食事
今回は少しグロ描写ありでので読む時はお気をつけください。
時間は少し遡り、学校の裏手側にあるプレハブ小屋。
その中でふらふらと幽鬼の如く覚束無い足取りで、僕は逃げる時に持ち出した人が入っている繭を無造作に投げ落とす。
その衝撃からか繭がモゾモゾと動き微かに声が漏れ出す。
「ひ、ひひっ。そ、そんなに暴れんなって。も、もうすぐお前らもく、食ってやるからさぁ。ひひっひ」
口の端をぴくぴくと痙攣させポケットに残っている肉塊にかぶりつく。
「あぁ、うめぇうめぇ。今まで食った中で最高にうめぇよ。なんで今までこんなもん食べずにいられたのかい、今じゃ考えられならないよね」
手から滴る血を舐め取りながら高揚した顔でブツブツと呟く。
「で、でもやっぱ。男のに、肉はあんまり美味しくないよね。やっぱり食べるならお、女の子のほうがいいよ、よね」
そう言いながら繭の一つを手で千切り破る。
そこには自分と同じ学校の制服を着ている女生徒がこちらを見るとひっ、と小さく悲鳴をあげガタガタと震えている。
「き、君もそう思うよね。ぼ僕の言ってることって間違ってな、ないよね?」
「お、お願い。助けて」
涙と鼻水を流し必死に懇願する女生徒があまりにも滑稽に見えて僕はゲラゲラと笑ってしまった。
「ぷぷっ。うっぷぷぷっ。無様な姿って1周回って可愛いね。そんな君にはぼ、僕からプレゼントをやるよ」
「い、いやっ……んっ!?」
真闇が無理やり口に詰め込まれる肉塊に目を白黒させ、吐き出そうとするも僕が口を抑えているため吐き出すこともできない。
「ほ、ほらほらー。美味しいだろー。ちゃんとよ、よく噛んで食べよーねぇ」
「ん、ぐっ。お、おえぇぇぇっ」
何とか飲み込んだようだがすぐに彼女は吐き出してしまった。
「な、なんだよ。僕の好意がいらないっての? せっかく君のためにの、残してあげたんだからさぁ」
女生徒の反抗的な態度に一瞬ムッとなったが、すぐに口の両端を上げながら彼女の耳元に顔を近づけた。
「それさ、君のか、彼氏だったんだからさぁ」
「…………は?」
僕の言葉が理解出来ず、ただただこちらを見上げることしか出来なかった女生徒の表情を見て笑みを深める。
「ぼ、僕をいつもイジメてくれたあいつの成れの果てなんだ。あの高架下の事件で死んだ、さ。文字通りずっとい、一緒にいられるよ。よ、よかったよねぇ」
「むぐぅっ!?」
フリーズしている女生徒の隙をついてまた肉塊を彼女の口に入れると思考が戻ったのか顔を青ざめさせた。
「は、吐き出したらダメだよォ。今度吐いたらオ、おしおきだからねェ」
吐き出そうとする女生徒のあごを掴み脅すと黙って何度も縦に頷いた。
普段であれば冗談にすらならない脅しだが、今の僕の迫力から直感で理解できたのであろう。
「あはっ、アハはははははッ。最高だよね。最高だよねぇ!」
自分を虐げていた者、そしてそれに連なるものに対しての復讐に脳から快楽物質がドバドバ出てくるのを感じ笑いが止まらない。
「うぷっ、おぇぇっ」
「……なんだよ。も、もうちょっともたせてよこ、根性ないな」
様々な感情と状況に耐えきれず嘔吐する女生徒に僕は先程までしていた高笑いがピタリと止め、さっきとはうって変わって怒気を含ませて彼女の頭を掴み持ち上げる。
「ひっ。ご、ごめんなさーーー」
「い、言ったよな。八、吐いたらおしおきだっテサ。やっぱりボクをば、馬鹿にしてるッテことだよね?」
「ち、違います違いますそんなこと考えてっ!?」
みしみしと頭蓋骨が軋む音が聞こえる。
女生徒は痛みに僕の手を殴ったり引っ掻いたりともがく。
