肉迫
「1歩引いて。その後すぐダッシュ!」
「あっきー!!」
「グォォォォォォォッ!!」
「そんでここが空く、と」
「ギジャーーー!!」
俺の予知の映像を頼りにるなに指示を出し、青鬼が撹乱している間に死角から潜り込んでのヒットアンドアウェイをひたすら繰り返す。
大蜘蛛が俺に集中すると、今度は青鬼の連続ヒットに切り替えてのコンビネーションで翻弄していく。
一撃目は大蜘蛛の油断から重い攻撃を当てられたがそれ以降は常にこちらを警戒しているのか小技をちまちま当ててダメージを蓄積させているのだが、決定打に欠けている。
そしてなによりーーー
(あの異常な回復力だ)
あの大蜘蛛の最大の特徴なのであろう回復スピード。
こちらがどれだけダメージを与えても数秒、ないし10数秒で治ってしまい、いくらやってもまるで効果が感じられない。
それでも時間をかければ倒せなくはないのだろうが、それだと猫宮姉妹を助けられない。
(こっちは時間制限があるから悠長にはしてられないのに!)
「あーんもーうっとーしぃし。こんなんじゃ終わんないじゃないの〜!!」
仕留めたくても仕留めきれずな持久戦にるなはイライラしながら棒付きキャンディーを齧る。
すぐに暴走しないのは偉いが、確かにこの状態は宜しくない。
こっちは2人がかりとはいえ、『百鬼』を操るにも消耗が激しいため長期戦には向かない。
一方大蜘蛛は『百鬼』の制限を外れたからか体力は桁外れに高いようでまだ余裕があるように感じられる。
奴もそれが分かっているからこそ無理に攻めてこずこちらの隙を伺っており、こちらがへばったところで始末するつもりなのだろう。
(突破口が欲しい。なんとなくだけど、力を溜め込んだ全力の一撃を叩き込めればなんとかなるはずだ!)
俺は映像に繋がる糸を手繰り寄せ探った結果、思考した方法なら奴を倒せることは出来る。
だがそのためにはるなに多大な犠牲を払ってもらわなければならず、流石に躊躇してしまい、そして結果他に有効な手段が見つからず内心イライラが募っていく。
そうすると段々視野と思考が雑な答えになってしまい、未来の映像が全て死で途切れたものだらけになってしまっている。
「くそっ!」
猫耳姉妹の命がこうしている間にも死に近づいていることの焦りもあって呼吸しようにも浅く荒くなって脳に酸素が送れず負のスパイラルに陥ってしまう。
(どうするっ、どうするっ、どうするっ!?)
耳に聞こえるほど心臓がバクバク鳴るのが分かる。
だがパニックになるのを止められない。
「はぁはぁうっさい!」
「痛って!!」
そんな俺の背中をるながおもいっきり叩かれ、痛みが全身に広がり黒く狭まった視野が一気に広がり現実に引き戻された。
「いってーな。なにしやがる!」
「るなに散々暴走するなーとかせっきょーしてくるクセにいざって時自分がパニクってんの見るとウケるんだけど」
「・・・・・・悪かったよ。助かった」
ニシシと笑うるなに俺は赤面してそっぽを向く。
確かにこちらがいつも注意していることを自分がしていては意味がない。
そこでようやくるなが俺に気を使っていることが分かり感謝の意を告げた。
「ふんっ・・・・・・で、あんたはアレ、どーにかできんでしょ?」
「できなくは、ない」
「でもそのためにるながヤバい目にあうってことね」
「なっ!?」
俺の曖昧な答えにるなは何かを察したように俺を見上げる。
つい焦った言葉を口走ったあと口を抑えるが既に遅く、るなの言葉を肯定したと明かしてしまっていた。
「お兄ちゃんってさぁ結構わかりやすいから今後は気をつけた方がいいよ。それで、るなはなにすればいいわけ?」
「・・・・・・言っとくけどめちゃくちゃヤバいからな。それに成功する確証もないし」
「でもあのお姉ちゃんたちを助けるにはもうこうするしかないんでしょ?」
「それは、そうなんだが」
「グダグダうっさいし。またウジウジすんなら今度はあっきーに叩いてもらうからね」
