醜悪な遊戯
「つまんねぇなぁ。オイ、なんか面白いこと言えよ」
「え、えっと」
「チッ。つっかえねぇな」
「す、すすすみません」
組の事務所として使われているビルの一室。
金髪のチャラ男、桂木空也はタバコをふかしながら革張りのソファにもたれかかっている。
「おんどれ、ワシらに何しよったんじゃ!?」
「これ解いて今すぐ詫び入れるなら半殺しですましたるわ!!」
その側では本来のこの部屋の持ち主であるヤクザたちが直立不動で桂木に怒声を浴びせている。
身を左右に捩らせているがそれ以上のことはできずただドスの効いた怒声を投げかけるだけだ。
そのシュールな光景は第三者から見れば不気味であり滑稽にも映るだろう。
「うっわこっわw 動画撮ってサイトに載せたらバズんじゃねこれw」
桂木はゲラゲラ笑いながらスマホをヤクザに向け録画する。
すると突っ立っていたヤクザたちがくねくねと変な踊りを踊り始める。
「か、体が……」
「なんじゃこりゃ。と、止まらんかいっ」
ヤクザたちもわけが分からず困惑した表情で止めようと体に力を入れるも言うことを聞かず余計に焦った顔をする。
そんな光景に桂木はまたギャハハと笑う。
「ブッサw きんもっw でーもーさー、まさか俺にこんなすげえ力があるなんて知らなかったよな。おかげでこーんなことやっても誰も俺に手を出せねぇんだからよ」
「す、すごいよね。かつ、桂木くんはやっぱり」
桂木が上機嫌でいると、横にいた小太りな少年が薄ら笑いを浮かべ彼を褒める。
「俺の名前をきやすく呼んでんじゃねぇよブタガエルがよぉ」
「ぐぇっ。う、うぐ」
桂木は少年の反応が気に入らないのか、腹に蹴りを入れると彼は簡単に吹っ飛び腹を抱えうめき声を上げる。
「ぎゃはははっ。「ぐぇっ」だってよ。マジでカエルみてぇな鳴き声あげんじゃん。今のは笑わせてもらったわ」
「え、えへ、えへへ」
少年の反応が桂木にはウケたようでまた下品に笑うと、それに合わせるように少年も痛がりながらも笑顔を作り脂汗をかきながら笑う。
「さーて、次はなにしよっかなー?」
ひとしきり笑うと次の玩具を探すように部屋をぐるりと見回し、学生たちで視線を止める。
彼らはさっきの小太りの少年と同様同じ学校の生徒でただ遊んでいただけだったのだが桂木によって事務所に連れてこられた。
彼らも最初は抵抗しようと試みたがヤクザたち同様体が思うように動けず、不安と恐怖でがたがたと震えている。
「なぁなぁ。早く帰りたいよな?」
「え、は、はい」
指を差された茶髪の学生はビクッと体を震わせ涙目で答える。
「そんなにビビんなって。はい立って立って」
怖がっている学生に桂木は人差し指をくんっと上げると彼はそれに従うように立ち上がる。
それを満足そうに頷くと、今度はヤクザの方を向いて値踏みするよう視線を送る。
「んじゃ相手はあんた。前に出てほらイチニッ、イチニッ」
「か、体が」
桂木は一人のヤクザを指差し前に来るように命令すると、ヤクザの意思とは関係せず手足が軍隊の行進のような動きで進む。
「はいストーップ」
また桂木が命令を出すとその言葉に従い、ヤクザは学生の目の前で直立不動の姿勢で止まる。
「それじゃ楽しいゲームのはじまりー。ルールは簡単。ヤクザをボコってダウンさせたら学生さんの勝ち。解放してやるよ」
「は、はい?」
あまりにも突拍子のない提案に、学生は喉から変な声が出てしまった。
「んー、人を殴る方法知らない? こうやってだ、なっ」
「ぐぼっ!?」
桂木は見本を見せると言わんばかりにヤクザの腹に拳をめり込ませた。
自身の体を守ろうにも体は動かず、無防備で攻撃を受けたためヤクザはその場に崩れ落ちる。
「あ、兄貴。てめぇぶち殺されてえか!!」
「やれるもんならやってみろってのバーカ!」
恫喝するもその場から1歩も動けないヤクザに桂木は舌を出して挑発する。