だが昔の弱かった僕ならいざ知らず、今の最強の力を得た僕に敵うはずがなく無駄な行動に先程とはまた違ったどす黒い感情が身体の中から溢れ出した。
「い、いいよもウ。笑うダケ笑エたしもうオ前はい、イラない」
「ーーーっ!!」
そして女生徒は声を発する前にパンっと割れた風船のように頭部が破壊され、しばらく体が痙攣した後ピクリとも動かなくなった。
「ひ、ひひッ。人ってさぁ、脆いよナァ。ぼ、ボクも前まではそっち側だけどイ、今は違う……そ、そうだよヨナ?」
僕は座り込み、散らばった彼女の欠片を集めながら虚空に向けて声をかける。
するとこちらの真後ろ、正確には影の中からぬるりと「何か」が音もなく現れた。
「ーーーーーー」
「ア? あぁ、あいつらのこと? し、知らねぇヨ」
「ーーーーーー」
「う、五月蝿イよ。ぼ、僕にこの力ヲ与えてくれたのは感謝す、スるけどこれをどうするかは僕のじ、自由にしていいって言ったのハオ、お前だろうが!」
「ーーーーーー」
「アー、もうイライラしてしょうがない。せっかくいい気持ちだ、だっタのにサっ! 大蜘蛛っ!!」
「何か」との会話に苛立ちを隠せなくなり、自身の『百鬼』である大蜘蛛を呼び出し集めていた「食料」を分け与えた。
大蜘蛛は喜色の声を上げかぶりついた。
ここ最近は「食料」を優先的に与えていたためか、凛やるな達との戦いで受けたダメージを癒し回復していた。
いや、今は元よりもさらに大きく狂気を帯びた奇声を大蜘蛛があげている。
「へへっ。そ、そんなに興奮するなよ。も、もうすぐもっと美味い女の子た、食べさせてあげるからさ」
「ーーーーーー」
「そ、そいつも大蜘蛛が食えばい、良いんだろ? い、今の僕なら簡単さ」
その言葉を最後に何かの気配が完全に消えた。
「……チッ。オ、お節介が」
何かが居なくなったのを確認してボソリと毒づいた。
「もういいや。お、大蜘蛛、残りももう食っちゃえ」
大蜘蛛としては思いもがけずのおかわりを貰えたことに喜びの声を上げ、持ってきた繭にいる人間をガツガツと食べる。
ひとり、ひとりと食べ進める度に大蜘蛛の体はどんどん大きくなっていく。
「ひ、ひひっ。こ、こいつサエいればボ、僕は最強なんだ。僕をバカにしてるや、やツらは全員こ、こいつの餌になれバイいんだ」
不気味な顔で喉の奥から笑い声をあげていたが、何かを感じ取りピタリと止める。
「き、キ来たな」
プレハブ小屋の周囲には目視しづらい蜘蛛の糸を張り巡らし、外敵がそれに触れると糸の震えで分かる。
さらに糸の震えの振れ幅などで人数や体型などがある程度わかる。
そしてこの振動には1度覚えがある。
僕はどす黒い笑みを浮かべゆっくりとプレハブ小屋を出ていく。
外に出るとそこにはここ最近、食事や遊びを邪魔してくる派手な髪型の少女。
「おにいさん、また会ったねー。ねぇ、るなとまた遊ぼうよ♪」
目の前の少女、るなと名乗ったメスガキは背後にいる赤い鬼のような巨体の『百鬼』を従え、言葉とは裏腹に獰猛な笑みを浮かべ立っていた。
「ひ、ヒひっ。い今ならどんなヤツにだって負けナいんだ。小さい女の子はもっとヤ、柔らカくて美味イんだ、だロウな」
僕はは自分が負けることなど露とも考えておらず、ただただ思考するは目の前にいる少女を屈服し、恐怖し怯えて命の懇願をしたところで喰らうことだけ。
大蜘蛛も前回のリベンジとばかりに主人の号令を今か今かと待ちわびているかのように雄叫びを上げている。
「やっちゃえ、あっきー!!」
「食い散らかせ、大蜘蛛!!」
二人の声が口から飛び出すのと同時、赤鬼と大蜘蛛は雄叫びを上げながらぶつかり合った。




