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犠牲者

「くっそ。面白くねぇよなぁ」


 夕方の5時も越えると日も暮れ暗くなっていく時間。

 真闇をいじめていた不良たちの一人が電車の高架下、苛立った大声で壁を蹴る。

 あの時の「鬼林」という単語にビビってしまい逃げ出したが、後で嘘の報告だということが分かり引き返したときには誰もいなかった。


「誰か知らねぇけどあんなブタ助けるやつがいるなんてな。そいつは見つけ次第きっちりケジメつけとかねえとな」

「ま、いいじゃんかさ。ブタくんからはお小遣いこんなに貰えたんだし。パーっと使っちまって憂さ晴らししようぜ」

「そうそう。そんでお金なくなったらまたブタくんから募金してもらえばいいじゃん」


 イライラしている不良を宥めるように先程得た札を彼の眼の前で広げて見せる。

 少なくとも10万はあるだろうそれを確認して口角を上げた。


「……そうだな。しっかしこんな金、あいつよく持ってたよな?」

「だな。あいつん家って確か母子家庭とかだったよな?」

「どーでもいーじゃん。どーせ親の財布とかからくすねたんでしょ」

「それかママ活とか?」

「ブタ買うとかどんだけ変態なんだよ」


 お金を見たことで一気に機嫌を直した不良たちは真闇がどうやって金を得たのか邪推してひとしきり笑ったあとさっそく得た軍資金でどうしようか話し合っていると、ふと彼らの眼の前にいつからいたのかフードを被った人が立っていた。

 フードのせいか、または陽の光がもう殆ど無いためか顔は全く見えないが背も自分たちよりは大きくはないため途端に舐めきった態度を見せる。


「あ? んだこら。俺らに用かよ」


 不良たちはフードを被った人を威嚇しつつ取り囲む。

 数の利はこちらにあるため、負けるわけがないと気が大きくなりニヤつきながら囲む円を小さくする。


「・・・・・・」

「なんか言えやオイ!」


 スパンと頭を叩いたがフードを被った人はピクリとも反応せず不良たちを見上げる。

 影で目だけしか見えないが、こちらを見ているはずなのに陰から覗くその瞳からは濁った昏さが感じられ背中がぞくりと冷たいものが体を履い回った感覚が襲った。


「……ふっ」

「あ"?」


 するとフードを被った人は彼らに対し鼻で笑った。

 相手の小馬鹿にしたような態度に先程の不快感はすぐに消え一気に沸点に達し、不良は青筋を浮かべフードの人物の胸ぐらを掴む。


「なにがおかしんだてめぇ!」

「くっ、くっくっくっ」


 不良の言葉に返事をせず不気味に笑うフードの人にさらに苛立ちを募らせた。


「いいから謝れやコーーー」


 振りかぶりフードの人を殴ろうとした不良だったがその拳は当たることなくその姿は忽然と消えた。


「え? あれ? おいどこいったよ?」


 急にいなくなった仲間を呼ぶも返事は返ってこない。


「ひ、ひひっ、ひひっひ」


 代わりにフードの男が不気味な笑い声を漏らす。

 その声は心底心を揺さぶるような不気味さが乗っており、その場の全員は1歩後ずさる。


「て、てめぇ。あいつ何処にやったんだよ!?」


 不良のひとりがフードの男を虚勢を張りながら恫喝すると彼は何も答えず人差し指を天井にかざした。

 不良たちはその指の指し示す方を見るとーーー


「う、うわ、うわぁぁぁぁぁぁっ!!?」


 恫喝した不良がそれを視認すると悲鳴を上げその場にへたり込んでしまう。

 彼らの頭上には先程フードの男に殴りかかろうとしていた不良が中空に浮かんでいた。

 しかも中空に浮かんでいる不良の体中の骨や関節があらぬ方向を向いておりすでに物言わぬ屍となっていたのだ。

 不良たちの反応をひとしきり楽しんだのかフードの男は指をパチンと鳴らすと中空にいた不良がその場に鈍い音を立てて彼らの目の前に落ちた。


「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」


 その音を合図にしたのか彼らは皆パニックを起こしながらも散り散りに逃げていくが、それらも次々に声が聞こえなくなり、1人また1人と壊れたマリオネットのようにぐにゃぐにゃの状態で地面に叩きつけられ死んでいった。

