』の身体能力の高さと回復力あってってことだな)
そう考えてるとるなと目が合った。
荒い息をしつつも彼女はVサインをしながら笑みを浮かべる。
「さっき言った貸し、傷治ったら返してもらうかんね」
「・・・・・・へいへい。でも程々にしてくれよ? 学生の身分なんだから懐無限じゃねーからな」
るなの言葉に苦笑しつつうなずくと彼女は目を閉じて意識を失った。
赤鬼もるなが気絶するのと同時にすーっと消えていった。
「さて、あっちはどうだ?」
緩めた緊張感を戻して大蜘蛛を見る。
いくら回復力が化け物じみていても顔を吹き飛ばされれば流石に生きてはいないだろう。
「はっ!? ウッソだろ」
だが大蜘蛛を見て俺は思わず声を漏らした。
顔を吹き飛ばされてもなお立ち上がり、顔面も再生してきているからだ。
「いやいや、いくら化け物だって言っても限度があるだろ・・・・・・」
るながいない今もうさっきのような無茶な作戦はできない。
しかも俺自身も今の一撃で全てを使い切ってしまい、もうさっきのような破壊力を出すことはもう無理だ。
つまりはこれでやつが回復してしまったらもう打つ手がないことになる。
(だが、やるしかない。そうしなきゃ今度こそこっちがやられる!)
俺はるなをそっと地面に下ろすと構え、再び左腕に力を込めようと意識を集中させる。
だがどれだけやってももう左腕になんの力も入らない。
「くそっ。何とかならねぇのかよ!?」
「無理は良くない。無理に引き出そうとすると侵食が早まってしまうからね」
「・・・・・・ヴァン」
焦る俺の肩をポンと叩き、いつから来ていたのかヴァンが微笑みながら落ち着くように優しい声をかけてきた。
「それに安心したまえ。あの大蜘蛛はもう終わりだ」
そう言ってヴァンが指さす。
俺はその指の方向を見ると大蜘蛛の顔の再生がピタリと止まっていた。
そしてーーー
「崩れていってる」
俺の言葉通り、大蜘蛛の身体がぼろぼろと真っ黒な灰のようなものになり徐々に朽ち果てていく。
「ああなったらもう終わりさ。この勝負は君とるなくんの勝利さ」
全てが崩れ去りこーんと紫色の球体が落ち、それ以外の部分は崩れ去り霧散して言った。
それを見届けるとようやく終わったという実感があり俺は『百鬼』を解除しその場に座り込んだ。
これで猫宮姉妹の命も助かるだろう。
全てが終わり息を一つ吐いて緊張した心身を一気に緩めた。
「あれは?」
「あれが『百鬼』の核さ。あれは回収しておくよ」
ヴァンはそう言って動こうとしたがすぐに足を止めた。
「ヴァン?」
彼の顔を見ると張り詰めたような面持ちで額に汗をかきまっすぐ前を見ている。
今までにない彼の表情に俺は怪訝な顔をし彼の視線の先、先程まで大蜘蛛がいた方を見るとそこには着物を着た老人が1人、大蜘蛛の核を手に取っていた。