「ほらほら、解放されたいんだったら殴って蹴って〜♪」
「は、はいっ」
「うっ」
ヤクザを起き上がらせて学生たちを急かす桂木に、彼らは混乱の極みのなか言うことを聞き、桂木と同じように腹に一発入れる。
しかしヤクザは苦しそうに呻きはしたものの、倒れるまでには至らず踏みとどまった。
「ありゃー、残念だったねぇ。倒せなかったから罰ゲームだねぇ」
「え?」
にこやかに肩を叩かれた学生は一瞬何をされたのか分からなかった。
次に認識できたのは鳩尾に拳をめり込まされ痛みが全身を貫いたときだった。
「ぐ、うげぇっ!?」
体をくの字に折り口から胃の中のものをぶち撒けた。
「うっわ汚ったね。おいブタガエル、掃除しとけよ」
「う、うん。わ、分かったよ桂木くん」
「オイ分かったなお前ら。わかったらつぎつぎ〜」
桂木の命令で吐いた内容物を片付ける小太りの少年をよそに、ニヤつきながら次は茶髪の大柄な学生を指名する。
指差された茶髪の学生は自分の意志とは関係なく体が動き、ヤクザの目の前に立たされた。
「すいません、すいません」
「ぐほっ」
謝罪の言葉を何度もつぶやきながら前の学生と違い全力で腹を殴りつける。
すると今度は効いたのか片膝をついた。
「おー、おめでとー。君は勝ったから解放してやるよ」
パチパチと手を叩きながら満面の笑みを浮かべる桂木は素直に称賛の言葉を吐く。
「んじゃ開放する前に勝者であるキミにプレゼントだ」
「は、はい。あ、ありがとうございまーーー」
ようやくこの地獄の様の空気から開放されるという安堵でお礼を言う学生の前で、ばちゃっという液体が飛び散るような音と何かが顔にかかった。
それはとても紅く生暖かくて、鉄のような刺激臭がしてーーー
「おめでとー。はいみんな、勝者に拍手〜♡」
またパチパチと手を叩く桂木以外、言葉も、身動きも一切出来ず固まってしまった。
何故なら今目の前で行われた光景があまりにも現実離れしすぎていて。
先程までいたヤクザの兄貴の上半身が吹き飛んでおり、下半身と、学生の手に持たされた頭部があるのみだった。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?」
ようやく我に返ったのか学生は悲鳴を上げ手に持っていたモノを放り投げた。
「そして敗者には罰として死んでもらいまーす。使えないサンドバッグは廃棄しなきゃだよね」
悲鳴があちこちから上がるなか、桂木のみゲラゲラと笑っている。
「はい次の人ー、前に来てねぇ」
「嫌だ、嫌だァァァっ」
「や、止めろ。やめてくれぇっ」
学生はおろかヤクザたちも顔を青ざめが拒否の言葉を口にするも体は意に反して動き出してしまう。
「はい。ほんじゃ次のゲーム開sーーー」
ニヤついた桂木の号令が掛けれられるその時、轟音が響き天井が崩れ落ちた。
「うげっ。ぺっぺっ。このバカタレ。もっとスマートに出来ねぇのかよ」
「はぁ? るなに暴言はくの禁止なんですけどぉ。それにちゃんと奇襲にはなってんじゃん」
「ド派手すぎるんだよ。あと名前出すな。なんのための変装だよ」
粉塵が舞っているせいでよくは見えないが、誰かの声が言い合いをしている。
くぐもっているからか声からして男女なのは確かだ。
「まぁいいわ」
「いや良くはないが。とりあえず人が集まる前にサクッとやっちゃいますか」
粉塵が晴れてきて学生やヤクザたち、桂木の視界に映ったのはやはり男女らしき二人組。
パーカーとマスクで顔はわからないが声からして大人ではないだろう。
「なに、誰あんたら?」
桂木がつまらなそうな声で二人組に話しかける。
聞かれた当の二人は一度顔を見合わせたあとーーー
「聞く必要ないでしょ?」
「死人に口なしってね」
何でも無い、とばかりに男女は物騒な言葉をつぶやいたのだった。




