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初参戦

あれから小一時間ほどクレープを食べつつ話していた女子たちは日が暮れかける前に解散という運びになった。


「俺、こいつの家近いから送っていくわ」

「わかった。今日はごちそうさま。またいつでも奢ってくれていいからね」

「その時はもちろん私もだ」

「はいはい」

「おねえちゃんたち、バイバーイ♪」

「うん。バイバイ」

「気をつけるといい」


そう言って二人がいなくなるまでるなは無邪気な笑顔で手を振っていた。


「おい。もう二人からは見えないから笑顔止めろ気持ち悪い」

「はー? 円滑にまわしてあげてんのよ。るなってば空気読めてエラいよねー」


見えなくなった途端に、無邪気な子供の笑顔からダウナーな表情に変化し頬を揉みながら、今度はにやにやとした笑みで俺を見上げる。

その変わり身の速さに嘆息しながら俺は答えた。


「何が円滑にだ。お前のいらんイタズラでこっちは酷い目にあったってのに」


主に懐的な意味で。


「るなまだおこちゃまたがらー、他人の機微とかわかんなーい」

「空気読んでとか言ってたヤツが何言ってんだか。……んで、俺になんか用か?」


この問答はやっても無意味と知っ俺は本題に移る。


「おっちゃんが協力してくれってさ」

「ヴァンが? お前よこさず直接連絡してくれりゃいいのに」

「知んないよ。るなは言われたこと伝えに来ただけだし」


心なしかムスッとした表情でこちらに向け話するなに俺は少し考えてから口を開かせた。


「まぁいいぜ。今日は姉貴は泊まりだって言ってたから遅く帰ってもバレないだろうし」

「それじゃ行くわよ。ついてきて」


辺りを見回しながら路地裏へ行き、誰もいないことを確認するとるなはビルとビルの壁を使い上へと駆け上がって行った。

「すっげ」


感嘆の声をあげたあと、俺も追うようにるなと同じく壁を走り登って行った。



ーーーーーーーーーー



「来てくれて助かるよ」


るなに付いてきた先は夜の繁華街のビルの屋上。

俺とるなの二人がそこにたどり着くと、先に待っていたヴァンが紳士然な微笑を浮かべていた。


「それで、俺を呼んだってことは『百鬼』絡みってことだよな?」

「そういうことだ。あれが見えるかい?」

「って、どれ?」

「ここから真っ直ぐ先にあるかなり古めのビルの4階部分だ」


ヴァンがそう指定した場所を指差したのでその先を追うように見てみる。

十数メートルは離れている場所。

本来ならば肉眼では目視できない距離なのだが、これも「百鬼」のおかげだろうか。

強化された身体で目を凝らして見てみると、そこにいるのはテレビの中でしか見たことがないいわゆるヤクザの姿が複数人確認できた。


「どう見てもヤーさんだけど、あそこで何がーーー」


言いかけて俺は違和感を覚え口を噤んだ。

一つはそのヤクザの中心にいる人に。


「うちの高校の制服じゃん」


そこにいるのは俺の通う高校の制服を着た生徒が数人、奴らに囲まれて怯えていた。

二つ目はなにより奥に座っている、ヤクザとは雰囲気が明らかに違う、チャラそうな金髪の兄ちゃんが偉そうにソファーにふんぞり返り、他のヤクザをあごで使っていること。

そしてそのチャラそうな金髪の男の後ろにいる影にーーー


「あれは、蜘蛛か?」


人よりも大きな蜘蛛が糸を張り巡らせており、その糸はヤクザたちの体の手足や頭に張り付いていた。

そしてよくよく見てみると、付き従っているヤクザたちは今にもブチギレそうな表情でチャラ男を睨んでいる。


「どう見てもあの蜘蛛に操られてるよね。あれも『百鬼』でいいんだよね?」


確認のためにヴァンに尋ねると、彼は首を縦に振って肯定した。


「私達が探しているものではないのだが、討伐しておいたほうがいいだろう」

「つまりは宿主ぶっ殺せば終わりでしょ。いつものことじゃん」

「それはそうだがやるなら時間を掛けずに強襲、速攻からの即撃破が望ましい」

「はいはい。遊びはなしでってことね。りょーかーい」

「ヴァンはどうするんだ?」

「私はここで君たちに指示を出す。私の体ではどうしても目立ってしまうからね」

「まぁ、確かにな」


肩をすくませるヴァンに俺も同意する。

なんせ二メートルを超える巨漢だ。

否が応でも人目を引いてしまうため、こういった作戦では不向きだろう。


「んで、俺はどうすれば?」

「キミはるなと一緒に行ってくれ。彼女が暴走しないようにサポートをしてくれ」

「あー……へいへい」


軽くストレッチをしながら暴力的な笑みを浮かべているるなを指差すヴァンに俺は察す苦笑した。

つまり今回呼ばれたのは暴走するあいつ(るな)を抑える役目、ということなのだろう。


「あと、最低限の変装はしておけ」


そう言ってヴァンは俺とるなに投げて寄越す。

それを受け取り広げると真っ黒なパーカーにお面、そして耳に装着するタイプの通信機だ。

どれも量販店で買えるようなものだが、通信機だけは特注で作られているのかちょっと材質が違う。


「るな、これつけるのやだっ。ダサいじゃん」

「ならば今回は凛のみで私達は待機だ。それでいいならば付けずに済むぞ」

「むぅぅぅっ」


るなの頬を膨らませながらの抗議もヴァンにバッサリと切り捨てるように嗜める。

今からヤバい戦いが始まるというのにのんきな空気で、初参戦となるというのにも関わらずこちらの緊張も変にほぐれたような気がする。


「うっし。んじゃ、行きますか」

「仕切んないでよね、るなの方が『ヒャッキ』の戦いではセンパイなんだからね」

「……はいはい」


俺を押しのけてるなが先に飛び出し、ビルからビルへと飛び移っていく。


「それではるなをくれぐれもよろしく頼む。君もあまり使いすぎないようにな。もしものことがあれば、最悪私も加勢に出るよ」

「前者は分からん。後者は助かる。それじゃ行ってくる」


ヴァンに挨拶し俺はフードを被り面を付け、るなの後を追って同じように移動していった。


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