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思慮

(とはいえ、どうやって切り出そうか)


 早朝の学校、生物室にて動物たちにエサをやりながら今後のことを考える。

 俺の考えが正しければ十中八九犯人は先日助けた後輩、真闇の仕業、だと思う。

 だが彼に話して素直に答えるはずはないだろう。

 ことは殺人なのだ。そんなことをべらべらと喋るのは余程の馬鹿である。


「どうした白鐘。なにかお悩みごとかな?」食後のインスタントのホットコーヒーを飲んでいる先生がこちらに話しかけてくる。


「えぇまぁ、悩みといえば悩みですね」

「ふむ。君は面倒事を背負い込んでしまうクセがあるからねぇ」


 足を組みうんうんと大仰にうなずく先生。


(あんたもその悩みの一人なんだがな)

「そう思われても仕方ないから否定はしないが顔に出てるよ少年。話は戻すが、そういう時ほど他人に話してみたほうがいいのではないかね? 話してみれば心の整理にもなるし気持ちも楽になると想うが」

「そうしたいのは山々ですがなんですがね。おいそれとは話せない内容なんですよ」

「ふむ?」


 俺の曖昧な言葉に先生は小首を傾げる。

 この話は『百鬼使い』でしか理解できないだろうし、一般人を巻き込む訳にはいかない。

 しかし『百鬼使い』のあの二人に話せば有無を言わさず処断するだろう。

 数日間という短い期間だがそれくらいは察することができる。

 実際被害も出ているし放っておけば犠牲者も増えるだろう。

 それでも一度彼と会話を試みて落とし所を探って行ければと考えてはいる。


「……あぁなるほど。そうかそうか」


 先生はなにか納得したようなニマニマとした顔をしてウンウンとうなずいた。


「なんスか?」


 あの顔は間違いなく勘違いを、というよりろくでもないことを考えているだろう。

 続きを聞くのが嫌になるがとりあえず聞いてみよう。


「いやなに。少年にも春なのかなと思ってね」

「……は?」


 突拍子もないことに頭にはてなを浮かべる俺を他所に先生は嬉しそうにしている。

 唖然としている俺は訂正しようと口を開きかけるも先生は手をかざし制止する。


「みなまで言わなくてもいい。その思い詰めた顔は私の推理したところによると複数の女性から同時に告白されて困っていると見た」

「・・・・・・」


 先生の的はずれな推理に何も言えず微妙な顔を先生に向ける。

 そんな俺の表情を察せずドヤ顔をしてさらに話を続ける。


「どうやら図星のようだね。伊達に数々のエr……恋愛を成就させてきた恋愛マスターの勘が囁いているのだよ」

「今なにかおっしゃいかけてましたがまあいいです」


 教育者からは、というより一応尊敬はしてる教師からあまり聞きたくないワードが聞こえた。

 その(自称)恋愛マスターは俺のツッコミにも耳を貸さず熱弁を続ける。


「それで、相手は誰だい? 順当なところでは猫宮姉妹だろうが」

「なぜそこであの二人が出るんです?」


 確かに仲は良いがあくまで友達としてではある。

 俺は心底分からない顔をして首を捻る。


「本気で言っているのかい? あの二人はうちの高校では知らない人はいないくらい人気なんだよ」

「まぁ確かににそうでしょうね」


 ミクは快活で人当たりがよく、誰に対しても平等に接するし、天は好き嫌いは激しいがあのスタイルの良さとミステリアスな雰囲気があるため一部熱狂的なファンがいたりする。


(でも、俺からすれば2人って昔から懐いてくる猫そのものだからな)

「おいおいその考え方は危険だぜ。普段からあそこまで好意を持たれているのに気づかないとかどんな鈍感係ラノベ主人公なんだい?」

「さらっとまた思考読まないでください。あと鈍感もなにもそんな関係ではないですし」


 俺の否定の言葉に先生はやれやれと苦笑し、演技かかったふうに大仰に肩をすくめてみせる。


「君はもう少し周りの反応を、特に女性の好意に対して察するべきだよ。女性というものはさね、言外に込められた言葉を拾ってほしいものさ」

「それは先生もですか?」

「それはもちろんさ。こんなにおっぱいが育った男がいると思うのかい?」

「分かりましたから。見せつけんで良いですから」


 わざと谷間を見せつけ近づいてくる先生に、真っ赤な顔をそらすとむふーと満足そうに鼻を鳴らすと俺から離れソファーに座り再びコーヒーを啜る。

 遊ばれたことが悔しいが、抵抗しようとしてもまたあの大きな谷間で封殺されるだけだろうと考えため息を一つ吐いて再び動物たちに餌やりをすることにする。


「お前たちだけが心の平穏を保たせてくれるよ」


 足元に寄ってくる犬猫たちに癒やされながら俺は頬をほころばせる。

 すると直後にざわりと黒い殺気のようなものが背筋を撫でてくる感触がした。


「っ!?」


 明確などす黒い感情の奔流に瞬時に体を起こし、ドアを開けて外に出て左右を見回す。

 しかし黒い感情はすでに掻き消えており後を追おうにも出来なかった。


「ど、どうかしたのかい。急に飛び出して?」

「い、いえなんでもないです。外に人影が見えて」


 俺が血相を変えて外に飛び出したのを心配そうな声を掛けるが、気持ちを落ち着かせてなんでもないとばかりに平静を装った。

 先生は納得はいっていないような顔をしていたが、俺の反応を見てなにかを感じ取ったのかそれ以上は追求しようとはしなかった。


(あの気配。この前の大蜘蛛と同じかそれよりもどす黒かったな。これはあまり時間を掛けるべきじゃないかもな)


 自身へと向けられた危ない気配を受け、それが他人に向けられてこれ以上犠牲者を出さないため今日からあの真闇と直接会話すべきだと感じた。

 それでも2人に連絡はせず、なんとか自分だけで穏便に解決を測りたいとも考えていた。


 ーーーその考えを後に後悔するとは今は露とも知らずに。

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