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助力

「さーて飯メシー」


 午前までの授業を終えて購買に行く。

 今朝は姉との事があったので朝食も昼食も待っていないためである。

 おかげで朝から腹の虫が鳴り止まずくすくすわらわれてしまって恥ずかしいことこの上なかった。

 しまいにはクラスの連中からお菓子や早弁用のおにぎりなど差し入れられてさらに肩身が狭い思いをしたもんだ。


(昨日みたいにあいつが食い尽くしていることな無いだろうが……人気のパンとかは直ぐに無くなるから急がないとな)


 階段を駆け降り曲がり角に差し替えるその時、人影が現れぶつかってしまい、何かがバラバラと落ちていく。


「あいてっ。すまん、大丈ーーー」

「あ、す、すみませんすみません」


 転んだ相手に謝ろうとすると、それを遮るように目の前の人影はどもりながらも早口で謝られた。


(……あれ、こいつって確か)


 謝る男子学生のその顔には覚えがある。

 先日、ヤクザの事務所で桂木にこき使われていた小太りな少年だ。


「いや、こっちこそ悪かったな。すまないなパンを落としてしまって」


 俺のことは知られていないだろうがあえて彼のことを知らないフリをして謝り、彼が落としたであろう大量のパンを拾っていく。

 ふと彼の周りを見ると大量のパンが転がっていた。

 どう見てもひとりが食べるには多すぎる量だ。

 ……るなみたいな大食らいでもない限りは、だが。


「本当にごめんな。汚してしまったならこれから購買に行くから買い直しに行ってやるけど」

「い、いいえ。そんな先輩の手をわ、わずらわせるこ、ことなんてしませ、んよ。ふ、フヒッ」


 そんなガツガツ食べている彼女を妄想しつつ彼に提案をしたがそれを首を横に高速で振って断られた。

 先輩、と呼ばれて改めて彼を見ると胸につけているネームタグの色が緑となっていた。

 この学校は学年によってネームタグの色が違っている。

 一年は緑、二年は黄色、三年は白といった具合に一目でわかる。


「でも大変そうだなこの量。クラスのやつらとじゃんけんで負けて買い出しに行ってたとかか?」

「え、えっと……ま、まぁそ、そんなと、ところです」


 こちらと目を合わさずしどろもどろで答える彼に違和感を覚える。

 ま、それはさておき。


「俺は白鐘凛。名札の色でわかるだろうが二年だ。君は?」

「え、えっと。い、一年のま、真闇(まくら)透で、です」

「真闇か。ここで会ったのも縁だし、よろしくな」

「は、はい。そ、それとパンをひ、拾ってくれてあ、ありがとう、ござい、ます」


 パンを両手に抱え、真闇はペコリと頭を下げると足早に去っていった。


「……うーん。よしっ」


 真闇の反応、大量のパンなどが気になり俺はしばし悩んだがこっそりと追いかけることにした。


(まぁ、勘違いだったらそれで良いんだけどな)