「覚悟、決まってんだな」
「だてにこーゆーのはお兄ちゃんより慣れてるからね」
るなと目を合わせる。
彼女は揺れず覚悟を決めた瞳でこちらを見る。
俺はそんな彼女に応えるように苦笑してみせる。
「ならこれから話す内容を聞いてその通りに実行してくれ。頼んだぞ」
「終わったらご飯おごってよね」
俺とるなは拳をあわせ、その後作戦内容を話す。
それを話し終えるとるなはドン引きした顔をする。
「ヒトデナシ」
「わかってるよんなこたぁ。だけど現状これが最善になっちまうんだから仕方ねーだろ」
「ご飯だけじゃ割にあわなくなってきたかも」
言葉は嫌々ながらもるなは準備運動をする。
表情もやる気に満ち溢れていた。
「あとは任せるからね」
「おう!!」
「あっきー!!!」
「グォォォォォォォッ!!」
るなは青鬼に命令を下すとそれに応じて大声を上げ大蜘蛛へと向かう。
そして今度は青鬼だけでなく、るな自身も奴へと駆け出していった。
「ギシャシャシャシャッ!」
大蜘蛛は奇声をあげ青鬼ではなくるなを集中して攻撃していく。
青鬼は確かに脅威ではあるがそれはあくまでスピードだけであり、自身にダメージを与えられるまでではないと考えた。
ならば狙うは『百鬼』ではなくそれを操る『百鬼使い』であると判断したのだろう。
るなは一般人に比べては確かに強くはあるが『百鬼』には遠く及ばない。
そのため操手を殺してしまえば青鬼も無効化できると踏んでの行動だ。
「んな事ヒャクも承知だってーの!!」
るなもそのことは分かりきっている。
だから青鬼にサポートをしてもらいながら迫り来る大蜘蛛の攻撃をうまくいなしたりして貰ったり自分もギリギリで避けながらうまく奴の懐に入り込んでいく。
近くなればその分攻撃のスピードも威力も増し、一撃でも掠ってしまうだけでも致命的になるがそれすら楽しんでいるかのように彼女は獰猛な笑みを浮かべ始めている。
「あっははー♪ 遅いってんだよこのクソ虫ぃっ! あっきー!!」
ついに大蜘蛛の眼前にまで来たるなの掛け声とともに彼女と大蜘蛛の間に青鬼が現れ、右腕を薙ぐと奴の目が複数引き裂かれ血飛沫をあげた。
「ギャーーーーッ!!!」
複眼のいくつかを引き裂かれ激痛にもがき苦しむ大蜘蛛。
身体は強固になっているが眼球はその範疇にはなく、青鬼の力でも簡単に傷とダメージを与えることに成功した。
「あっきー、畳み掛けちゃえー!」
「グルァァァァァァッ!!」
るなの言葉にもう一撃加えようと返す刀で更に攻撃をしようとしたその時、大蜘蛛の姿がるなたとの前からふっと消えた。
「っ!? 上!?」
辺りを見回し地面の影を見たるなは上を見上げる。
青鬼の攻撃を喰らう瞬間に上空に跳躍し回避したようだ。
「でもそんな逃げられないとこにいたらまたあっきーの連続攻撃の餌食にーーー」
逃げ場がない空中に跳んだ大蜘蛛に今度はるなが小馬鹿にした笑みを浮かべると大蜘蛛は尻から大量の糸を吐き出した。
「なっ!?」
油断していたるなは避けることができず青鬼を自分の前に配置し糸に絡まることはなかったが、それも計算に入れていたのか絡め取られた青鬼を糸ごと引っ張り上げると地面に振り落とした。
「グッ、ガァァァッ」
「かはっ」
青鬼が血を吐くとダメージのフィードバックでるなも血を吐きその場に倒れてしまった。
「めっちゃ、いったい・・・・・・」
すぐに起き上がろうとするがかなりのダメージに立ち上がれずるなは青鬼の方に這って進む。
青鬼も動こうとするが糸が身体中に絡まっており身動きが取れなくなっていた。
「あ、あっきー・・・・・・」
それでも青鬼の近くに行こうとするるなだったが、両者の間に大蜘蛛がどずんっと大きな音ともに地面に着地した。
「どけよ、クソムシ」
るなは精一杯虚勢を張った笑みを浮かべるが誰が見ても虫の息なのは明らかだ。
そんな彼女を大蜘蛛は放っておくわけはなく、ゆっくりと口を開いたかと思うと彼女の身体に歯を突き立て喰らいついた。




