回収?
「倒した、でいいんだよな?」
「……たぶんね」
なんというか、あっけない感がありあまり達成感はない。
(まぁ俺はサポートでるなが戦ってたからってのもあるが)
俺はるなを降ろしたあと、とりあえず周りを見回す。
ヤクザや学生たちは全員倒れ動く気配がないが、時折呻くような声や呼吸はしているので死んではいないだろう。
そしてなにより彼らの体に張り付いていた糸が消えているのも確認できたところで、大蜘蛛を倒せたのはほぼ確実だろうとほっと胸を撫で下ろした。
「そう言えばこいつが大蜘蛛の宿主なんだよな? どうすんのこいつ?」
大蜘蛛の宿主である桂木は先程から白目をむき、ピクリとも動かないためヴァンに今後の処遇を聞く。
『ひとまずそいつには聞きたいことがある。悪いが私のところまで連れてきてもらえないか?』
「分かった。それじゃーーー」
「ちょっと待って」
ヴァンの頼まれごとに了承しようとした時、るなが待ったをかけた。
「るな?」
『凛、どうかしたか。なにかトラブルかね?』
「いや、るなが気になることがあるみたいで」
『……るな、状況を教えてくれ』
凛はインカムをるなに渡す。
『百鬼』関連なら俺よりは話がわかるだろうと判断してだ。
「灰にならないし核が出ない」
『なに?』
「灰とか核とか、どういうことだ?」
知らない単語が出てきたのでるなに話しかけると彼女は目だけこちらに向け口を開く。
「『ヒャッキ』は死ぬと宿主も一緒に体がボロボロの灰になって消えてくの。で、その後「ヒャッキ」の方も心臓である核が出てくるはずなんだけど……」
ちらりとみなは倒れている桂木を見る。
先程話していたとおりなら桂木も灰になるはずなのに何も起こっておらず、気絶しているだけだった。
『蜘蛛を、体を割いて中を調べることはできるか?』
「……あんたが大蜘蛛を調べてよ。るなはヤダ」
「は? なんで俺が」
「蜘蛛の中なんてキモいから触りたくない。あっきーが触ってるのも見たくないし」
るなは心底嫌そうな顔をしてそっぽを向き俺にやらせようとする。
「……分かったよ」
ここで押し問答していても仕方ないと判断し、大人な俺が大蜘蛛に近づき触れようと手を伸ばす。
すると大蜘蛛の体がいきなり膨張しはじめた。
「なっ!?」
「きゃっ!?」
パンパンに膨らんだ大蜘蛛は破裂すると蜘蛛の糸の束が四方に飛び散り俺やるなの体にまとわりつき身動きが取れなくなった。
「いやー、ネバネバきもちわるい〜」
「くっそ、このっ」
なんとか蜘蛛の糸をほどこうと藻掻がくが粘着性のいるいとは断ち切れずさらにくっつき絡まっていく。
そんな中で目の前にある大蜘蛛の破片からもぞりとなにかが動くのが見えた。
「あー!」
そこには手乗りサイズほどの小蜘蛛が這い出てきた。
恐らく今まで見せていた大蜘蛛の姿は自身の糸を張り巡らし作っていたハリボテで、あの小さいのが本体だったのだろう。
大蜘蛛(もとい小蜘蛛)はこちらと目が合うと「ぎぃぃぃっ」と悔しそうな声で鳴くと、糸を吐き出し桂木に巻きつけると素早く開けた天井から一緒に逃げ出してしまった。
「逃げんなー。この、もう、もうもうもうっ」
苛立ってその場で地団駄を踏むるな。
もう少しのところで倒せたのだから余計に腹ただしいだろう。
「見事にやられたなぁ」
しばらくしてようやく蜘蛛の糸から抜け出すことが出来た俺はるなの体についている糸も取りながら嘆息する。
しばらくどうしようかと考えていると遠い場所からパトカーのサイレンが鳴るのが耳に届いた。
あれだけの音を出したんだ。誰かが通報したのだろう。
「ひとまず撤退だな。るな、行くぞ。この人たちは……そのままでいいか」
ぶすっと頬を膨らませ不満げな顔をするるなの耳からインカムを返してもらい、今度はお姫様抱っこをする。
るなはムスッとしているが今度は抵抗せず俺の腕に身を委ねてくれた。
「ヴァン、作戦は失敗っぽいからここから離脱するわ」
『分かった。前のマンションで落ち合おう。るなを頼むよ』