 そしてついにはその場にはへたり込んでいる不良独りだけになってしまった。


「わ、悪かったよ。怒鳴ったり手を上げたことは謝るからよ。だから見逃してくれよ。な、な?」

「・・・・・・」


 ガタガタと震える不良にフードの男はゆっくり近づき見下ろすような位置で止まる。


「か、金が欲しいんならあげます。今あるだけ全部やるしこれで足りないなら欲しい金額集めてきてやるよ。だから、助けてくれ」

「・・・・・・」


 フードの男は震える手で差し出されたお金を無言で奪うとくるりと振り返り歩いていく。


「へ、へへっ。あ、ありがとーーー」


 見逃してもらえたと思いホッとした不良だったが、すぐに自身もなにかに上に引っ張られ、しばらくもがいたあとすぐに息ができなくなり意識を失った。


「ふっ。ゴミクズが」


 フードの男は一瞥、嘲笑する。

 その後小蜘蛛が奇声を上げながら不良たちを食い散らかしていくが、その音は電車が通り過ぎる音、そして暗がりのため誰に知られることもなかった。

 ただ一人、それらを見ている最初から最後まで眺めているものを除けば。


 ーーーーーーーーーー


「なぁ。『百鬼』が人を襲う理由ってなんだ?」


 事務所強襲事件から数日経った放課後。

 餌付け(生物室の動物たちと教師に)を終えてからヴァンとるなが寝泊まりしているマンションで椅子に座りながらヴァンに話しかける。

 ヴァンはコーヒーを一口啜るとカップを置きふむと顎に手をやる。

 ちなみにるなはソファーで片手にサンドイッチ、もう片方にクレープを持ち交互に食べている。

 その組み合わせに少し見慣れてしまっている自分がおり突っ込むことを止めておいた。

 それに口に出さずとも俺の言いたいことを察したのかるながこちらを睨み威嚇しているのでわざわざ虎の尾を踏むのも馬鹿らしい。


「簡単な話だ。『百鬼』が人を襲うのは我々人を食うためだ。人類が狩りをして食料を得るのと同じようにね」

「ふーん……ん? 人を、食う?」


 なんでもないような口調で話すものだからそんなもんかと理解しかけて聞き捨てならないワードが出たため俺は聞き返した。

 その俺の言葉にヴァンは頷いて返答した。


「でも俺達に寄生してるんだったら俺達から栄養を摂るってことはできないのか?」

「すべてが、とは言わんがおそらく奴らの栄養と我らの栄養はまた違う」

「どういうことだ?」


 俺が首を傾げ聞くとヴァンはうむと首を縦に振り言葉を続ける。


「『百鬼』は人や生物にある生体エネルギーだけが唯一の栄養となる。そしてこの地球上で生体エネルギーが満ちているのが人間ということさ」

「他の……例えば牛や豚とか生きてる動物じゃダメなのか?」

「詳しくは分からないが代替にはなるが所詮はその場しのぎだろう」

「つまり効率的に摂取できるのが人間だから襲っていると?」

「そういうことさ。君は理解が早くて助かるよ」

「あー」

「……なんでそこでるなを見るのよ?」


 二人がちらりと視線をるなの方に送ると敏感に感知したのか彼女が不機嫌な顔をする。


「いやー別にー」

「他意はないさ」

「……ふんっ」


 俺たちのからかい混じりの表情にるなは鼻を鳴らしそっぽを向いて食事を再開する。

 そんな光景に俺とヴァンは顔を見合わせくすりと笑い合う。

 たった数日しか付き合っていないがもう長い間会っている友人のような気軽さを覚える。

 あの事件がいっそ夢なんだろうかと思えるほどに穏やかな空気だったが、点けていたテレビのニュースによってそれは破られた。


『それでは次のニュースです。昨夜未明、高架下で南野高等学校の生徒数名が殺されている事件が起こりました。遺体からは歯形や切り傷から見て大型の猛獣の仕業ではとのことで捜査を行っております』

「……おそらくは、あの大蜘蛛の仕業だろうな」

「あいつら見覚えあるぜ。昼休みに後輩をいじめてたやつらだよ」

「猛獣? 『ヒャッキ』は猛獣以上だけどね」


 ニュースを見ていた三人は思い思いの言葉を紡ぐ。


「しかし、この前の事件のときもそうだが、なぜ君の学生がこうも狙われているのか」

「……あまり考えたくはないけど。もしかしてあの大蜘蛛の『百鬼使い』ってうちの生徒の中にいるとか?」


 そう言葉にした俺だが、一人考えられるやつがいる。

 だがまだ確定したわけではないし、なにより知った顔である彼を疑いたくはないからだ。


「ふむ。凛、すまないが」

「みなまで言わなくても分かってる。軽く探り入れとくわ」


 ヴァンたちに俺の思考を読まれることはなく、何か聞かれる前に俺はうなずき席を立った。


「んじゃ今日のところは帰るわ。なにか分かったら連絡する」

「あぁ。よろしく頼む」

「・・・・・・」


 るなが黙ってじっと視線をこちらに向けなにか訴えかけていた。

 俺の言動に本能かなにかで感じ取ったものがあるのだろか。

 だがそれをあえて無視し、俺は部屋を出ていった。

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