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挨拶

『昨日夜、常世市のビルにて爆発事故がありました。その爆発事故に巻き込まれ、指定暴力団秋雨組の組員数名と葦高高校に在学している生徒数名が死亡、重症を負うなどが確認されました。組員と学生らの接点は今のところ不明であり、爆発事故においても誰かが引き起こしたものなのか、また事故の両面から操作を行っておりますがいまのところ原因はまったくの不明とのことで今後も引き続き捜査を進めているとーーー』


 あの事件から明けて翌朝。

 あのあとヴァンと合流したが、るなが大蜘蛛を倒しそこねたことにより癇癪を起こした。

 また当の大蜘蛛の百鬼使いの捜索もほぼ不可能と判断し、話し合いは翌日にとのことで家に帰った俺は思っていたよりも疲労していたのか、ベッドに潜るとすぐに眠気がきて起きたら朝になっていた。


「最近物騒になったわよね」

「ことねぇおはよう」


 制服に着替え、自室からリビングに行くと俺の姉、琴子がビシッとしたスーツ姿でトーストをかじりながらニュースを見て背後にいる俺に見向きもせず話しかける。

 俺はそれに挨拶を返しながら琴子が見ているニュースを見る。

 どうやらテレビでは昨日の事務所の一件が報じられているようだ。

 俺たちが暴れたことや百鬼については全く報道されてないようで少し安心した。

 俺も席に着き、手を合わせると「いただきます」と小さく呟き先に焼かれていたであろうトーストを手に取り口にする。

 まだ出来てそこまで経っていないのか、齧るとトーストの外側のサクサク感と中のもっちり感があり何もつけなくても美味しい。


(でもそれはそれ)


 2口齧ったあとテーブルに置かれているいちごジャムとバターを取りトーストに塗ってまた食べる。

 バターの塩味とジャムの甘みが合わさってさらにトーストが美味く感じる。


「一昨日は廃ビル爆発でしょ? 過激派のテロでもやってんのかしらね。本当に面倒事ばっか起こすわよね」

「その様子だと昨日も深夜帰り?」

「そうよ。それで朝は普通出勤ってブラックもいいところよ」


 琴子は警察官であり、仕事は不規則だ。

 仕事柄遅い時は朝などになることも結構多かったりする。

 職務上言えないことも多いだろうが時折こぼす愚痴からストレスフルな職場なのは容易に思考できる。

 そんな琴子は先程シャワーを浴びたばかりなのか、黒のロングヘアーがまだ少し濡れていた。

 化粧でクマは隠れているがその顔色や言葉から疲れも滲み出ている。


「いつものことだけど、ことねぇには感謝してるよ」

「そう思うならコーヒーの1杯でも淹れてきて」

「はいはい」


 俺は苦笑しつつ、もう少しトーストを焼くついでにコーヒーを入れる。

 両親を早くに亡くし、姉である琴子が働きに出ており、こうやって俺もなんの苦労もなく高校まで通わせてもらっている。

 その感謝の気持ちからか今まで姉に反抗せずに過ごしている。


(まぁ今は話したくても話せないことができてるけどな)


 そんなことを考えているとチンっと音とともに出来上がった2枚のトーストとコーヒーを手に戻り席に戻ってまたバターとジャムを塗ってものの数秒で平らげていく。


「やばいことで思い出したが凛。変なことに巻き込まれたとかはないよな?」

「藪から棒になんだよ」


 姉からの言葉に最初笑って誤魔化そうとしたが彼女は至って真剣な表情でこちらの目を見ている。

 その鋭い眼光に一瞬心臓が鼓動を早めたが直ぐに自分を諌めて落ち着かせる。


「いやな。不審な爆発事故。つい先日お前の同級生が怪我で入院していることと似ているからな」


 じっとこちらを見つめ人差し指を鼻に当てている。

 人を観察する時の姉の昔からのクセだ。

 この時の彼女の勘は妙に冴えているため動揺した言動を見せると直ぐにそこを突き誘導してくる。

 彼女が若くして警部補にまで昇ってきた理由のひとつだろう。

 だが俺は一切の動揺を見せずにしれっと受け答えする。


「ことねぇ、俺は一般市民よ? なんだってヤーさんの事務所に近づこうと思うわけよ」

「お前の友人。確か瑚々無双一と言ったか。彼が倒れていた廃ビル付近で背の高い学生服の男子を見たって情報があってな」

(あちゃーっ。あれかー!)


 るなたちと初めて会ったあの日、やはりというか誰かに見られていたようで姉の琴子の耳にばっちり入っていたようだ。


(どうする。百鬼のことは話せないし話したところで信用されるかも分からないし)

「数秒間の沈黙に目が少し左に逸れたな。何か知っているなら吐けば情状酌量の余地はあるぞ」

「あいででででででっ」


 俺のほんの少しの動作に疑いを持った姉はこちらの隙をついて背後に回り右手首を捻りあげられ、激痛に声を上げた。


「け、警官が暴力振るうなんて横暴だ」

「暴力ではない。家族間のスキンシップだ」

「いやそりゃ無理あるだろ」

「この家においては家長である私が神であり絶対的な法だ」

「理不尽すぎるっ!?」


 手首を極められ涙目になりながらも俺は冷静に思考し背負い投げの要領で体を捻り無理矢理振りほどいた。

 もちろんその際姉を投げ飛ばして怪我させないよう配慮しつつ。


「ぬっ!?」


 予想外の、しかもアクション俳優も真っ青な俺の動きに驚き硬直している姉。

 

「ハッ!? あ、いやーそのー……あっとしまった今日は日直の仕事があったんだったというわけで行ってきます!!」


 今が好機と俺は姉が放心している隙に早口で捲し立て全力で 鞄を取りに行き玄関を出た。

 我ながら酷い言い訳にもなってない言葉だと思いつつ、今は逃れることに注力すべきと判断した。

 我に返っただろう姉が部屋からなにか大声を出していただろうが聞く耳より足を動かすことに集中し家から離れていく。


(今はいいけど、帰ったら今度はヤバすぎるだろうな)


 帰った時のことを考えると生きた心地がしないが、それはもう未来の自分に託そうと半ば諦め学校へと向かっていった。

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