 ーーーーーーーーーー


「おっせーよブタガエル」

「ご、ごめんなさい。は、はいこれ」

「お、今日はちゃんとお使いできたじゃーん。やりゃ出来る子だって信じてたぜ」

「え、えへえへ。あ、ありがとうございます」


 校舎から離れた旧部室棟の隅。

 そこは前々から不良たちが根城にしており、それを知っている生徒たちは誰も近付くことはない。

 さらに誰も注意しないことで増長し私物化して好き勝手している。

 そんななか、不良数名は真闇が持ってきたパンを奪いゲラゲラ笑いながら各々食べ始める。


「あ、あの、先輩方。買ってきたのでその、お金を……」

「あ? ツケでおなしゃ〜す」

「俺は今月厳しくてさ〜」

「俺もお金が何故かどっかいっちゃってさぁ」

「お前それどうせパチだろ」

「だってよ、あの台絶対おかしいって。昨日だけで五万落としたのに出ても単発ばっかでさ」

「うっわ、ダッサ」


 お金を請求する真闇に不良たちは各々適当な理由をつけ、払ってくれるものは誰ひとりいない。


「あ、あの、その。僕も今月厳しくて。は、払ってもらえないと困ってて」


 薄ら笑いを浮かべながらどうしても払ってもらおうとした真闇だが、それを反抗と捉えた不良たちは先程までの下品な笑いが一瞬で覚め、睨み立ち上がり真闇の方ににじり寄る。


「日本語わかんねぇのかよお前は。ああん?」

「今ねえからツケって言ってんじゃんかよっ」

「ごえっ」


 真闇の言い分にキレた不良は腹に膝を叩き込み、痛みにうめき声とともにその場にうずくまった。


「あー、マジ萎えるわ」

「しょーちゃん、あんまやるなよ。服の下でも跡残ったらやべーし」

「わかってるって。うらっ」


 言葉では止めつつも誰も本気で止める者はおらず、その後も普段からは見えない部分のみを集中的に殴る蹴るなどの暴行を受けていた。


「俺等に歯向かったんだから慰謝料っての貰ってよくね?」

「いいねー。心を傷つけられたし俺たちの正当な権利っしょ」

「さんせー」

「はーい賛成多数で民主主義的?にお前の金をもらうことにけってーしましたー」


 ひとしきり暴力を行ったあと、不良たちは真闇のポケットから財布を取り出しお札を抜き取った。


「お、万札結構入ってる。ブタくんお金持ちじゃーん」

「あたし達がこの金有効活用してやっから感謝しろし」

「ほれ。いいことしてあげる俺たちにありがとうございます、わ?」


 臨時収入をゲットして上機嫌になりまた下品な笑い声を上げる不良たちにしかし、真闇は何も言えず痛みに苦悶の表情を浮かべうずくまっていた。


「鬼林センセー、あっちです。連れ去られていった生徒がいるのはー」

「ちっ。誰だよ」

「鬼林ってヤバいじゃん」

「おい、逃げんぞ」


 外から教師を呼ぶ声が聞こえ、不良たちは慌てて逃げていく。

 普通の教師であるならこうはならないが、鬼林だけは別だ。

 彼は体育教諭であり、今は殆ど見かけない熱血先生で知られる。

 さらに体育教師だけあって武道も色々と嗜んでいるというので肉体的にも対抗することはできない。

 まさに彼ら不良にとっては天敵のような人なのである。

 しかも金を盗っていたこの現場はどうやっても言い逃れができず面倒なことになるのは目に見えている。

 そう瞬時に判断し不良たちは鬼林が来る前に散り散りになって逃げていった。


「ま、嘘なんだけどね」

「え?」


 誰もいなくなったあとに出入口から声が聞こえ、真闇が顔を上げるとそこにいたのは鬼林、ではなく白鐘凛だった。


 ーーーーーーーーー


「あ、あの。あ、ありがとうございます」

「いいっていいって」


 ペコペコと何度も頭を下げてお礼を言う真闇に気恥ずかしさを覚え俺はなんでもないと苦笑した。

 真闇のことが気にかかりこっそりあとをつけていったら彼がパシられ暴行を受けている現場を目撃してしまった。

 なのでひと芝居を打ったのだがえらく簡単に釣れたため多少呆気なかったなとため息を吐く。


「学校で恐れられてるって言っても生徒である以上こんなもんが」

「あ、あの、えっと……」


 不良たちが去った姿を確認してからボソリと呟いた。

 最近生き死にの狭間を行ったり来たりしているから学生のはっちゃけくらいでは正直何も感じなくなってきている。


(やるならもっとヒリついた……あの時のるなとのみたいな)

「えと、せ、先輩……」


 真闇の言葉にハッと我に返る。

 今あまり抱いてはいけない感情が表出したのを自覚し俺は首を左右に振る。


(これも「百鬼」の影響か? 以前ならこんなに好戦的にな考えすら起きなかったのに)

「悪いぼーっとしてた。ほれ、立てるか?」

「あっは、はい」


 俺が手を差し伸べると真闇はおどおどしつつも手を出し掴んだ。

 その瞬間今まで感じたことがない奇妙な感覚を覚えた。

 ドロリと粘っこい、黒い泥に沈み込んでいくような不快なイメージ。


「っ!?」

「あ、いた。おーい、白鐘ー」

「ん?」


 誰かの呼びかけに意識を取り戻した俺は声の方を向くと猫宮姉妹が手を振っていた。


「そんなところで何してんの?」

「お腹すいた。白鐘凛も来る?」

「あー、そうだった。それじゃ俺は行くな。きつかったりしたら保健室行けよ」


 昼飯を食べようと思っていたことを思い出すと途端に腹の虫が再び「はよ飯よこせ」と抗議をしてきた。

 俺はとりあえず無事そうな真闇に挨拶をして猫宮姉妹たちのところに駆けていく。


「ーーーーーー」


 最後に真闇がなにか呟いたような気がするが聞き取れず、気にしないようにして俺は彼女たちと食堂へ向かうことにした。

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