異変
「校内はもっとすごいことになってるな……」
ようやく校舎にたどり着いた俺の一言目がそれだった。
自分が通い慣れた校舎はどこもかしこも破壊され尽くされており瓦礫の山と化しており、グラウンドもえぐれていて2人の破壊力具合がよく分かる。
「これじゃ廃ビルがあった区画と大して変わらんな」
改めてこういう場所に縁があるなと一周回って楽しくなってきたが、ミクたちを一刻も早く助けねばと思い直し真闇とるなを探す。
「っ!? 体育館の方か」
再び聞こえた轟音にあたりをつけ駆けつけると、体育館は校舎以上に破壊されもはや原型がない。
地面はクレーターがいくつも出来上がっており、体育館も既にぼぼ原型が無いほどに壊されていた。
地面も隕石が降ってきたのかと勘違いするほどにあちこちにクレーターが出来ている。
しかしこの現状を作ったふたりがおらずどこに行ったのか辺りを窺っていると、今度は何かがぶつかる音が頭上から聞こえた。
「アッハハハハッ♪」
さらに笑い声が頭上から聞こえたため上を見上げる。
そこには赤鬼の肩に乗り狂気の笑みを浮かべているるなの姿があった。
その危険な表情とは裏腹に、月光に照らされた彼女の力強さのある瞳があまりに綺麗でほんの一瞬、場違いだと感じながらも綺麗だと思ってしまった。
「ふひっ。フひッ。落ちロヨ。シねよぉぉぉぉぉっ!!」
相対する真倉はるなと同じく狂気に口が三日月のような笑みを浮かべている。
たが彼女と違うのは前よりも呂律の回らない口調で血走った目とだらだらと垂れ流すヨダレ。
そして四つん這いで大蜘蛛の背に乗っているその様は醜悪な獣そのものであった。
そんな対象的な狂気がぶつかっている2人は一進一退の攻防を繰り広げていた。
赤鬼が繰り出す空を切り裂く拳を大蜘蛛はギリギリでかわし、避けざまに糸を吐き捉えようとするのを今度は赤鬼が身体をひねらせ避けてを繰り返している。
どちらも『百鬼』ならまだしも、本体である2人が攻撃が一度決まれば致命的になるが、その死線すら2人にとってはスリルを楽しむスパイス程度にしか感じていなさそうだ。
そんな彼女たちの戦いに手を出すことが憚られ固唾を飲んで見守ることしか出来なかった。
三者三様の思いが織り成す中、時間にしたら数秒の出来事。
重力に従い轟音を立てながら地面に落下した2人はなおも攻撃の手はゆるめず相手を如何に確実に殺すことだけを考えて本能のまま行動する。
「あは、はは、はっ」
「ヒヒッ。ひ、ひヒっ」
だが2人とも『百鬼』を長時間使い続けている疲れからか息が上がっている。
お互いに一撃を与えると双方ともに吹き飛び距離が開いた。
「あ、お兄ちゃんだぁ。邪魔しないでね。今いい所だからさ」
俺の存在に今気づいたのか、るなは紅潮した頬で息を上げながら視線は真闇の方を見続けながらこちらに声をかける。
その目は獰猛な獣が獲物を捕らえるような鋭く、しかし昏い光が見て取れる。
あの瞳は危険だとこちらも本能で感じ取りるなに声をかける。
「少し落ち着け。『百鬼』に飲まれかけてるぞ!」
「……あったまってきたんだけどなぁ」
るなの肩に手を置きクールダウンするように言うと、こちらをちらりと見たるなは意外にも素直にこちらの話を受け入れてくれた。
そして瞬時に息を整え始め、ポケットからキャンディを取りだし口に入れる。
途端にさっきまでの狂気が霧散していくのを肌で感じた。
赤鬼もるなに呼応するようにその凶暴性がすっと落ち着いたように見える。
(まだこっちの話を聞く余裕はあるなら大丈夫だ。問題は、あっちは……)
ひとまず安心し今度は真闇の方を見る。
「ジャ、邪魔?……あぁ。エサが、マタふえ、増えた。ヒ、ヒひひひっ」
真闇は夕方に廃工場で会った時より小刻みに動きながら焦点の合ってない瞳でこちらを見ている。
発言からはすでにこちらをヒトではなくエサと認識しているあたり、相当キレているようだ。
「なあるな。真闇のあれは大丈夫なのか?」
どう贔屓目に見てもあれは明らかにヤバい。
もはや人ではなく『百鬼』のような化け物のようにすら感じられる。
「ギギッ。ギギャギャギャッ!!」
そして大蜘蛛もまた真闇と連動しているかのように金切り声を上げ、ガシャガシャと歯音を鳴らす。
「あのお兄ちゃん。るなが来る前からギリギリっぽかったよ。てかあれってさーーー」
「ヒ、ひヒゃ。肉。肉にくニク……アれ?」
真闇も自身を落ち着かせようとしているのかそれとも食欲にに支配されているのか分からないが、ポケットに入れそこにあるであろう塊……人肉を食べようとしたところでピタリと動きが止まった。
「…………ハヒ? ニク、なイよぉ?」
首をぐりんと曲げ、ズボンのポケットを全てごそごそと探るが一向に何も出てこないようだ。
「は? ハ? はいィィィィィィィッ!? なンデ、ナンでなイのぅッ!?」
次第に真闇は先程よりハッキリと身体を震わせ奇声を上げながら身体中を触って確かめるがお目当てのものは出てくることはなかった。
「なんでぇ。サッきまで、さっキマであっテ……なんでだよぉっ……」
「ギギギッ。ギギッ……ギッ、ギギッ!」
真闇がその場にへたりんでブツブツ呟きながら頭を掻きむしり、情緒がさらに不安定になっていくのに連動して大蜘蛛もさらに応えるかのように奇声を発する。
しかし先程とは違い興奮しての声ではなく、なんというかーーーーーー
(なんというか、笑ってる、のか?)
そう思った時点で背筋にゾワッとしたものを感じた。
まるでこのあとに起こる出来事が俺やるなにとって。
いや、大蜘蛛を操っている真闇にとってもよくないことのような。
「真闇、落ち着け。ひとまず冷静にーーー」
「あ、ぁァァぁぁぁぁァァぁぁぁぁぁァぁァぁっ!!!」
俺が真闇をなだめようと声をかけるもやつ自身に俺の言葉は届かず、さらに身体の震えが大きくなっていく。
「ギギッ。ギギャギャギャシャシャシャッ」
そんな真闇に大蜘蛛はまるで堪えきれないと言わんばかりの大声を上げる。
それは今までの鳴き声ではなく、明らかな喜色が乗っている。
しばらく大蜘蛛が笑い声をあげていたが、ピタッと鳴かなくなり、今まで俺たちに向けていたのにぐりんっと真闇の方へ顔を近づけた。
ーーージジッ
「っ!! 真闇、今すぐそいつから離れろ!!」
その瞬間、目の前にノイズが走り見えた光景に俺は一も二もなく真闇に叫んだ。
「あェっ?」
俺の声に反応してくれたのか顔を上げた真闇だったがしかし、それ以降声を発することはなかった。
「ウソ、だろ?」
なぜなら、大蜘蛛が口を広げ真闇の顔を食いちぎってしまったからだった。




