表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/28

手繰

「と、勢いだけで外に出たけどヴァンやるなは何処にいるのか分からないんだよな」


 食事も済ませ冷静になってからヴァンたちの部屋を出てあれから10数分。

 俺は街中を走り回ったりビルの上に飛び移って目を凝らしてみるが彼女らを見つけられずにいた。

 ヴァンが言うにはミクたちが蜘蛛の毒で死ぬまでに数時間と言っていた。

 あれから強制的に寝かされておりどれくらい時間が経っているか分からないが、もう時間もそんなに残されていないだろうため内心かなり気が気じゃなかった。


「スマホももちろんのことだけど向こうは電源切ってたから連絡取れないしな」


 せめてド派手にドンパチを繰り広げてくれると分かりやすくてありがたいが、今の所そのようなことは起こっていないのか街の喧騒以外の音は聞こえない。


「あ、そういえば」


 場所が分からないと闇雲に探しても時間だけが浪費するだけでどうしたものかと頭を掻ていると、ふと前にヴァンから教えてもらったあることを思い出した。


 ーーーーーーーーーー


「るなとの戦闘、君が『百鬼使い』になったのとはまた別に赤鬼と対等に戦えていたのは正直私は驚いているのだよ」


 それは出会って少しだった時のこと。

 るなが寝付いたあとにヴァンと話していた時のことだ。


「時折凛が赤鬼の攻撃を読んで動いているような節が見て取れたのだが、君の『百鬼』の能力か何かなのかい?」

「あー。あんまり人には話してはいないし広められるのは勘弁して欲しいんだけどさ。なんかこう、死を伴うような危険な状況とかに追い込まれると視えるんだよ」

「視える?」

「ノイズだらけではあるんだけど少し先、数秒先の映像が目の前に流れるんだ。俺はそれをなぞるようにして回避してるんだよ」


 俺の説明にヴァンはふむ、と顎に手を乗せなにか思案するそぶりを見せる。


「それは『百鬼使い』になる前からかい?」

「あぁ。いつから使えたかは覚えてないけどね。あとはたまに仲が良い友人だったり家族とかが危険な目に合いそうな時にも視えたりするな。こっちはかなり稀だけど」


 こちらが話している間もヴァンは時折コーヒーを飲みつつ耳を傾けている。

 俺がひと通りの話を終えると少しの間があり「これは、私の推論に寄るところではあるが」と前置きを挟んでヴァンは俺の顔を見る。


「君は危険を察知する能力。簡単に言えば予知のようなものを持ち合わせているんだろうね」

「予知?」


 ヴァンの言葉を繰り返す俺に彼はうなずく。


「死を回避するというのは戦う上では非常に有用な力だね。興味深いよ」


 ぶつぶつと呟きひとりで何か納得が言ったように何度も首を縦に小さく振る。

 俺自身はよくは分からないが、ヴァンのその姿はまさしく教師や教授のような学者の風体に思えた。


「聞きたいのだが、それは君自身でコントロールはできるのかい?」

「いや。そういう状況にならないと出ないんだよね。何度か試そうとしたことはあったんだけど」


 この能力に気づいてからしばらく、幾度か自分で発動できるか試したのだが全て無駄に終わっている。

 そのせいで何度も手痛い目にあい、その度に姉にこっぴどくお仕置されたのを思い出した。

 あの時の記憶が蘇り背筋が凍るお仕置の数々を思い出してしまったので必死にそれを脳内から振り払う。


「それは『百鬼使い』になった後も試したのかね?」

「……いや、今は試したことないな」


 今までがダメだったため既に試すことを諦めていたため、首を横に振る。

 あと単純にそこまで頭が回らなかったのもあるが。

 そう話すとヴァンはまた考え込むように天井を仰いだ。


「起因は死の恐怖。そして仲の良い……いや、近しいと認識したもの。であるならば……」


 ふむ、とひとつうなずくとこちらの方を向いた。


「『百鬼使い』になるとそれに付随して能力が飛躍的に上がったり新たに能力に開花するものがいる。君が正しくそれかもしれないね」

「それって……」

「あぁ。もしかすると今の君にならその危機察知の能力も上がって自分の意思で扱えるかもしれない」

「マジで!?」


 思わず大声を上げてしまい、瞬間口を手で覆いちらりと視線を横に滑らせる。

 るなは反応せずすーすーと規則正しい寝息を立てているだけで起きる気配はなかった。

 無理やり起こしてしまったら不機嫌モードのるなに何されるか分からない。

 だが今回はそうはならずに済み、ほっと胸をなでおろし俺は小声でヴァンに問いかけた。


「で、この力を使える方法って?」

「方法は二つほどある」

「へー、凄いな。それで、どんなだ?」


 俺の疑問にヴァンは微笑みながら答える。


「1番手っ取り早いのは常に死の感覚に身を置いて体で覚える方法だね」

「要は死ねってことか?」