「はいよ」
インカムを切ったあと天井から脱出し、警察が来る前にそのビルを後にした。
ーーーーーーーーー
「う、うぅ……ここはどこだ?」
桂木が目を覚まし周りを見回す。
そこは先程までいたヤクザの事務所ではなく、ぼろぼろな廃工場の中だった。
「ぐっ。あいつら、いきなり現れて無茶苦茶しやがって」
途中までいい気持ちで遊べてたのに急に現れた二人を思い出し苛立ちが募ってくる。
「まさか俺と同じように超能力が使えるやつに出くわすなんてよ」
桂木は唸りながら二人の行動を思い出す。
男の方は分からないが、少なくともあの少女は自分の手を使わずに壁を破壊したりしているところから見て間違いないだろう。
「てことは、『奴』が言ってた俺の力を奪いに来たって、奴らのことだな……?」
自分でそう呟いたところでふと何か引っ掛かる。
小さな黒い点。だがその点がじわじわと脳に広がって違和感となり気持ち悪い感覚が体中を駆け巡る。
「待てよオイ。『奴』って、誰のことだ?」
確かにこの力は誰かから渡された。それは真実だ。
だが、肝心の『奴』の姿形が思い出せない。
「あれ? だってこれは……え?」
冷たく不気味な感覚が桂木の心を蝕んでいく。
「っ!? そこにいるやつ、誰だ!?」
ふと影が差している事に気づき、後ろの出入り口の方を向くと人がひとり立っていた。
だが影が濃く、フードも被っているためか姿形は確認ができない。
その影はゆっくり桂木に近づいてくる。
「な、なんだよてめぇ。やんのかコラ!?」
「············」
精一杯虚勢の声を張り上げるが、不気味な影は何も語らない。
「へ、へへへっ。おい、それ以上近づいたらぶっ殺すぞ!!」
桂木は自分の力があることを思い出し笑みを浮かべ影の人物に警告する。
すると影は進めていた足をピタリと止めた。
「そうだ。素直にどっか行けば命は取らねぇでおいてやるよ」
言うことを聞いた影に桂木は勝ち誇ったように笑みを深めて命令する。
しかし影はしばらく立ち尽くしていたがすぐに歩みを再開した。
「て、てめぇ。脅しじゃねえからな。おい、目の前にいるあいつを殺せっ」
自分の命令を無視する影にキレた桂木は何時ものように見えないナニカに命令を出す。
だが何も起こらず、聞こえるのは影の足音のみ。
「……は? な、なんで何も起こらねぇんだよ。今まで俺の言う通りになってたじゃねぇか!?」
急に力が使えなくなり混乱する桂木に、影は指を鳴らす。
「な、なんで体がっ!?」
すると両手両足、頭部が突然言うことを聞かなくなり、その姿はまるで操り人形のようなだらんとした格好になった。
焦った声を出す桂木の体は影が指を動かすと桂木の意思に反してゆっくり関節が捻り出し始めた。
「い、痛ででででっ!! や、止めろふざけんな!?」
ミシミシッと体が軋む音が聞こえてきそうで桂木は痛みに叫ぶ。
だが影は緩めることはせず、かといって早めることもせずゆっくりと普段とは逆方向に動く。
「わ、分かった。暴言吐いたのは謝るからよ。悪かっただだだだだ、いってぇー!!」
体は捻じれ反れていき、ついにはボキッと嫌な音がした。
「ギャーッ!! や、やめ、骨、折れっ」
桂木の骨が負荷に耐えきれず次々に折れていき、激痛に泣き叫ぶも止めることはせずにさらに続けていく。
そしてついには筋肉や神経もプチプチと千切れていき、桂木は涙と鼻水で顔をグシャグシャにして謝罪を呟き始める。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさーーー」
壊れたおもちゃのように同じことを繰り返し許しを乞うていたがついにゴキャッと耳障りな音を最後に桂木の声は聞こえなくなり、ドサッとその場に倒れた。
「……喰え」
影は一言呟くと小蜘蛛はギィーと鳴き、桂木を食い荒らした。
「せっかく遊ばせてやったのに。使えねぇやつ」
そう吐き捨てると影は出入り口の方へ歩いていく。
そして廃工場には誰もいなくなった。