 あまりにもさらっと死刑宣告をされたものでつられて笑顔だった凛から感情が一切消えた。


「やれやれ。今の若者は辛いことがあるとすぐに投げ出してしまう。挑戦なくして成長はないよ。人としても男としてもね」

「若者がーとかそういう話じゃねーよ。とにかくそれはなしなしなしっ。それで、あとのひとつは?」


 ふぅとため息を吐き大袈裟に肩を竦めてみせるヴァンに全力を持って断りを入れる。

 声音は柔らかいものの目が笑っていないヴァンに薄ら寒いものを感じ、話を逸らす目的もあり2つ目の方法を聞き出そうとする。


「二つ目はゆっくり安全だがだいぶ時間がかかると思うが」

「それでいい。いのちだいじに」


 残念そうにまたひとつため息を吐きコーヒーを飲み切るとヴァンは凛に席を立つように促されたので黙って従うことにした。


「目を閉じて」

「あ、はい」


 ヴァンの言葉に素直に従い目を閉じる。


「イメージするんだ。自分の近しい人が危機的な状況になっているところを。具体的に、その時感じた感覚も思い出して」


 そう言われ当時のことを思い出す。

 双一がるなに襲われた時、真闇と対峙したあの時のことを。

 強く、鮮明に思い出そうとすると暗闇の視界にちらりと何かが見えた気がした。

 それは1本の細い糸だった。

 その糸を掴み手繰り寄せていくとしばらくしてでかいモニターが現れた。

 それはいつも見慣れた危険な未来を見せるものだ。

 俺は糸を手放し今度はモニターに手を伸ばした。

 しかし、その瞬間ぐんっと体が引っ張られる感覚に襲われてしまいモニターからどんどん遠ざかってしまう。

 俺は何とか藻掻いてみるが抵抗むなしくどんどんモニターと距離が離れていってしまい真っ暗な空間に戻されていく。

 そして意識まで黒く塗りつぶされていく瞬間、モニターの前に誰かの影が立っているのが見えたような気がした。


「あっ……」

「何か、見えたのかい?」

「いや、あと一歩でダメだった。だけど感覚は掴めたような気がする」

「そうかね。時間が掛かると思っていたが君は筋がいいのだろうね」


 目を開け悔しげにつぶやく俺にとヴァンが微笑み、いついれたのかすっとアイスココアを差し出してきた。


「飲みたまえ。水分と糖分補給は必要だからね」

「え?」


 そう言われ初めて俺は大量の汗を流していたのを知った。

 それほど余程集中していたということなのだろう。


「サンキュ」


 ヴァンにお礼を言い、俺はアイスココアを受け取るとグイッと一気に飲み干した。

 程よい甘みと冷たさが喉を通り気持ちが良かった。


「きっかけは掴めたようだね。訓練次第では自在に使えるだろうし、もしかしたら自身と縁を結んだ者を人探しにも使えるかもしれないね」

「まだまだ先の話だろうな、それ」

「だが何はともあれ一歩目といったところだろう。ここからは時間をかけてゆっくり磨けばいいさ」

「そうするよ」


 ヴァンの優しい言葉に俺は微笑み返し首を縦に振った。


「もちろん、もうひとつの方法も随時受け付けているからな」


 彼の先程よりもいい笑顔にこちらも満面の笑みで拒否っておいた。


 ーーーーーーーーーーー


「今はもうこれに賭けるしかないか」


 あの頃から時間を見つけては訓練はしていた。

 かなり不安定な部分はあるが、糸は少しはっきり見えるようにはなってきた。

 だがいつもあともう少しのところで失敗に終わってしまっていた。

 それでも今はがむしゃらに探すよりもこの能力に縋るしかない。


「すぅ、はぁ」


 精神を集中するために何度か深呼吸をし目を閉じる。

 思い浮かべるのはるな、そしてヴァンの顔。

 ……そして真闇のことを。


(強く、もっと鮮明に)


 彼女たちとの今までの思い出を強く、具体的に想うと視界の端にキラリと光る数本の糸が映った。

 俺はその糸が消えないようにゆっくりと手を伸ばし先端に触れ掴み1歩、また1歩と糸を手繰り歩いていく。

 そしてモニターにまでたどり着くと意識をさらに集中させ手を伸ばすと今回はモニターにまで触れることができた。


「よしっ……てしまった!」


 触れられたことに安心したため気が緩み、前回からと同じように背後の闇に引きずり込まれてしまい意識が強制的に閉じられた。


「っ! はぁっ、はぁっ」


 そこで限界を迎えその場に膝をつき荒い息を繰り返す。

 大粒の汗が地面にぽたぽたと落ちていくなかゆっくりと息を整えていく。


「今回は大雑把だけど、映像が少しだけ見えたぞ」


 脳内に刻み込んだ映像を思い出しながら立ち上がり、また数度深呼吸をする。

 酸素が血液を通して脳や臓器にも送られるようになり、俺は視えた映像の場所に駆けつけるため脚に力を込め一気に跳躍した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